29.事情説明と和解
「エリシア君、今からお昼ご飯なのに申し訳ないが、少しだけ話を聞いてくれるかい」
二人のマッサージが終わってからルーィ先生にそう言われて、私に断る理由はない。
「ラジェ君の事情のことだ。色々と込み入ったこともあるので言わなかったのだが、そのせいですれ違いが起こっているようなので全て説明するから聞いて欲しい」
「はい」
真剣にまっすぐルーィ先生が私を見てくれているので、私も真剣に聞く。
ラジェ様が自分で話すよりは、心穏やかに聞けそうだ。
「ラジェ君が任務中の呪いによって魔法が使えなくなってしまったのは聞いたと思うが、それによって任務復帰が出来ず、休暇扱いになっているんだ」
それは聞いたな。
お休みの人に手伝ってもらって申し訳ないと思ってるよ。
「だが、任務後の休暇は最高で半年までだ。それ以上復帰出来ないなら、引退となるが、その期限まではあと半月程しかない。
これは反動痛のための仕組みだが、原因が違うからと言って特例を認めるのは難しい。
しかも、騎士団年金は基本的に10年の任期を全うした場合に一生涯払われるもので、最近の戦闘激化に伴って7年に緩和されたが4年目のラジェ君はまだ受け取れない」
なるほど。お仕事無くなりそうなのか。
お貴族様でも困るのかな。
「付け加えると彼の実家はそこまで大きな家ではない上、5男だ。実家に帰っても肩身が狭いだろう。
さらに言えば結婚三年目でまだ息子は一歳にならないほど小さいのに、騎士団を引退して貴族の体裁を保てないとなれば離婚の危機になる」
「そんなの、大変じゃないですか!」
仕事も家族も失いそうってことよね?
仕事中の呪いのせいなのに、可哀想すぎる。
「なので団長が事情を考慮して、治癒班配属の魔法騎士として在団出来るようにしているわけだな。
個人的な理由なので伝えなかったが、彼がとても焦っていることや、そのせいで気が立っていると分かって貰えたかい?」
「とってもよく分かりました。そんな危機的状況なら冷静で居られませんよね」
私が心配してラジェ様を見ると、中々居心地が悪そうだ。
初対面の女の子に家庭事情を心配されるのはプライド高そうな貴族の騎士様としてはツラいものがあるだろう。
それなのに。
「あなたには、大変失礼な態度を取りました。
改めますので許していただけませんでしょうか」
しっかり腰を折って頭を下げられ、私の方が居心地悪くなるほど。
「全然大丈夫ですから顔を上げてください!」
きっと、追い詰められ過ぎてパニックになっていただけで、普段は真面目な人なんだろう。
無言で冷たそうな印象なのはいつもそういう人なのかもしれないけれど。
「本当にすみませんでした。これから助けになれるよう努めますのでどうかよろしくお願いします」
「いえ、こちらこそ知らない事が多すぎて困ってばかりですので、助けて欲しいです。
よろしくお願いします」
「俺に出来ることは全てしますので、何でもおっしゃってください。
エリシア先生のお役に立てるよう、頑張ります」
???
エリシア先生って呼んだ?
朝と態度が違いすぎて戸惑ってしまう。
だってあんなに納得いかなそうだったじゃん!
「先生はやめてください。それに、敬語で無くて十分です。私は平民の見習いですから」
「しかし、腕を疑っていた訳ではありませんが、素晴らしい技術です。先生と呼んで当然かと」
「でも、ラジェ様に施術した訳でもないのになぜそこまで……?」
まだ納得のいかない私を、紅色の鋭い目が見つめる。
「午前にマッサージした4人はいずれも俺が世話になった先輩です。入団当時に中堅として面倒を見てくれました。
もう復帰は難しそうだと聞いていましたが、休暇に入ってからまだ1週間足らずのショルツ先輩が立ち上がれるまでになるなんて、驚いています。
お世話になった先輩方の身体を癒してくれた上、役に立てない俺の分まで戦線復帰させてくれるかもしれないのですから。
先生と呼ぶに相応しいでしょう?」
大袈裟だとは思うが嘘やおべっかでは無さそうな確かな熱が、ヘビの瞳に宿っていて。
それを真正面から受け止めるのが気恥しい反面、そこまで認めてくれたのが嬉しい。
「うん、ラジェ君とエリシア君が和解した上に仲良くなれたようで良かったね!
その調子で午後からもよろしく」
放っておけばまだ演説が続きそうなラジェ様を適度にいなして、ルーィ先生が私をお昼ご飯に送り出してくれた。
ラジェ様は他の用事があると言っていて、しばらくしてからやってきた。
私とイリスちゃんがわいわいご飯を食べるのから少し離れた所で食べていたけど、あれは多分性格的に女の子二人と一緒に食べるのが気まずいんだろう。
一時はどうなる事かと思ったけれど、今日から一緒に働く人と仲良くなれたと思う。たぶん。
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