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第17転 異世界転生軍九番隊

 打神鞭(だしんべん)

 中国の古典小説『封神演義』に登場する武器。()()ち据える硬()。神仙を封印する強力な仙術が施されているが、発揮できるのは【封神榜(ほうしんぼう)】というリストに名前が載っている者相手のみである。



◆  ◇  ◆



 那岐山のホテル脱出から六時間後。鳥取県鳥取市某所。カルルが運転する馬車の中で。


「へえ、じゃあ異世界転生軍が十三の部隊で構成されているんだ?」


 情報収集と暇潰しがてらカルルから異世界転生軍の話を聞いていた。


「そうですぞ。一番隊から十三番隊まで、それぞれ部隊が分かれています。大体、一部隊に一〇〇〇人ほどいますかな。二〇〇〇人近いところもあれば十数人のところもありますが」

「一〇〇〇人か。一個大隊くらいだな」

「各隊で特色も違いましてな。精鋭部隊の一番隊、諜報部隊の二番隊、魔物部隊の九番隊、粛清部隊の十三番隊といった具合にですな」

「へえ。カルルのところは?」

七番隊(ウチ)は大帝教会の信徒がメインですな」

「大帝……異世界(むこう)の世界宗教だったか」


 異世界は地球と違って神々が身近だ。魔法には神々が管轄しているものが多いし、祈れば実効のある加護を与えてくれたりもする。それ故に、宗教や王権神授説といった神の存在が根幹となっているものは地球に比べて権威が強固だ。保証の度合いがまるで違う。


「副隊長までは異世界転生者だったり現地人だったりとまちまちですが、十三隊の隊長は全員が異世界転生者です。当然、その戦闘力は折り紙付きですぞ」

「それじゃあ、その十三隊の隊長達が異世界軍の幹部なのか?」

「いや、それは違いましてな。十三隊長の上に、別に幹部がいるのでつ。十三隊長はあくまで彼らの部下という形ですぞ」

「十三隊長の更に上?」


 オイオイオイ、マジかよ。十三人もの異世界転生者(チート)がいるってだけでも驚異的なのに、そいつらよりも更に凄い連中(チート)がいるだと。恐ろしい話だな。今すぐにでもバックレたい。


「そんなに凄い奴らがいるなんて結構層が厚いんだな、異世界転生軍って」

「いやそんな全然。地球人類七十億人を相手取ろうと思ったら少なすぎるくらいですぞ」

「……そりゃそうか」


 言われてみれば、千人万人単位で七十億人を敵に回すのは正気ではない。その数の差、実に何十万だ。無論、軍人といった戦闘員に限れば差は減るが、それでも大差である事に変わりはない。


 正気ではない。だが、ただの狂人では地球人類を半分にまで削るなんて真似はできない。狂っていないと実行しないが、狂っているだけでは実現できない。その矛盾を踏破した者共。それが異世界転生軍だ。

 ……厄介だな。


「ああ、この道まで来たならもうすぐで鳥取空港に着くわよ。そうしたら――」

「きゃああああああああああっ!」

「――!?」


 唐突に悲鳴が響いた。

 俺達のものではない。悲鳴は路地の向こうから聞こえてきた。何事かと思った時には俺の身体は既に馬車から駆け出していた。俺を呼び止める竹の声を置き去りにして現場へと向かう。家屋の向こうでは黒煙が上がっていた。

 街路の角を曲がったそこにいたのは、


「ギイィ、ギイィ」


 明らかに人間ではない生き物がいた。

 人型ではあるものの肌は緑色で、耳と鼻が異様に大きい。背丈は十代未満の子供よりも低く、禿頭だ。服は毛皮一枚を加工した簡素なものだ。手には棍棒やナイフを持っている。


「ゴブリン……!」


 追いついた竹が彼らの種族名を口にする。


 小鬼(ゴブリン)

 ヨーロッパの伝承などに登場する妖精の一種。基本的には森に棲み、人里に降りては悪戯を繰り返す醜悪な存在。その悪戯は時に人を死に至らしめるほど過激なものとなる。魔法世界カールフターランドにおいては知能が低く戦闘力も低いが、数が多くて厄介なエネミーとされている。


 そんなファンタジー世界の住人が二十体以上も群れていた。足元には彼らが殺したであろう人間が何人も転がっていた。すぐそこで燃えているのはスーパーマーケットだ。恐らくは強盗をしたのだろう。周囲には店から奪ったのだろう物資が点々と落ちている。


「お前ら、よくも……!」


 眼前の惨劇に血が沸騰しそうになる。こういう光景は桃太郎だった頃に何度も見てきた。鬼が村も都も区別なく襲い、殺し、奪う様を桃太郎(おれ)は数え切れないほど見てきたのだ。

 ニュースで異世界転生軍が暴れ回っている話は散々聞いてきたが、実際に目の当たりにすると怒りの質が違う。我を忘れそうになる。


「異世界転生軍九番隊のゴブリン部隊ですぞ! 恐らくは物資補給の為に略奪行為、それを建前とした暴走行為かと!」


 異世界転生軍の事情を知っているカルルが解説する。

 暴走という事はこの行動は異世界転生軍の意図したものではないという事か。欲望のまま殺して奪っているだけと。成程、戦争中に軍が欲に駆られて無抵抗の村々を襲うのはよくある話だ。誰にも咎められないとなれば、どこまでも残虐になれるのが人間である。ゴブリンであってもそれは変わらないようだ。


「……許さねえ」


 一方的に蹂躙する外道を俺は許さない。こいつらはここで生かして帰しちゃならない存在だ。


「斬っていいな、カルル? ――聞く耳は持たないがな!」

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