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3.医務室の先生

 



「あら、今日も来てくれたのですか」


 ここ数日マッサージをしてあげているクラウゼ様が、いつものベンチに今日も来ていた。


「だって、君のマッサージは特別だからな」


「そうですね、だいぶ身体は楽になったかと思いますが、もう一息という所でしょうか」


「自分の身体でもないのによく分かるな」


「……ふふふ。なんとなくの勘ですわ」


 魔力視について妙な詮索はされたくないので誤魔化しておく。

 お金は欲しいけど厄介事はゴメンだからね。


「では、今日も頼めるだろうか」


「もちろんですわよ!」


 今日も臨時収入を貰えるだろうと思うと俄然やる気になるのが人間の性。


 大の男から上がる悲鳴は全く気にせず、ガンガンマッサージをする。

 肩と腰を中心に身体中で魔力が詰まって渦を巻いていたのに、何度かマッサージしただけでだいぶ改善しているみたい。

 その間に魔法を使ってないっぽいから、それもマッサージが効きやすい理由かも。


「ぎゃあぁっ」


 院長先生は綺麗な氷を作れる魔法だったから、毎日少しずつでも魔法を使っていたんだよね。

 だから中々痛みが無くならなくて、いつもマッサージしてあげていた。


「ぐぅあっ!」


 この前は、背中の筋肉が強すぎてヘラの柄を使わないと指では効かなかったけれど、今日は休んだからか筋肉が緩いので指でもいけそう。



「クラウゼ様、これくらいでどうでしょうか」


 時間的にもお昼ご飯を全力でかきこむ分くらいしか昼休みが残ってないし、魔力の渦はほぼ無くなった。


 悲鳴も、多少は減った気がする。

 私が考え事をしていた間もほぼずっと叫んでいたけど。


「本当に、本当にすごいよ! 身体がどこも痛くないなんて、一体いつぶりだろう」


「そんなにずっと痛いのですか?」


「幼い頃に魔法の練習を始めてからずっとだな」


「それは……っ」


 想像するだけで固まってしまった。

 院長先生もいつも痛いと言っていたのに、その数十倍は酷い状況がずっと続くなんて……。


「そんな顔しなくても大丈夫だよ。みんな慣れているし、鍛えてるからね」


 へらりと笑うクラウゼ様の目の奥はまだ暗い気がして、本当につらい中で頑張っているのだろうと思った。


「ちなみに、これが今日のお礼ね」


「ありがとうございます」


 また、高すぎるお金を頂いてしまった。

 もし毎日続くようならさすがに貰いすぎだと言わないとだけど、もう楽になったなら当分会わないよね? 貰ってても大丈夫かな?


「あと伝言を頼まれてるんだけど、騎士団の医術師の先生が、ぜひ会いたいって言ってるんだ。

 いつでも良いから、東二番塔の1階に行ってみてくれないかな」


「……うーん……」


 医術師の先生なんてなんとなく怖そうだし、下手に喋ってトラブルになりたくもないし……。

 適当にお断りしようかな、と思ったけど。


「全然怖い人じゃないよ? 俺らにめちゃくちゃ優しくしてくれる、いい人なんだ。

 先生はなるべく早く来て欲しいって言ってたから、もし今日行ってくれるならマドレーヌあげちゃう!」


「あら! 行きますわ!」


 バターとたまごを沢山使うマドレーヌは、庶民にとっては最高の贅沢。

 くれるというなら行かないといけませんわね!


「ありがとう。先生に預けておくから、今日中によろしく!」


 一昨日ベンチで項垂れていた姿からは想像も出来ないくらいに軽い足取りで去っていくクラウゼ様を見て、いい事したなぁ、って思う。


 あれだけ恩に感じてくれているなら、医術師の先生もそんなに酷いことはしないと信じて、仕事終わりに行ってみますか!






 東塔は軍部がある方で、担当じゃないからほとんど行ったことがない。


「おっ、女の子じゃん! どうしたんだ?」


 どこかなーとキョロキョロしながら中へ入ると、早速知らない人に話しかけられた。

 めっちゃマッチョでさすが騎士様、って感じだけど、鎧で隠れている所以外では、魔力が詰まっているのが視える。


「医術師の先生に呼ばれているんです」


「じゃあこっちだよ、おいで」


「ありがとうございます」


 ついて行った先が医務室のようで。


「ルーィ先生! お客さん!」


 丁寧に先生を呼んでくれた騎士様にお礼を言ってから、中に入る。


「やあ、来てくれてありがとう。おれはルーィ。騎士団専属の医術師をしている」


「……掃除婦の、エリシアです」


 男の人としては少し長めな黒髪は、癖毛なのか結構ボサボサ。黒縁メガネとお医者様っぽい白衣は怖い印象を持ちそうなものなのに、あんまり怖くない。というか普通にいい人そうなお兄さんだ。


 ただ、こんなににこやかに迎えられるほどの何があるのかは分からないけど。


「そんなに警戒しなくて大丈夫だよ。

 ディータ・クラウゼから何か聞いているかい?」


「呼んでいる、ということだけ。あと、マドレーヌを預けれていると」


「ああ、そうだそうだ。お茶も出すから一緒に食べないかい?」


 言いつつお茶を淹れてくれる先生の身体も、魔力の流れが悪い。

 きっと治癒魔法を使える人なんだろうけど、自分の身体は治癒できないんだろうか。


 椅子を勧められてお茶も頂き、めちゃくちゃ丁寧にもてなされるので、むしろ緊張してしまう。

 でも、不思議と怖い感じも嫌な感じもしない。


 物腰も柔らかいし、クラウゼ様が慕っている理由が分かる気がした。



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