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19.ルーィ先生の立場

 


「伝令! 北部レリトアにて治癒術士出動要請!」


 突然飛び込むように団長室へ入ってきた兵士さんは、それだけ行って慌てた様子で出て行った。


「了解っ!」


 力強く返事をしたルーィ先生は、全てを捨てて駆け出していく。それが先生の仕事なんだろう。


 そして、私はまた、放ったらかし。

 仕方ないけどね。


「あっ、えっと……」


 ついて行こうかと思ったけど、行先はきっと戦場だろう。私が行っても足でまといになる未来しか見えない。


「いつもの事だ。心配することはない。

 それよりも、ちょうど良いタイミングだから、もう少し話をしようか」


 何がどうちょうどいいのかはよく分からないけれど、団長の話はまだ続くみたいだ。

【英雄】と称えられる、超偉い騎士様のお話なのでちゃんと聞かないと。


「端的に言うと、エリシア君の行う治療について、ルーィを最優先にして欲しい、ということだ」


「はぁ」


 なんかよく分からず生返事になってしまった。

 別にいいけど、この団長はかなり人徳者っぽいのにそういう贔屓とかするの?って感じ。


「もちろん無理のない範囲で構わないが、有り体に言うと、君をこちらへ無理やりに引き抜いたのはほぼルーィのためなんだ。

 彼は騎士団唯一の治癒術師で、俺たちの命を救ってくれる人だから」


 話が見えずにキョトンとしている私に、言葉を重ねて説明してくれる。


「治癒魔法の使い手が非常に珍しいことは知っていると思う。その中でも、骨まで達した傷を即座に治せるほどの術者は限られる。

 それが出来るルーィが騎士団に居て治療をしてくれることで、団全体の死亡率は見違えるほど少なくなったんだ」


「なるほど」


「それだけ重要な治癒術師だが、ルーィには代わりが居ない。団長の俺ですら、レイズという代わりが居るのにな。

 そもそも治癒術師の職業生命は短い。

 多くの人に求められて魔法を使いすぎ、反動痛でまともに動くことも出来なくなるからだ。

 俺たちは、ルーィの反動痛が激しくなりすぎて、働けなくなることを本当に恐れているんだ」


 熱を入れて私に力説するグレイゼ団長は、本当にルーィ先生のことを頼りにしているのだろう。

 確かに治癒魔法は騎士様にとってなくてはならないものだと思う。


「それなら、なぜ他の治癒術師を雇わないんですか?」


 だから、当たり前の疑問をぶつけてみた。


「もちろん来て欲しいさ。だが、そもそも珍しい治癒術師は引く手あまただ。

 危険で汚いイメージのある軍へ来てくれると思うか?」


「うーん。まあ確かに、治癒術師といえば、教会に居るイメージがあります」


 それに、言わないけれど、私も同じく危ないイメージを持っている。

 今でもこの仕事を続けられるのか不安になるくらいには。


「募集はしているが、なるべくルーィには長く働いて欲しい。充分な休暇を取らせたいが、それも中々出来ていないのが現状だ。

 最近では大規模戦の後に長く伏せったこともある」


 私が最初に見たルーィ先生の身体は、かなり調子が悪いようだった。

 ここ数日でも、魔法を使えばすぐに悪化してしまう。


「命さえあれば治して貰える治癒魔法は素晴らしいが、前線から遠い教会へ行くまでに力尽きてしまうこともあった。

 最前線へ来てくれるルーィがどれだけ有難いか。


 だが、その一方でルーィに大きな負担をかけていることも事実だ。

 常に呼び出しに備えて待機して、どれだけ反動痛がつらくとも出動する。

 団員からのプレッシャーに屈しない強さのある奴だが、実際の痛みに耐え続けられるかは別物だ。


 だから、ルーィの身体を最優先にしてほしい。それが、団員全てを救うことに繋がるからだ」


「分かりました。全力で、先生の身体をサポートします!

 私は先生にこの力を見出して貰えて、今の仕事をもらいました。その恩がありますので、毎日マッサージをすると約束します」


 グレイゼ団長がどれだけルーィ先生のことを信頼して、その力を頼りにしているのか、よく分かった。

 ルーィ先生はきっと、自分の身体を犠牲にしても、騎士達を助け続けるだろう。


 けれど、それで先生が力尽きては意味がない。

 先生をサポートする人も必要だ。


 だから、私がこんなにも強引にここへ配属変更されたのだろう。

 騎士団唯一の、代わりのきかないルーィ先生を守るために。


「ルーィは、文字通り俺たちの生命線だ。

 それを握るのはエリシア君、きみなのだと言うことを心において、職務にあたって欲しい」


「はい、頑張ります!」


 わざわざ時間をとって私にも分かるように説明してくれて、その話の中身も団員を想う熱いものだった。

 グレイゼ団長の金色の瞳は、【英雄】の称号に相応しい輝きと熱意に満ち溢れていて、団員たちをまとめあげる器の大きな人だと思う。

 そのカリスマ性に、私もかなり惹かれる。


 こんなによい人の所で働けるなんて、やっぱり私は運が良い。


 これから、頑張らなきゃっ!



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