第42転 合流
洞窟改め根の国を俺とオルフェウスが行く。
道中、オルフェウスから闇の元素についての話を聞いた。
闇の元素とは物質化した負の感情であり、負の感情とは呪いの事であり、人の死後に残るものだった。呪いは冥府に廃棄されていたが、いっぱいになってしまった為、異世界に廃棄する事にした。異世界転生軍がこの世界に来たのはその呪いの廃棄を止める為と思われる。そういう話だった。
「ド畜生か、神々? そりゃあ異世界人からしたら『ふざけんな!』ってなって当然だろ」
「呪いによって具体的に何が起きて、どれだけの異世界人が死んだか分からないけど、まあ小さくない被害だっただろうね。その原因が地球にあると分かれば、恨み爆発するというものさ」
「だからといって地球人類大量殺害なんて真似が許される訳じゃないけどな」
オルフェウスと合流してから死霊共は寄ってこない。歩きながらずっとオルフェウスが琴を弾き続けているからだ。琴の音色には魔除け・除霊の効果があるらしく、死霊は音色の届く範囲には留まれずに退散する。
「きみは異世界人には同情しないんだね」
「被害者であれば幾らでも加害者になっていいなんてルールはないんでな。加害者に転じた時点で俺は容赦しない。それに見ず知らずの人間に同情するほど優しかねえよ」
「成程、さすが鬼斬り桃太郎だ。冷徹で厳格だね」
「引いたか?」
オルフェウスの喋り方はどこかフラットだ。穏やかすぎるというか感情に抑揚がない。常に微笑みを絶やさず、何事にも動じない印象だ。
「いいや、別に。ただぼくとは少し考え方が違うなとは思ったね。ぼくも同情はしないけど、加害者だから容赦しないという訳でもない。こちらに向かってきたら返り討ちにするくらいだ」
「降り掛かる火の粉は払うタイプか。相手の事情には拘らないって訳だ」
「そういう事」
オルフェウスは生前、怪物退治をするような人間ではなく、詩を嗜む旅人だったと聞く。であれば、可能な限り争い事は避けて、危険が迫った時だけ対処する生き方になるのは自然だ。
「とはいえ、俺だってさすがに何とも思わない訳じゃないんだけどな」
浅井竜政は――『勇者』アーザーは見ず知らずの人間じゃないからな。
異世界であいつが何を見て、何を知ったのかは知らない。知らないが、碌なものではなかったのだろうという予想は付く。でなければ、異世界転生軍に参加して地球に攻め入るなんて真似はするまい。看過できない何かがあったからこそ、あいつは剣を手に取った筈だ。
それが地球の澱みなのだとしたら……果たして俺はあいつを単純に斬り伏せて終わりにしていいものか。いや、そもそも俺はあいつと真正面から戦えるのか。幼馴染と剣を交える事が俺にできるのか。
なあ、タツ。お前は今、何を考えているんだ?
いや、お前が考えている事なんて一つだけだよな。人を救う、お前にはそれだけなんだから。詳細は未だ不明だが、お前の目的なんて異世界を救う事以外ないのだろうよ。
「それにしても、闇の元素がこっちの世界由来だったとはな。じゃあ、地・水・火・風なんかもこの世界に実在していたのか?」
「うん、そうだよ。神代の時代には当たり前に四元素も闇もあったのさ。西暦の始まりを境に減少し、科学の発展と共に人間には観測できなくなってしまったけどね」
「へー。現代の人間には分からないのか」
そういえば、常世も現代の人間には発見できないらしいな。物理法則に則ったやり方では魔導法則でできたものを感知できないからだとか。元素もそれと同じという事か。
などと雑談している間に目的地に到着した。石造の神社だ。冥府には樹木がないから建築物は何もかも石で造るしかないのだ。
石神社の前にはネロと波旬と見知らぬ男がいた。金髪碧眼の偉丈夫だ。誰だろう? 疑問には思うが、ひとまず三人の下に駆け付ける。
「ネロ! KIPさん!」
「やっほー、モモ」
「よう、小僧。そっちは?」
皆の視線がオルフェウスに向く。視線の中心でオルフェウスは穏和に自己紹介をした。
「やあ、ぼくはオルフェウス。またの名を琴ノ音オルフ。よろしくね」
「ほお、琴ノ音オルフ。お前がか」
オルフェウスの当世の名を聞いて波旬が興味深そうに笑む。
「こっちはネロ。俺は第六天魔王波旬、もしくは『WOWARI』のKIPだ」
「ああ、『WOWARI』の。それはそれは……ふふ、会えて光栄だね」
「ここで知り合えたのも何かの縁だ。生きて帰ったらコラボ曲を出さねえか?」
「いいね、それ」
ええええええええええっ!? マジで!?
この二人が!? コラボ!? 嘘だろそんな事があってええんか!? そんなの宇宙の変わり目じゃん! こんな場面に居合わせていいのか、俺が!? ふぇええええええええええっ!?
「……盛り上がっているところ悪いが、もういいか?」




