24.時間外の扱い
「では、こちらに座ってもらえますか?」
さっきまでキース様のマッサージをしていたベンチへ案内すると、キース様も付いてきた。
「時間もないので早速始めますね〜」
耳たぶの裏っかわのくぼみに尋常じゃないくらいの渦が出来ている。
耳の前とか周りとか、首の方も流れが悪いけど、全身ではないことを考えたら、本当に耳の魔法だけなんだろう。
他の騎士様は全身痛そうな人ばかりだからね。
耳周辺を満遍なくもみもみしてから、えいっと渦のど真ん中を押す。
「ぴぎゃあ」
何か特徴的なおもしろ悲鳴が上がったってことは効いてるんだよね!
そのまま続けるけれど、隣のキース様はヒマそうだ。別にどこかへ行ってもいいのに付き合うつもりらしい。律儀な人だな。
「そういえば、この方のお名前は?」
会話する間もなくマッサージを始めたので、雑談がてらキース様に聞いてみる。
「リゲル・オーリスだ。耳に関する特殊な魔法を使う一族の出身で、魔法の前兆を『聞く』ことが出来る。
魔物がいつどのくらいの魔法を放つか分かるから、それを前線に伝えて回避しやすくするのが仕事だな」
「なるほど。ちなみにキース様は?」
「おれは『透視』と『千里眼』の魔法を使う。ある程度の距離までなら好きな所を障害物関係なく視れる魔法だ」
「すごいですね! 透視とか、憧れの魔法じゃないですか」
「まあ、分かりやすい能力ではあるが、制御出来なくて困っていた時期も長かった。
今では見たい所を見られるが、幼い頃は見える所が定まらなかったから」
「そうなんですね。目の前が見れないのは大変ですね。というか、酔いそう」
ははは、と笑うキース様は何だか楽しそうだ。
「制御出来ないのに力が強くなっていった頃は、よく目を回してぶっ倒れていたよ。
でも、今では『目』として団に貢献出来ている」
誇らしげなキース様は、自分にしか出来ない方法て団と国を守っているのだ。
「こういう風に、その人の能力とか色々教えてもらえたら、私が出来ることも増えそうですね。
今は自分の仕事にいっぱいいっぱいですけれど」
「まだ来て数日だろう。出来なくて当たり前だ。
ルーィ先生は10年くらい団にいる人だから、聞けば教えてくれると思うぞ」
「ん? ルーィ先生ってお幾つですか? 騎士様って、学校出てからお仕事しますよね?」
23~4歳くらいだと思ってたけど、18で卒業してからもう10年も勤めてるのかな?
「ルーィ先生は騎士学校の卒業じゃないはずだぞ。確か、10の頃から団にいると言っていた気がする。だから、俺より年下だけど大先輩だな」
「そうなんですね〜知らないことばっかりです。
また色々教えてくださいね」
「もちろんだ」
「オーリス様、申し訳ないですが時間なのでおしまいにしてもよろしいですか」
キース様と雑談している間に出勤時間が近づいてきたのでこの辺で終わりだな。
「……ぅう゛……」
効く所を押しまくって、朝イチから瀕死の重症になったオーリス様があまりにも可哀想なので周辺を軽くもみもみしてあげる。
「……ぁあ゛……あ゛りがとぅ……」
死にそうだな。ほんとに。
「まだ中途半端な感じになっちゃっているので、もしまた時間があれば声を掛けてもらえますか」
「……ぅん………………」
「またよろしく頼むな!」
元気なキース様がオーリス様を回収して行ってくれた。大きな男の人が動けなくなると、私ではどうしようもないからありがたい。
キース様たちを見送るのもそこそこに、朝日に照らされた廊下を全力疾走。
廊下は走らない、と教えられたけど、うっかり遅刻しちゃいそうなんだもん!
「時間ギリギリになっちゃってすみません!」
謝りながら医務室に駆け込むと、穏やかに微笑むルーィ先生が迎えてくれた。
「朝から時間外の仕事、お疲れ様。いい悲鳴が響いてたね」
「キース様が、オーリス様という方を紹介してくださったので!
朝ごはんも食べさせてもらっていますから、時間外とか気にしませんよ」
「でも、働いたら働いた分をきちんと請求するようにした方がいい。そのあたり、街の仕事と違って軍は正確だよ」
先生が私を心配してくれるのは分かるけど、別にこれ以上もっとお給料が欲しいとか思ってないのに。
「大丈夫ですよ」
「いや、給料がもらえるかどうかという話だけじゃない。団員に何かしらの行為をするのなら、それには責任が伴うのだから。
もし、この後でオーリスになにか不都合が起きたら?
きみが一人で勝手にやったのなら、俺には庇いようがない。
きちんと軍に申請して、事後でも承認を貰っておけば、何かあれば上官が対応できる」
「……そういうものですか?」
言ってることはなんとなく分かるんだけど、そこまでするほど?って思っちゃう。
「そういうものだ。出来れば、施術の前に俺に一言欲しかったな」
「でも、まだあかりは付いていなかったし、先生は寝ていると思って」
「そうだなぁ。実は、今の俺らは所属も曖昧で面倒な立場なんだよな。
どさくさ紛れにいい感じの仕組みを作るか!」
……何の話???
「まあ今はいいか。今後は施術したら必ず俺に言うように。でも、必ず会えるとも限らんか。
適当な紙を用意しておくので、それに書くようにしよう」
「分かりました」
先生にとつて初めての部下だと言っていたし、そもそもこの仕事は無かったものだ。
扱いからしても難しいのだろう。
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