21.嫌そうだったのに
あんなに嫌そうなら止めるかと言えばそうでもないらしく、途中の訓練所横の水場でわざわざ足を洗ってくれた。
顔が整いすぎてるから睨まれると怖いけれど、いい人なんだろうな。きっと。
まだルーィ先生の帰って来ていない医務室の明かりを魔法で付けてくれて、黙って診察台に寝転がる。
「これでいいか」
うつ伏せなので少しくぐもった声で言われて、これがこの人なりの優しさなんだろうな〜とか勝手に思う。
「はい、とってもやりやすいです。ありがとうございます! 指先からふくらはぎにかけて、マッサージしていきますね」
患者さんが積極的なのだから、私も頑張らないと。
肩から腕にかけても痛そうだけど、まずは渦が濃すぎてどうにかなっちゃいそうな足を優先しよう。
さっきは指先だけだったし、座ったままでは甲の辺りしかマッサージ出来なかったと思う。
けれど、体勢も自由自在になった今、出来る限りのことをしたい。
足の裏を全体重かけて押すと、きっととんでもなく痛いんだろう。寝ている診察台に抱きつくようにしがみついて痛みを堪えている。
かなり可哀想なので、さすがに少し手を緩めるけれど痛みのレベルはマシになっているんだろうか。
「あの〜、お話出来そうですか?」
「……あ、ああ。どうした」
休憩も兼ねて声を掛けてみる。
「足の裏の痛みなんですが、さっき全力で押してた時と、今ちょっと緩めた時と、どのくらい差がありますか?」
「緩んだか? もはやここまで来たらそう変わらんからな」
「そうですか。では、効果が少しでも高い方がいいですよね!」
私としては最大限の提案のつもりだったのに、返ってきたのはひどく弱々しい頷き。
そんなに嫌かぁ、と悲しくなる反面、それでも我慢しているのは反動痛がそれより嫌だからだ、と思い直す。
私に出来ることはマッサージすることだ!!
仰向けになってもらって甲を刺激し、またうつ伏せで足の裏から足首、ふくらはぎにかけてしっかり魔力を流し続ける。
30分ちょっとでだいぶ渦は薄くなったように思う。特に甲から突き抜ける杭のようだった魔力の澱みは、ギリ渦と言えるくらいにはなったと思う。
「これくらいで、いかがでしょうか。痛みが無くなるまでは、まだだいぶんかかりそうですけれど」
診察台の上で身体を起こし、子供のするように足をぷらぷらさせてから、紺の瞳をキラッキラに輝かせてこちらを見てくる。
「君の腕は本当に凄いな。クラウゼが報告してきた時には、正直言って話半分で聞いていたが、これは想像以上だ」
「効果を実感して頂けたのならよかったです」
「いやあ、頑張って我慢した甲斐があったというものだな!」
非常に嬉しそうなので私も達成感がある。
「他の団員を含め、今後ともよろしく頼む。疑問でも要望でも、何かあればすぐに申告するように。最大限の便宜を図る」
「ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします。
お言葉に甘えて、いくつか聞いてもいいですか?」
めちゃくちゃ喜んで貰えたようで良かった。
それに、急に連れてこられたので聞きたいことは色々ある。レイズ副団長は事務方のこともしてそうだし、聞いてみよう。
「制服が欲しいのですけれど、どうしたらいいですか?」
「女性用の制服は今の所無いな。しばらくはその掃除婦の制服で過ごして欲しい。手配出来たらそちらへ変えて貰う」
「食堂でご飯が出ると聞いたのですが、私も食べていいのですか?」
「もちろんだ。朝昼夜の3食食べて構わないし、仕事が休みでも食べていい」
仕事が変わっても制服は貰えるらしいし、その上毎日の食事付きとは。
太っ腹!
「勤務時間や日数はどうなりそうですか?」
「王宮基準に則って与えることになるだろう。緊急出動のある仕事ではないので休日も暦通りだ。それに、本来なら昼休みの時間に働くこともあるかと思うが、その時は必ず前後で休憩を取るように」
「分かりました。ありがとうございます」
王宮基準で暦通りの勤務にして貰える上、昼休みにまで配慮して貰えるなんて……!
街の仕事では考えられない厚遇っぷり!さすが騎士団!
「ろくな説明もなく仕事に放り込むことになって申し訳ない。
こちらとしてもはじめて作る仕事ゆえ、手探りの部分もある。要望等は随時受け付けるのですぐに申告するように。
給料面の契約書も執務室にあるので一緒に来てもらえるか」
「はい」
さっきは『行くぞ』だったのが『来てもらえるか』になった。認めて貰えた感じがあって嬉しい。
その後、団長室に戻ってから貰った契約書を見て。
「こんなにいい待遇で働かせてもらえるんですか!?!?」
私は目を疑ってしまった。
いやいや、私はお貴族様じゃないですよ!!
「騎士団としては普通より低いくらいだ。治癒術が使えるならもう少し上げられるのだが、君のマッサージはまだ治癒とは認められていないから、当面はこれで頼みたい。
なるべく早く給料を上げられるように尽力する」
「いえいえ! 一気に倍以上になるなんて!
充分すぎるくらいです!」
示された額に唖然としている私を他所に、副団長はまだ上げてくれる気らしい。
「君の本来の技術にはまだ足りないと思っている。しばらくの間は辛抱してほしい」
副団長は申し訳なさそうな顔だけど、そんな顔する条件じゃないですって!
「全然!このままで大丈夫です!」
こんなに給料上がったら、嬉しい反面プレッシャーが凄いよぉ。
でも全条件で掃除婦より上だし、頑張るしかないよねっ!
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