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マッサージで最強騎士団を育成します!  作者: ことりとりとん


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35.魔法の針

 


 私とラジェさんの仕事は軌道に乗り始め、長期休養者の中で比較的症状の軽い人達は続々と仕事に復帰しはじめた。


 今の騎士団総人数は106人。けれど、そのうち実際活動しているのは大体65人くらいだった。

 長期休養が30人くらいで、任務後に全員に与えられる休暇では復帰出来ない人が10人くらい。


 任務明けに休みが貰えることになっているけど7隊でローテーションを組むのはツラくて充分に休めないまま仕事に出る。

 しかも復帰が間に合わない人の分、隊の人数が減るから一人一人が更に無理をする。

 そしてますます回復しづらくなり、長期休養に入らざるを得なくなる。


 そういう悪循環に嵌っていた騎士団は、消耗して行くばかりだったようだ。

 そこへ私が現れて次々と復帰させたから、あんなに皆が必死になったらしい。


 今の療養者は17人と大分減った。

 それに、任務明けには回復見込みに応じてマッサージをするので、全員ローテーション通りに仕事ができる。


 だから、騎士様方の仕事は随分楽になったらしい。

 というか、前がキツすぎたんだよね。


 「エリシアちゃんのおかげで身体が軽いぜ!」

 「引退になるかと思っていたけど、まだまだ働けそうだ」


 そういう声を聞く度に、心が温かくなって、もっと頑張ろうと思えるんだ。


 ちなみに、仕事を始めた頃は皆に『先生』と呼ばれる事が多かったけれど、私はルーィ先生とは違って治癒術士じゃないし、ちゃん付けで呼んで貰うことにしている。

 というか、言われる度に毎回「先生じゃなくてエリシアちゃんって呼んで欲しいです!」って訂正し続けていたら呼ばれなくなった。


 その方が親近感湧くし、私的には良いんだよね。

 「エリシア先生」って呼ばれても、「誰のことですか?」としか思わないもん。






 「俺の魔力も、ほんの少しだが動くようになった」


 一向に進展が見られなかったラジェさんの呪いも、少しずつ回復しているらしい。


 「それは良かったですね! どう変わったんですか?」


 実は私、魔力が視えるだけで魔法については詳しくない。

 はっきり見て分かるほどの変化じゃないので、本人に聞かないと分からないのだ。


 「エリシアさんは、体外の魔力は視えるのか? こう、少し外に出せるようになったのだが」


 「わぁ、こんなことできるんですね!」


 ラジェさんの人差し指の先から、針のような魔力の流れが2センチくらい飛び出しているのが見える。


 「ふむ、これは見えるのか。不思議だな。

 これはまだまだ魔力の少ない子どもが一番初めにする練習で、自分の魔力を体外に出す訓練だ」


 「なるほど。ここから少しずつ成長して行くんですね」


 ラジェさんが復帰に向けて一歩踏み出したようで、私は自分のことのように嬉しい。


 「まだまだこれからだが、たった一筋でも望みが見えて、これほど嬉しいことはない。

 エリシアさん、ありがとう」


 「ちゃんと効果があるって分かりましたし、これからも毎日やりましょうね」


 「是非ともよろしく頼む」


 かっちりと頭を下げられても、居心地悪くはならなかった。

 自分の立場を自覚するように、とルーィ先生に言われたおかげもあると思うし、自信がついてきたのもある。私もちゃんと成長してるんだよ。


 「そうだ、ラジェさん。こうやって魔法の針が出来るのなら、これで渦を突いたらどうなりますかね?」


 「は???」


 いや確かに思いつきだけで喋ったけどさ、そんなに顔を顰めなくっても良くない?


 「無理ならいいですぅ」


 やさぐれてそっぽを向くと、ラジェさんは慌ててフォローしてくれた。


 「いや、無理かどうかじゃなくてな? 言ってる意味がよく分からんだけで」


 「だって、最近は用務長に作ってもらった指圧棒で押してるし結構頻繁にマッサージしてるのに、全然変わらないじゃないですか。

 ラジェさんは呪いだから仕方ないとしても、療養の人達はもう少ししっかり刺激してもいい気がするんですよね」


 「……確かにな。言いたいことはよく分かる」


 まだ療養中のメンバーは、もう引退間近と言われている人達だ。『引退待ち』なんて言い方をされたりもするらしい。


 可哀想だけど皆が歩む道で、仕方がないと思われているけれど、それを変えたい。

 引退と言ってもまだ30歳くらいで、普通の仕事ならまだまだこれからという人達だ。

 それを引退させてしまうのは、率直に言ってもったいなさすぎる。


 「やっぱりラジェさんもそう思いますよね!? じゃあ早速、ルーィ先生に相談だ!」




 でも。


 「うーん、どうだろうねぇ……」


 ルーィ先生に言ってみても、色良い返事はもらえなかった。


 「ただの思いつきなので、ルーィ先生が良いと思わないなら止めておきます」


 「いや、良いか悪いかという以前に、分からないんだ。

 まずエリシア君のマッサージはそもそも未知のもので、何故効いているのかも分からないが、良くなっているならやろう、という運用だ。

 魔力の針を打つ、というのも成功するかもしれないが失敗するかもしれない。

 しかも、失敗した時にどうなるか、誰にも分からない」


 先生は真剣に私の提案を聞いてくれていて、その上で起こりうることを考えている。

 思いつきを喋っただけの私とは大違いだ。


 「すみませんでした」


 自分の浅はかさにようやく気づいて、先生の時間を無駄に取ってしまったと反省する。


 「いいや、仕事中に考えたことを上官に報告するのは正しい事だよ。

 それを受けて、どうするかを決めるのは俺や団長の仕事だ。今後も何か気づいたら、その場ではせずに必ず相談して欲しい」


 「分かりました」


 それは街の仕事でも同じだよね。

 ルーィ先生と団長が考えてくれるなら、私よりもずっといい結論を出してくれるだろう。

 そう思って安心しきった私は、そんなことを話したことすらころっと忘れて日常業務をこなしにいった。



 数日後。


 「エリシア君、ちょっといいかい?」


「はい」


 朝一でルーィ先生に呼び止められた。


「今日昼過ぎのカタルナート君への施術の話だ。

 この前に言っていた、魔法の針を打ち込むことを、実験的にやってみようと思う」


「あれ? 効果が分からない、って言ってませんでしたっけ?」


「そうだ。分からないから、やってみようと決まった。カタルナート君はこの療養に入る前の任務でかなり大物を相手に戦い、魔法を使いすぎているんだ。

 今のところ復帰は絶望的だし、引退後の生活もままならないだろう。

 これ以上悪くなる可能性は低いから、最初は彼にする事になった」


「分かりました。ラジェさんにも言っておきますね」


 ラジェさんは朝から他の人にマッサージをしているらしく、ギリギリにならないと医務室へは来ない。


「いや、初めてだから俺が行く。何が起こっても、俺なら対処できるからな」


「それは、心強いです。ありがとうございます」


 ルーィ先生は大ベテランの治癒術士なのだから、何があっても大丈夫だという安心感がある。



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