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第18転 vs.ゴブリン部隊

「ええっ!? ちょっと!」


 カルルの返答を待たずゴブリン共に斬り掛かる。こいつらは鬼だ。人殺しの人外種族だ。ならば、ここで斬り伏せるのに一切の罪悪感はなし。


「ギイィ、ジャマヲスルナァ!」


 ゴブリン共が俺にワッと殺到する。武器は棍棒が半分、ナイフが半分だ。なまっちょろい動きだ。そんな遅さでは到底俺には届かない。

 攻撃を躱しつつ左右に刀を振るい、ゴブリン共の首や腕を斬り落とす。鮮血が弧を描き、汚らしい悲鳴が飛び交った。


「ギィィ、キサマァァァァァ!」


 とはいえ、二十数体もいるとなれば討ち漏らしもいる。無事だったもののみならず、腕を失いながらも首は落ちなかったゴブリン共までもが俺へと集まってくる。略奪者(カス)といえ根性はあるようだ。何体で来ようと斬り伏せてくれる。そう思った時だった。


「百地、高く跳んで!」

「!」


 竹の指示に従って強めに垂直跳びをする。俺の身体が一気に十メートルほどの高さに到達した直後、竹が宝玉を放った。


「【龍の首の珠・轟咆】――!」


 宝玉が巨大な龍型の光を纏い、ゴブリン共を一息に弾き飛ばした。俺が斬り漏らしたゴブリン共も余さず光龍が打ち砕いていく。僅かな間だけ宙を舞い、地面に落下したゴブリン共はそのまま昏倒した。二十体以上いた連中もあっという間にほぼ全滅だ。

 やはり竹の方が範囲攻撃はお手の物か。見事なものだ。


 それにしても、このゴブリン共の何たる雑魚っぷりか。こんな雑魚共に無辜の民が何人も殺された。そう思うとやるせなくなってくる。


「ギイィ……オウサマ! タスケテ、オウサマ!」


 運よく生き残った一体が一目散に脱兎する。逃がしては駄目だ。一体でも生かしておいたらまた同じ事を繰り返す。あいつはここで潰しておかなくてはならない。


 ゴブリンを追う。俺に比べれば逃げ足も速くはない。さっさと追い付いて、隙だらけの背を斬る。血飛沫が上がり、ゴブリンが地面にうつぶせに倒れる。今際の際、縋るように手を伸ばしたその先には、


「ング……ングング、ング……ぶっはぁあああああ~……!」


 身体の大きいゴブリンが缶ジュースを飲んでいた。

 ゴブリン共と同じ緑色の肌をした人型だ。普通のゴブリンよりは大きいが、それでも竹よりも小さい。が、でっぷりと肥えた太っ腹がその身をより大きく見せている。顔は潰れた鼻のせいで豚を連想させた。頭の上には不釣り合いな王冠が乗り、真紅のマントを羽織っている。


「ふぅ~……久しぶりに飲んだ『どろりと白濁★フルーツミルクスムージー』はうまいなあ。料理文化が発展したとはいえ、まだ異世界(むこう)にはない飲み物だからなあああああ!」


 足元には頭をかち割られた男が血の海に沈んでいた。恐らくはこの小鬼に殺されたのだろう。自動販売機のジュースを買うのに必要な財布を奪う為だけに。

 周囲の家屋からはスーパーマーケット同様に火の手が上がっていた。火の粉が舞い、肌を熱く焦がす。


「ゴブリンキング……!」

「ん? 何だ貴様らは?」


 小鬼がこちらの存在に気付く。その間に転がる同族の死体には目もくれなかった。両腕を広げ、傲慢な態度で名乗りを上げる。


「我の名はブタマン・デクスター! 異世界転生軍の九番隊長、『小鬼』の異世界転生者! ゴブリン部隊の隊長だ! 恐れ戦慄(おのの)け人間共よおおおおおっ!」


 魔物転生者か。道中、竹から少し話を聞いている。

 異世界転生者の転生先は何も人類だけではない。果実や虫の類、果ては武器のような無機物にまで転生先は選ばれる。その中でも魔物を転生先とした者にはあるリスクが生じる。価値観や倫理観が魔物の側に引っ張られるのだ。生前では持ち得なかった思考回路や特異な習性に染まるのである。


 異世界においては弱小ながらも数の多さで生き延びてきた魔物、小鬼(ゴブリン)。その特徴は、


「オホホー、そっちの女子はいいのう。美人だ。我の(モノ)にしてやりたいのう!」


 旺盛な繁殖欲と暴力主義だ。


「こっち見るんじゃないわよ、豚」

「オッホッホッ、気の強いところもいいのう。ますます気に入ったわ」

「てめぇ……!」


 好色な目で竹を見られる事に耐えられず、思わず前に出る。視界に入ってきた俺にデクスターは不愉快そうに顔を歪めた。


「邪魔をするな、小僧。ケツの穴に手ェ突っ込まれて奥歯ガタガタ言わされたいか?」

「デクスター殿!」


 追い付いたカルルが前に出る。デクスターも顔見知りに出会って態度を綻ばさせた。


「おお、カルルではないか。盟友である貴様が何故そっちにいるのだ?」

「色々と事情がありましてな……。いえ、拙僧の事はどうでもいいのです。部下からゴブリン部隊の略奪行為が目に余るとは聞いていましたが、成程これは確かにやりすぎですなあ。申し開きはありますか?」


 カルルが追及する。彼女から見てもデクスターの所業は看過できないもののようだ。


「確かに略奪は悪い事だなあ。殺人も悪だ」


 デクスターはにちゃあ……とした笑みを浮かべた。


「だが、そもそもの始まりは己を活かす為。人は自分の存在を脅かすものには抗っていい。たとえ行いは悪だったとしても、抗おうと決意した事は誇るべき事なのだ」


 いい気になってデクスターは弁明する。


「死にたくない負けたくない。そう思う事は悪だろうか。いいや、そんな筈がない。であれば、死なない為に負けない為に手を尽くすのは当然だ。『生きる為にこれが必要だ』と思った心を()しとするのなら、その為に略奪する行為も否定されるべきではない。そうだろう? その筈だ」


 立て板に水で語るデクスターの表情はまるで悪びれていなかった。

 つまり何だ? 部下のゴブリン共に強盗殺人をやらせたり、缶ジュースを飲む為に殺して財布を奪ったりするのが己を活かす為に必要だった事で、非難される謂れはないと言いたいのか?

 はあ? 何を言っているんだ、こいつ?


「我は我を誇っている。だから、そこから派生した行いも全て肯定されるべきものなのだあああああっ!」

「勘違いも甚だしいぜ、豚! 酔っ払ってんのか!?」


 ああ、そうだ。こいつは酔っている。自身の強大な力と魔物の凶暴性に浸っている。暴力を振るう事を正当化しようとしている。

 こいつは最早人間じゃない。人ならざる価値観を持つモノ――(ゴブリン)だ。


「志が立派でも、実際に手を出した時点で台無しなんだよ。悪い事は悪い事なんだ」


 それはかつて桃太郎(おれ)が鬼ヶ島の鬼を皆殺しにしたのと同じように。如何なお題目を並べようともこの手が血みどろなのは変わらない。だから、


「結局、悪なら何も誇れやしねえんだよ。もっと世間様に申し訳なさそうに縮こまっていろ、犯罪者が!」

「やかましい、我に説教するんじゃあないっ!」


 キレた勢いのままデクスターが右腕を振り下ろす。掌の中には青い光を放つエネルギー塊があった。エネルギー塊は地面に叩き付けられると、周辺家屋数軒が巻き込む大爆発を起こした。

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