妖怪小豆洗いの計画
妖怪小豆洗いの計画
ずうっと昔のこと、とある田舎の川沿いに、妖怪「小豆洗い」が住み着いていた。毎晩川で小豆を洗うだけの妖怪だ。サクサクという音を立てながら、小豆を丁寧に洗い、汚れを落としていく。洗われた小豆は、表面がピカピカになり、まるで宝石のように輝いていた。小豆洗いはそれを一粒ずつ、月にかざして輝かせると、満足気にうなづいては、また小豆を洗い始める。ただそれを繰り返すだけの妖怪だった。
ある日のこと、この妖怪を利用して、金儲けしようとする、悪い人間が現れた。人間は汚れた着物を持って川へ行くと、小豆洗いに話しかけた。
「よぉ、小豆洗い。おれの着物が泥で汚れちまってね。うまいこと洗う方法はないもんかい?」
「おいらに一晩貸してもらえば、綺麗にしてやるよ。明日の晩にまた来な」
人間は小豆洗いに着物を渡すと、一晩待ってから、また会いに行った。
「ほれ、着物を洗っておいた。持って行きな」
「こいつはすごい。こんな上等な着物は見たことがないぞ」
着物はまるで、別の品に生まれ変わったように、美しいものになっていた。泥汚れどころか、色落ちや、ちょっとしたほつれまで、綺麗に直されている。人間はにやりと笑うと、小豆洗いにこう言った。
「これから毎晩、着物を洗ってもらいたいのだがね。村のみんなの着物も、綺麗にしてやりたくてなぁ」
「構わないよ。おいらは汚れたものを、綺麗にするのが好きなんだ」
これが人間の狙いだった。村人の着物を綺麗にしてやりたい、なんていう言葉はもちろん嘘だ。ボロボロになった着物を安く買い取っては、小豆洗いのところへ持って来て、ピカピカにしてから、高値で売りさばくようになったのだ。味を占めた人間は、毎晩小豆洗いに着物を洗わせては、贅沢な暮らしを送るようになっていった。
それから一年ほどが過ぎ、人間はすっかり肥え太り、その見た目は醜い豚のようになっていた。人間はいつものように、着物を持って小豆洗いに会いに行く。小豆洗いは人間を心待ちにしていたようで、無邪気な笑みをこぼしながら、彼を出迎えた。
「よぉ、小豆洗い。今日も着物を洗ってくれよ」
「待っていたよ。おいらは汚れたものを、綺麗にするのが好きなんだ」
人間は小豆洗いに着物を渡すと、その場を立ち去ろうとした。しかしその時、小豆洗いは突然人間の腕を掴むと、そのまま川の中へと引きずり込んだ。
「一年かけて、じっくり汚したんだ。おいらは汚れたものを、綺麗にするのが好きなんだ。ひひひ……」
その後、その人間がどうなったのかを知る者はいない。ただ、その日から小豆を洗うサクサクという音に混じって、何者かのシクシクすすり泣く声が、聞こえるようになったという。
おわり