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第20・5転 風雲急を告げる

「ちくしょうっ……!」


 奥歯を噛み砕くほど歯軋りをして、地団太を踏む。

 なんたる失態だ。なんたる醜態だ。目の前でみすみす竹を攫われてしまうなんて。しかも、ああも俺の攻撃を易々と躱されてしまうなんて。挙句、二の足を踏むなど間抜けもいいところだ。どうして俺はあそこで追撃ができなかったんだ、畜生が。

 こうしてはいられない。一分一秒でも早く彼女を取り返さなくてはならない。


「カルル、イゴロウはどこに行ったんだ!? いや、鳥取砂丘って言っていたな。鳥取砂丘には何があるんだ?」

「えっ、えっ!? と、鳥取砂丘には今、恐らく異世界転生軍の駐屯地(アジト)があるかと……」

「連中のアジトか」

「正確にはイゴロウ殿の私兵部隊である『貪る手の盗賊団』のアジトなんですがな」


 私兵とか私兵じゃないとか、そんなのはどっちでもいい。重要なのは異世界転生軍の拠点の一つだという事だ。多分、ここまで遭遇した部隊とは比較にならない兵力が集まっているだろう。

 だが、そんな程度では躊躇う理由にはならない。竹の身が(かか)っているのだ。


「行くぞ、案内しろ」

「いやいやいや、ちょっと待ってくだちい、吉備之介殿! 本気でイゴロウ殿のところに行くつもりですか!?」

「当たり前だろ、行かない選択肢があるか?」


 夜明け前に行かなければ竹を殺すとイゴロウは宣言した。だが、それを信じるほど俺も素直ではない。奴は夜を待たずに竹を殺すかもしれない。殺すまではいかなくとも、竹に何かするかもしれない。

 あのクズ野郎(デクスター)を属していた組織の人間だ。何をしでかすか分かったものではない。一刻も早く竹を救出しなくては。


「それはそうでしょうけど、相手はあの『終局七将』なんですぞ! 軽率に戦っていい相手じゃないです!」

「そうは言うがな……!」

「『終局七将』の七人は()()()()()()()()()()()と互角なんです! それくらい強さに差があるんですぞ! 無茶です!」

()()()()()と互角……?」


 各国軍に圧勝し、地球人口を半減せしめた異世界転生軍十三隊。それとたった七人が同等の戦闘力だというのか。しかも、それはカルルやクリト・ルリトールみたいな隊長格を含めての事なのか。

 カルルもクリトも強敵だった。あんなのが十三人もいるだけでも脅威なのに、そこに魔法世界の猛者達を二万人近くも追加だ。それを七人で上回るという。(にわ)かには受け入れ(がた)い話だ。だが、カルルが言う以上は事実なのだろう。恐るべき戦闘力だ。


「罠を張っているのか実力で返り討ちにするつもりなのか分かりませんが、向こうは自信があるから待ち構えているんですぞ」

「それは……そうかもしれないけど」

「勝ち目のない戦いに赴く理由はありません。ここは逃げるのも手の一つではないかと」


 だからといって、ここで尻尾を巻いて逃げる訳にはいかない。逃げれば竹の命はない。それだけはできない。


「獣月宮を見捨てろっていうのか? 馬鹿を言え! そんな真似ができるか!」

「だからってあんたが殺されてもいいって事にはならないでしょうが!」


 俺が殺される。その言葉に心臓が一拍だけ怯える。刀を握る手に思わず力がこもる。


「拙僧だって竹殿を見殺しにするのは寝覚めが悪いですが。それでも自分が死にに行く真似はできねえってんですよ!」


 駄目だ。カルルは完全に逃げ腰だ。積極的に戦ってくれる事はまずないだろう。

 だが、カルルの言う事も一部は理解できる。敵は『終局七将』、真正面から赴いても敗北する可能性の方が高いだろう。せめてもう一人輪廻転生者がいれば話は違ったかもしれないが、そんな当てなどある筈がない。

 だが、竹の身の安全を考えれば、やはり逃げる選択肢はない。不利は承知でも挑むしかない。最悪の場合、カルルには期待できないので、一人で戦う羽目になるかもしれない。


 ――それでもやるしかない。

 そう宣言しようと口を開こうとした、その時だ。


「そうそう、その辺もうちょっと聞かせて貰いたいネ」


 俺達二人の会話に割って入る声があった。

 振り返れば、そこに立っていたのは一人の少女だった。年齢は十代前半――中学生くらいだろうか。金髪碧眼の美少女だ。目はぱっちりとしていて、頬はシュッとしている。服装はフリルとレースをふんだんにあしらった真紅のドレスだ。まるでアイドルのような美貌だ。


「えっ、だ、誰だ……!?」


 燃えるスーパーマーケット、転がるゴブリンの死体という凄惨な現場に似つかわしくない美少女の登場にやや驚く。

「誰だ?」という俺の言葉を「何者だ?」という問いではなく、「名前を名乗れ」と解釈したのか、彼女は愛嬌たっぷりにこう挨拶をした。


「チャオ! ボクはネロ。よろしくネー☆」

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