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第20転 斬首(クビ)

 アポロン。

 ギリシア神話における太陽神。オリュンポス十二神の一柱。太陽以外にも音楽や哲学、疫病や医術、牧畜や予言などを司る多才なる神。弓の名手でもあり、金の矢を所有する。ボクシングの創始者としても知られている。



◆  ◇  ◆



「『終局七将』……?」


 何だそれは、とその名を口にしたカルルに尋ねる。当のカルルは緊張からなのか怯懦からなのか震えが止まらないままに答えてくれた。


「幹部七人の通称ですわ。異世界転生軍を纏め上げる実力者、他の異世界転生者とは格が違う大英雄、地球人類と神々に終局をもたらす凶人達。その席に坐するに求められる資格はただ一つ」


 それは、


物語の結末(エンディング)を迎えた事。魔王討伐か、それに匹敵する大偉業を成し遂げる事。転生した目的を果たす事。終演・終幕まで到達した者達――故に終局。だからこその『終局七将』なんですぞ」

「魔王討伐……」


 魔法世界カールフターランドには魔王と呼ばれる存在がいると聞く。魔界より現れた王、魔族を統べる王、魔法を従える王――それが魔王だ。異世界人類の不俱戴天の仇であり、カールフターランドの歴史は魔王との戦いによって紡がれてきたと言っても過言ではない。

 魔王を討伐する事が異世界人類の悲願であり、命題だ。その魔王をこの男は倒した事があるというのか。


「カルルのさっきの質問に答えてないわよ。あんた、ここに何しに来たの?」


 震えるカルルに代わって竹が話を続ける。顎髭の男――イゴロウはどこまでも鷹揚な態度で答えた。


「何しにって、輪廻転生者を探していたんだよ。ああ、お前らじゃねえぜ。この辺にいるって噂の奴だ。まだ見つかってねえけどな」


 この辺にいる筈の輪廻転生者、それは俺達も探している人物だ。そいつが乗る予定の飛行機に一緒に乗せて貰う事で、魔王城に行こうとしていたのだ。まだ見つかっていないという事は行方不明なのか。こいつらに殺されていないのは僥倖だが、一体どこに行ってしまったというのか。


「あんたも輪廻転生者狩りをしているのね。クリトやカルルと同じで」

「まあな。決闘の日までまだ時間がある。それなら、できる事はやっておかなきゃな」

「いや、だからといって幹部である貴殿がこんな前線にいる必要はないでしょう!」

「俺様がいると困るのか? 裏切り者のカルルちゃんよお。お前がそっちに付いたのは二番隊副隊長(コツコッツ)からタレコミ入ってんだよ」

「うっ……それは……」

「貴様ら、何を悠長に会話しているかあああああっ! 我が深手を負っているのだぞおおおおおっ!」


 俺達が会話していたらデクスターががなった。両腕と下顎を斬られたというのに元気な奴だ。


「ああ、そうそう。デクスター、お前にも用事があってな」


 そんなデクスターにイゴロウは何とはなしに近付く。


「お前もう用済み。って事で斬首(クビ)な」

「は……?」


 いつの間に鞘から抜いたのか、イゴロウの短剣が翻る。軽い、あまりにも軽い一撃だった。ただそれだけでデクスターの首はあっさりと胴から切り離された。地面にぼとりとデクスターの生首が落ちる。


「んなっ……何を、イゴロウ殿! デクスター殿は仲間ではないでつか!?」


 デクスターの突然の死にカルルが仰天する。あのような略奪行為に走っていた相手とはいえ、それなりに仲間意識はあったようだ。


「貴様あああああ! 同志を手に掛けるかあああああっ!」

「うわっ、喋った!」


 地面に転がったデクスターの生首がなおも喚いた。信じられない生命力だ。


「テメェだって散々殺してきたんだから殺されても文句は言えねえよ。因果応報だろう」


 言われたイゴロウはにべもなくそう返した。たった今、凶刃を振るったとは思えない冷酷さだ。


「な、なななっ……何をおおおおおおっ! 我は、我は正しいのだぞおおおおおっ!」

「正しかねえだろう。俺達ゃ悪党。お前がそういう考え方をしているからな、俺達はお前を捨てる事にしたんだわ。放っておくと何をしでかすか分かんねえ奴を生かしちゃおけねえ。もう国家規模は蹂躙し終わった。お前の馬鹿火力ももう必要ない」

「ちっ……くしょ……。…………」


 イゴロウに拒絶され、デクスターの瞳から光が消えて呼気が抜ける。ようやく死に至ったようだ。さすがのこの怪物も生首になった状態でいつまでも生きていられなかった訳だ。


「さてと」


 デクスターから目を離し、イゴロウが俺達に向き直る。


「これからお前らを殺さなきゃいけねえんだが。んんん、三対一だとさすがに俺様が不利だな」

「だったらどうするんだよ。尻尾を巻いて逃げるか?」


 逃がすつもりはないがな。イゴロウに不利という事はこちらに有利という事だ。この機を逃す手はない。可能であればこいつはここで叩いておきたい。


「そうだな。だが、テメェらを見逃すってのも体裁が悪い。そこでだ。――【攫取】」

「あ?」

「え?」


 イゴロウが右手を振ったと思った直後、奴の右腕の中に竹がいた。竹はたった今まで俺の後方に立っていた筈なのに一瞬にして移動したのだ。何だ今の。一体何が起きたというのか。


空間転移(アポート)……!?」

「イゴロウ、お前! ――【大神霊実(おおかむづみ)流剣術追儺(ついな)】!」


 即座にイゴロウに飛び掛かる。繰り出すは刺突。間違っても竹に当てないようにと点の剣技だ。最高速度で放つ俺の剣を躱せる奴などこの世にいる筈もなく、切っ先はイゴロウの左肩を貫く――筈だった。


「おおっと」


 だが、イゴロウは回避した。まるで予めそういう運命だったかのようにあまりにも自然に――自然すぎて不自然なほどに俺の刺突を躱してみせた。


「危ねえなあ。手元が狂ったらどうするつもりだ?」

「見切られた……!? 俺の最高速度が!?」


 驚愕する俺を嗤いながらイゴロウが指笛を吹く。横の路地から白馬が現れた。片腕で竹を抱きかかえたままイゴロウが馬に飛び乗る。


「女を返して欲しければ鳥取砂丘まで来い! 夜明けまでに来なければ女を殺す! いいな!」

「百地!」

「獣月宮!」


 竹が俺に向かって手を伸ばす。だが、届かない。馬脚の速度もさる事ながら、俺の剣を躱した相手を警戒する心理が俺に二の足を踏ませる。あっという間にイゴロウの姿が遠ざかっていく。


 竹が異世界転生軍に攫われた。

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