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16.熱い決意

 



「あの、すみません……

 教えて頂けるのは本当にありがたいのですが、ほんの少しの時間でいいので頂けませんでしょうか」


「ん? いいけど、どうしたんだい?」


「おなかが、空きました」


 そう。昼休みはキース様のマッサージをしていたので、結局まだご飯が食べれてない。


「それは大変だねぇ! 俺も昼ごはん食べ損なってるし、一緒に食堂へ行こうか」


「すみません、ありがとうございます。

 でも、わたし、ご飯を持って来ていますので」


 寮にはまともなキッチンが無い代わりに、周りに沢山の屋台がある。

 仕事に励む人々は、キッチンがあっても料理をする余裕なんてないので、勤め人たちを目当てに商売する人が居るのだ。


 そこで好きな物を買って食べているので、掃除部の皆は昼ごはんは手軽に持ち運べるものを持ってきていた。


「そうなのか。だが、軍部に勤めるなら団の食堂では食べ放題だぞ?」


「そうなんですか!!」


 絶対、私のおめめはキラッキラに輝いていると思う。食べ放題賄い付きなんて、やっぱり王宮は太っ腹ね!!


「時間の制約はあるが、昼ごはんに限らず、朝や夜も食べたらいい」


「やったー! ありがとうございます!」


 三食分の食費がまるっと浮くと思うだけで、頑張って働くよ!!


 とはいえ今日は持ってきているので、食堂へ持参して食べる。

 ルーィ先生は普通に定食を貰っていた。

 遅くに食べる人用に置いておいてくれているみたいね。


 そして食べ始めたルーィ先生は、静かに早食いという、いかにも軍人さんだなーと思う食べ方だった。

 掃除部では女の子同士、時間が合えば話しながら食べることも多かったし、孤児院の食事時間の騒がしさたるや、知らない人が見たら喧嘩かと思うレベルだ。


 そんな食事風景に慣れている私だけれど、落ち着いて静かに食べるのも悪くない。


 ただ一つ言うとすれば、食べるのが早すぎて私は全く追いつかないってことかな。

 先生が食べ終わって立ち上がったので、私も慌てて片付け始める。まだ食べ終わってないけど仕方ない。


「すまないね、早く食べるのが習慣なもので。

 俺のことは気にせずに食べていて欲しい。先に医務室へ戻っているから」


「あっ、あのっ、はいっ」


 気にせずに、って言われたけど誰かを待たせてるって分かっててのんびりは出来ないよねぇ。

 頑張って早くご飯を食べ、医務室へ行くと白衣を着替えたルーィ先生が何かを書いていた。


 あまりにも自然に血の着いた白衣を着ているから、気にもならないのかと思っていたけれど、一応気にしていたみたいだ。

 それならご飯の前に着替えたら?とも思うが。



「早速だけど、まずはお勉強から頑張って貰えるかな。

 君のマッサージの腕を評価しているんだけれど、それ以外のことも無知では困る」


「はい、頑張ります」


 出身は王立孤児院なので、最低限の教育は受けていると思う。日常レベルの読み書きと計算は出来るから。

 でも、王宮で通用するレベルではない。


「んじゃ、まずは魔物についてね。


 魔物は、大地の魔力が澱んで溜まった所で湧くと言われている。

 意外な所で湧くことも無くはないけれど、基本的には 湧く所は決まっていて、その周辺が魔窟と呼ばれているな。


 人智を越えた力を使う獣で、訓練を受けた兵士であっても複数がかりでないと倒すのは難しい。

 一般人では束になっても勝てない相手だな。

 だから、たった一体でも村に現れれば壊滅的な被害を受けることもある。


 そもそも王都の成り立ちとして、魔窟からなるべく遠い所を選んで人々が住み始め、栄えていった結果王国が出来上がったものだ。

 王都周りは比較的安全だけれど、離れるほどに魔物との遭遇率は上がる。


 それは明確な事実なのに、なぜ人々は開拓のために辺境を目指すのか、知っているかい?」


 滔々と語るルーィ先生の話を黙って聞いていたけれど、一方的に話すだけでなく私も巻き込んで話を進めてくれるらしい。

 分かりやすくてありがたいな。


「土地が豊かだから、ですか?」


 孤児院の面倒を見てくれていた、辺境出身のおばさんから聞いた事がある。

 魔力の多い所では実りが豊かなのだと。


「そう。正直な所、王都周辺は農業には向いていない荒れた土地だ。

 もし、辺境の開拓村が無くなれば、王都の民はたちまち飢えてしまうだろう。


 開拓村と言うと地位が低いように思うかも知れないが、王国にとっての生命線なんだ。

 だから、魔窟の近くに転移盤を設置して、各方面に軍団を組織して、なるべく安全に農業を出来るように守っているわけだ。


 騎士団は人々を守る英雄だが、農民を守ってあげるだけではない。彼らが麦を作ってくれなければ、俺たちは飢えて死ぬしかないのだから。

 彼らへの感謝を忘れてはいけないよ」


 しみじみと語るルーィ先生は、きっと開拓村の出身なのだろう。

 魔物に襲われ壊滅してしまった村の。


「耕せる者は耕し、戦える者は戦う。

 魔法を使えるということは、運命に選ばれたのだと思っているよ。

 だから、選ばれたのだから全力でみんなを守るために力を尽くすんだ」


 いつも穏やかなルーィ先生の中に秘められた熱い決意はとても激しくて。

 これだけの熱意があるから騎士団の皆に先生と呼ばれて尊敬されているのだと思った。


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