28.気が重い
医務室へ戻る間も無言のままだし、この人と一日一緒に居るかと思うと既に気が重い。
でも、仕事なんだから仕方ないと、割り切ることにしよう。それしかない。
「ラジェ君はとりあえず医務室に居てくれるかな。エリシア君、これ予定表ね。一人目は俺が行くから」
「いえ、大丈夫です! ラジェ様と行けます!」
ラジェ様はお貴族様だから、団長の前で喧嘩したってクビになったりしないだろうけど、私は何の後ろ盾もない平民だ。
あの人とは仕事したくない、なんて言ったらすぐにクビにされちゃうかも!
せっかく頑張って得た王宮の仕事なんだから、失う訳にはいかないんだ。
そんな必死な私を、ルーィ先生は穏やかに宥めてくれる。
「そんなに無理しなくて大丈夫だよ。俺から話があるだけだから。一人目の終わりはラジェ君に行ってもらうと思う」
「わかりました」
その言葉通り、終わりの時間にはラジェ様が来てくれた。
仕事内容はルーィ先生から聞いたのだろう。
無言のまま患者さんを抱えあげてベッドへ寝かせてくれ、そのまま無言で部屋を出て行った。
「え、ええっ?」
とにかく置いていかれたら困るので、
「痛かったですよね、お邪魔しました!」
一言かけて慌てて後を追う。
でも、扉を出た所で待っててくれていて、私が出てきたのを見て黙って歩き出す。
「あの、次の方は」「知っている」
言おうとしたのにモロに被せて返事をされた。
なんかヤな感じだけど、私が求めている仕事はしてくれているのだから文句は言うまい。
次の人の所では、床に下ろしてくれた後で
「終わりの時間までどこかへ行っていてもいいですよ」
とは言ったのだが、部屋の椅子に勝手に座ったままこちらをじっと見ている。
非常にやりづらい。
しかも、この方は昨日も施術したので少し回復しているのか、悲鳴がえげつないのだ。
昨日は悲鳴を上げる元気も無かったのだろうが、今日は叫びまくってるな。
可哀想だが仕方がない、我慢しておくれ、と普段は思っているけれど、今日はラジェ様が居る。
ただでさえ私の印象が悪そうなのに、ヤバい暴力女だと思われてそうだ。
まあ、私も彼を初対面で怒鳴るヤバい奴だと思っているのでおあいこか。
マッサージする間、頭はヒマなので取り留めもなく考える。
ラジェ様には何か事情があるようだったし。
呪いで魔法が使えなくなったらしいし。
そのせいでお仕事休みになってるみたいだし。
なのにマッサージのサポートを割り振られたみたいだし。
平民の女の子のサポートを貴族の魔法騎士様がやるはめになってるし。
それなら、機嫌悪くて当たり前じゃない?
よし。
ほんとの所がどうかは分からないけれど、機嫌が悪くても仕方ない理由を自分の中で見つけて無理やりでも納得したら、もうちょっと冷静に対応出来る気がする。
そのうちにマッサージ時間が終わり。
「これでおしまいです。調子はどうですか〜?」
返事出来ないかもな、と思いつつ声をかけてみたら。
「……ぁりが……とう……ぅう゛」
返事を貰えた上に、寝返りを打って自分で起き上がろうと動けているのを見るととっても嬉しくなった。
立ち上がろうとしてもよろけているので支えようと私が手を出すより前に。
「ショルツ先輩っ」
ラジェ様が肩をしっかりと支え、立ち上がらせてベッドまで連れて行ってくれた。
私だったら共倒れになってたかもな、と思うので、ラジェ様が居てくれて良かった。
次の人では視線が突き刺さるかと思うほどガン見されていて、やりにくいことこの上ない。
この人はかなり症状重めだから、渦の中心を見極めるのに集中することでラジェ様の視線を気にならなくすることにした。
そして、その後も着実に仕事をこなし、ラジェ様は求める仕事はしてくれるのでいいか、と思っていた。黙ってるけど。
それなのに。
「ルーィ先生、話が違います。これでは、俺は仕事がなくなってしまいます!」
昼に医務室へ戻ると同時にラジェ様がルーィ先生に猛抗議を始めた。
私はおろおろして二人を見つめることしか出来なくて、真後ろでガラガラと開いた扉から入ってきたお昼の施術をする方に、縋るような目を向けた。
「ノボルト君、エリシア君、心配ない。こちらの事は気にしなくていいからマッサージを始めてくれるかい」
ルーィ先生からの指示があれば私はそれに従うだけなので、マッサージを始める。
その間も廊下で二人が話ているようだったので、気にはなるがどうせ内容までは聞こえないので諦めてマッサージに集中することにした。
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