表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ショートショート(短編集)

妖怪小豆洗いの計画

作者: 清水進ノ介

妖怪小豆洗いの計画


 ずうっと昔のこと、とある田舎の川沿いに、妖怪「小豆洗い」が住み着いていた。毎晩川で小豆を洗うだけの妖怪だ。サクサクという音を立てながら、小豆を丁寧に洗い、汚れを落としていく。洗われた小豆は、表面がピカピカになり、まるで宝石のように輝いていた。小豆洗いはそれを一粒ずつ、月にかざして輝かせると、満足気にうなづいては、また小豆を洗い始める。ただそれを繰り返すだけの妖怪だった。


 ある日のこと、この妖怪を利用して、金儲けしようとする、悪い人間が現れた。人間は汚れた着物を持って川へ行くと、小豆洗いに話しかけた。

「よぉ、小豆洗い。おれの着物が泥で汚れちまってね。うまいこと洗う方法はないもんかい?」

「おいらに一晩貸してもらえば、綺麗にしてやるよ。明日の晩にまた来な」

 人間は小豆洗いに着物を渡すと、一晩待ってから、また会いに行った。

「ほれ、着物を洗っておいた。持って行きな」

「こいつはすごい。こんな上等な着物は見たことがないぞ」


 着物はまるで、別の品に生まれ変わったように、美しいものになっていた。泥汚れどころか、色落ちや、ちょっとしたほつれまで、綺麗に直されている。人間はにやりと笑うと、小豆洗いにこう言った。

「これから毎晩、着物を洗ってもらいたいのだがね。村のみんなの着物も、綺麗にしてやりたくてなぁ」

「構わないよ。おいらは汚れたものを、綺麗にするのが好きなんだ」

 これが人間の狙いだった。村人の着物を綺麗にしてやりたい、なんていう言葉はもちろん嘘だ。ボロボロになった着物を安く買い取っては、小豆洗いのところへ持って来て、ピカピカにしてから、高値で売りさばくようになったのだ。味を占めた人間は、毎晩小豆洗いに着物を洗わせては、贅沢な暮らしを送るようになっていった。


 それから一年ほどが過ぎ、人間はすっかり肥え太り、その見た目は醜い豚のようになっていた。人間はいつものように、着物を持って小豆洗いに会いに行く。小豆洗いは人間を心待ちにしていたようで、無邪気な笑みをこぼしながら、彼を出迎えた。

「よぉ、小豆洗い。今日も着物を洗ってくれよ」

「待っていたよ。おいらは汚れたものを、綺麗にするのが好きなんだ」

 人間は小豆洗いに着物を渡すと、その場を立ち去ろうとした。しかしその時、小豆洗いは突然人間の腕を掴むと、そのまま川の中へと引きずり込んだ。

「一年かけて、じっくり汚したんだ。おいらは汚れたものを、綺麗にするのが好きなんだ。ひひひ……」


 その後、その人間がどうなったのかを知る者はいない。ただ、その日から小豆を洗うサクサクという音に混じって、何者かのシクシクすすり泣く声が、聞こえるようになったという。


おわり

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ