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第2話 王子からの呼び出し

「──アデル・ラーバント子爵令嬢だね。

 まあ、楽にしてくれたまえ。」

 ソファーに腰掛けた目の前の美丈夫が、底のしれない笑顔で告げる。


 肩までの長いプラチナブロンドを、後ろで1つに束ねている。涼やかな緑の目がこちらを油断なく見つめていた。


 ソファーに腰掛けているのはアドリアン・ミュレール王子殿下。その傍らに将来の側仕え候補として入学した、ルイ・ランベール侯爵令息が立っている。


 前髪も襟足も、真っ直ぐに切りそろえられた、青みがかった長い黒髪の前髪の間から、冷たい水色の目が私を睨んでいた。


「は……はひっ……!」

 なんか変な声が出たし。ソファーに浅く腰掛けてうつむく私。もう前なんて見れない。


「君に少々尋ねたいことがあってね。

 こうして生徒会室に来て貰ったわけなんだが。……緊張しているかい?」


「はい、少し……。」

 いえ、かなり……。


 3年生はそろそろ卒業のシーズンだ。

 だからこれまではトリスタン王太子が生徒会長をやってたんだけど、今は弟のアドリアン王子が生徒会長をつとめている。


 別に世襲制ってわけじゃないんだけど、先代の生徒会長からの指名に対して、生徒の過半数が反対しなければ、そのまま生徒会長におさまる仕組みだ。


 役員は生徒会長が選ぶから、副会長がランベール侯爵令息になったというわけ。

 そして今、この生徒会室にいるのは、私、アドリアン王子、ランベール侯爵令息のみ。


 私は生徒会に関わっていないから、そもそも呼び出された目的も分からないし、しかも相手は王子と侯爵令息だ。緊張するなというのは無理なことだよね。


 生徒の自治に委ねていると言っても、学園内の機密事項を取り扱うことの多い生徒会室には、防音魔法がかかっているらしい。


 何を話しても外に漏れないから安心してくれと言われた。ちなみに中からは、外からの音が聞こえるらしい。なるほどね、それで私のノックの音は普通に聞こえたわけだ。


「──君の入学の際の魔力測定値レベルは、いくつだったのかな?」

「魔力測定値……ですか?確か、3だったと記憶していますけど……。」


 魔力の数値がなんだっていうの?

「それは測定担当の間違いだった可能性があります。こちらを使って正しく測り直していただけますでしょうか?」


 ランベール侯爵令息がスッと差し出して来たのは、見たこともない大きな魔道具だ。

 杖みたいな形をしていて、真ん中に数値を指し示す目盛りがついている。


 昔聖女さまが降臨なされた時に作られたもので、我が国では聖教会支部と王家の2つしかないものだとのこと。これで正確に魔力数値が100まで測れるのだと言う。


 え?え?私、なんかの不正でも疑われてるの?魔力が0だと、学園には入学出来ない決まりがあるのだ。大抵の貴族は2は持っているから、私も難なく入学出来たんだけど。


「さあ。これを持って。」

 ランベール侯爵令息が、有無を言わせぬ態度で私に魔道具を差し出してくる。


 怖い。めっちゃ睨んでて怖い。

 怖くて手が強張って、魔道具を掴むことが出来ないでいると、何をしている、と更に強い口調でランベール侯爵令息が睨んだ。


「──よしたまえ。」

 アドリアン王子がやんわりと手で制した。

「しかし……。」


「彼女は我々が待ち望んだ、星読みの聖女さまかも知れないのだからね。

 失礼な態度を取ったら、私でもかばえるかわからないよ、ルイ。」


 ──星読みの聖女さまって何!?


 驚く私に、また底のしれない笑顔を向けてくるアドリアン王子。

「星読みの聖女さまの伝説を知らないかな?

 割りと有名だと思っていたんだけどね。」


「知らない……です……。」

「そうか、ならば説明しよう。」

 私はゴクリとつばを飲み込んだ。


「星読みの聖女さまというのは、かつてこの国に降臨なされたお方で、未来予言をすることの出来たお方だ。それによりこの国は救われたが、お亡くなりになられて久しい。」


「今、各国の中で聖女さまが存在しないのは我が国だけなのだ。だから聖女さまの降臨が待ち望まれているのだよ。」

 と、ランベール侯爵令息。


「マイルス公国の癒やしの聖女さま。

 ドファラカン王国の錬金の聖女さま。

 ガバムール王国の剣の聖女さま。

 パリルック王国の豊穣の聖女さま。

 メンタモ王国の方舟の聖女さま。

 ケーゼレア王国の時空の聖女さま。

 ──そして我がステファモ王国の星読みの聖女さま。各国とも代々同じ能力を持つ聖女さまが現れることになっているのだ。」

 と、アドリアン王子。


 全部の国に聖女がいるなんてこと、授業で習ったっけな──「歴史の授業でも1年生で習うところだぞ?お前授業中寝てたのか?」


 と、ランベール侯爵令息が容赦なく言ってくる。うう……。そうかも知れません。


「やはり信じられませんね、こんな間抜けな生徒が星読みの聖女さまだなどと。」

 ランベール侯爵令息は、腕組みしながらアドリアン王子に向かってため息をついた。


 間抜けって、失礼ね!

 ……ん?ていうか、今なんておっしゃいました?


 アドリアン王子が私を見てニッコリと微笑みながら言った。

「私は君が、その星読みの聖女さまではないかと、思っているのだよ。」

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