23.文字通り朝飯前
翌朝。
いつもより少し早めに起きて、もう職場へ行くことにする。
王宮標準の勤務時間でいいと言われたけれど、私は朝ごはんが食べたいからだ。
タダでご飯食べさせてくれるって言うんだから、さすが騎士団、太っ腹だよね!
でも食堂の時間がよく分からないから早めに行くことにしたんだ。
ちらっと医務室を見た感じまだ明かりも付いていないし、ルーィ先生は寝てるみたい。
先に食堂の様子を見に行こうかな。
……見事に誰も居ない。
訓練中っぽい掛け声がどこからか響いているので、まだご飯の時間じゃないのかもしれないな。
もしくはもう遅かったか。
「すみません」
おそるおそる扉を開けると、昨日見た女の子が何やらパンを並べて準備中っぽい。
「おはようございま〜す。どうぞ〜」
明るい声で挨拶してくれた。
「すみません、今ってご飯食べれますか……?」
「食べれますよ! まだ皆さん朝練中ですけれど、もうすぐ来ると思います」
「そうなんですね。ちなみにそのパンは?」
「これは途中でお腹すいちゃう人用です。欲しい人は一人一個、持っていってくださいね」
くるくる茶髪とくりくりお目目の可愛らしい女の子なので、団員の皆さんから人気ありそうだね。
15,6歳くらいかな。私より年下っぽい。
「なるほど。私はちょっと食べれないかもですね」
「みんなすーっごく沢山食べますからね! ちなみにお姉さんは何のお仕事なんですか?」
「私は昨日から医術師見習いになったエリシアです。毎日来ると思うので、よろしくお願いします!」
騎士団内でほぼ見ない女の子なので、出来れば仲良くなりたいんだ。
「医術師様なんて、すごいですね! 私は調理見習いのイリスです。見習いの女の子同士、仲良くして欲しいです」
朝早いのに、輝くような笑顔がかわいい子で、愛想よく話してくれるのが嬉しい。
「私の方こそ、まだ何も分からなくて困ることも多いので、仲良くして欲しいです。よろしくお願いします」
「おい、イリス!! いつまでも喋ってんじゃねえ! はたらけ!」
厨房の奥から響き渡る怒鳴り声に、私は萎縮してしまう。
「ごめんなさい、ほんとに、ごめん! 邪魔しちゃった」
私のせいで怒鳴られてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいなのに、当の本人はケロッとしている。
「はいはーい! すぐ行きますねー!」
相変わらずの明るい声で軽い返事をするだけだ。
たくましいなぁ。
「全然大丈夫だよ、ご飯食べてく?」
「あっ、いや、えっと……。また後で来ます!!」
「あっそう? じゃあね〜」
まだ準備中っぽいし彼女の仕事の邪魔をして怒られてしまった罪悪感もあって、逃げるようにその場を後にする。
イリスがあまり気にして無さそうなのがせめてもの救いかな。
「で、どうしよかな」
ルーィ先生はまだ寝てそうだし、行く宛てがない……。
ってことは、お掃除しよっか。
掃除道具の置き場は他の所と同じみたいだけど、軍部は各自当番で掃除をするので掃除婦の担当は居ない。
だから私が当番として掃除をしても何も問題はないはず。
しばらく医務室周りをちょこちょこ掃除していて、近くの床に影が落ちたので見上げると。
「エリシア先生、昨日はすみませんでした」
長めな前髪の間からきょろりとのぞく黒い片目。キース様だ。
「ちょ、近い、びっくりしました……」
「すみません、驚かせてしまいましたか。昨日はクラウゼが脅すような真似をして、申し訳ありませんでした」
「いえ、大丈夫ですよ。私の方こそ、自分でした事なのに説明できず、すみません」
それを言いに来たのか。律儀な人だ。
「クラウゼにとっては大きな問題ですから、許してやって下さい」
目尻をへにゃりと曲げて謝られると、こちらまで何だか申し訳なくなる。
「全然気にしていませんから、大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
それだけの用事だったようで、ひとつお辞儀をしてから立ち去りそうだったキース様を引き止める。
「もしお時間あるなら、マッサージしましょうか?」
「えっ、頼めるんですか?」
「ええ、こちらへどうぞ!」
手近なベンチを勧めると、素直に座ってくれる。
常時発動と言うだけあって、マッサージしてから数日なのに流れが悪くなってしまっている。
「では、マッサージしますね〜」
この前のようにベンチの後ろに立ってこめかみをぐりぐり。
押し殺した悲鳴が上がるけれど、気にせずマッサージを進める。
この前にしたところだからか、割とすぐに悲鳴があがらなくなった。
魔力の流れも良くなってそうだし、うん。もういいんじゃないかな。
「どうでしょうか?」
「ああ、頭が痛くないし、よく見える。ありがとう」
金色の瞳の動きも随分緩やかになったし、痛みも無くなったみたい。よかった。
「この前マッサージしてから間がないので、完璧と言える仕上がりだと思います」
「本当にありがとう。楽になったよ。ちょうどいい時間だし、一緒に朝飯に行くか?」
「はい」
キース様について行くと人が集まって来ているのでいい時間なのだろう。明日はこのくらいの時間に来ることにして、流れでキース様と一緒にご飯を食べる。とはいえ無言だけど。
ずらっと並んだ長テーブルで並んで食べていると、キース様が突然、後ろを通りかかった人の腕をガシッと掴んだ。
街中のどこにでも居そうな、茶髪の青年。色合いでは魔法使いだって分からないな。
その人が持っていたトレイの上でガシャンと食器が音をたてたのに驚く私を放置して、2人の間で何かのアイコンタクトが取られた。たぶん。
「隣、座っていいかな?」
私が返事をする前に座り、続きは何も言わずに食べ始める。それも猛スピードで。
???
2人の間に何があるのかも、なぜ私が間に挟まれているのかも、なぜ何も言われないのかも分からない。
困惑する私を他所に、両隣はガツガツ食べ続ける。
ほんとに、なんの状況?
疑問符が頭の中を飛び回るけれど、美味しいご飯に気を取られて食べ進める。
「ごちそうさまでした」
少し前に食べ終わったキース様はそのまま待っていて、途中で来たこの人も食べ終わった。
2人で仕事へ行くかと思ったら、何故か両隣から超絶視線を浴びている。
「あの、何でしょうか」
流石に聞きたくなるよね。
結構混んでいるとはいえ私の横以外も空いてるし。
食べ終わったなら待ってなくてもいいし。
「ん? 食べ終わるの待ってるだけ」
何でもないかのように言うけれど、この人は耳にめちゃくちゃ大きな渦があるからマッサージ待ちかな?
「耳のマッサージ、しますか?」
食べながらで申し訳ないけれどそう聞いてみる。
「いやあ、すごいね! ウワサには聞いてたけどさ。おれの能力、ひと目で分かるのか」
「耳の能力ってことだけ。中身は、分かりません」
「俺もキースと同じで常時展開系の魔法を使うんだ。団内じゃあおれら2人だけ。
俺の能力はキースほど強くないから反動痛はマシだって言うけど、痛いもんは痛い。マジで」
「そうでしょうね。すごくつらそうです。
じゃあ、ご飯終わりにするので行きましょうか」
朝ごはんは7割くらい食べ終わってるから、パンを貰えば今食べなくてもいけると思う。
「いや、それはダメだよ! 腹が減っては戦はできぬ、ちゃんと食べないとな」
待っててくれる気があるとはいえ、マッサージの時間は確保してあげたい。
周囲の人達は凄い速さで食べ終わって入れ替わるのに、私だけが置いていかれているのもアレだし。
……早食いも訓練なのかな? もぐもぐ。
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