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「あなたも早く婚約破棄なさったら?」って大きなお世話よ!  作者: たてみん
学院へ

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95.資材調達

 製材所の中に足を踏み入れると警邏のお兄さんが中に向かって声を掛けた。


「コリキの旦那は居るか? お客を連れて来たぞ」

「おぉー今行く!」


 奥の方から野太い声が返って来た。

 それから数分後、先ほどの声の主だろう。身長2メートル近くて腕が丸太のような男性がやって来た。

 じろりとナンテ達を見下ろしてぼそっと一言。


「なんでぇ。お貴族様のお遊びか。

 残念だがうちは高級木材は扱ってないぞ。

 そういうのは貴族御用達の店に行ってくれ」


 それだけ言って用は済んだと帰ろうとする背中にナンテが声を掛けた。


「あの、小屋を建てる為の丈夫な材木が欲しいんです。

 ここで扱っている材木を見させてもらえないですか?」

「そう言うのは街の大工に頼むものだ」

「それはそうかもですが」


 正論を言われてナンテは言い淀んでしまった。

 畑を耕すなら農家、家を建てるのは大工。それぞれ本職がやった方が良いに決まっている。

 ただ今回は学院の敷地内なので、業者を招き入れるとなると色々と手続きが必要になる気がする。

 それにあまり時間をかけていては入学式に間に合わないし、ひとまず外側だけでも何とかしたい。

 ここはどうにか出来たら助かるのだけどと思案する。

 対してコリキとしては貴族の道楽に自分達が丹精込めて切り出した材木を無駄にされたくないという思いもあるので塩対応だ。


「それにお嬢さん方じゃあ木の良し悪しなんて分からないだろう?」


 その指摘に、しかしナンテは予想外の返答を返した。


「あ、それならきっと大丈夫です」

「何?」


 物の道理を分かっていないにも程がある。

 これはちょっと指導が必要だなとコリキはナンテ達をじろりと見た。


「そこまで言うなら良いだろう。

 試してやるからこっちに来な」


 クイッと指で付いて来るように合図を出して奥へと向かうその背中に、ナンテ達は慌てて付いて行った。

 奥の資材置き場には、文字通り材木が山積みされていた。

 ただし無秩序に置かれているのではなく、材質毎、太さや幅などで揃えて積んであった。

 更にその奥には未加工の丸太も数十本ある。

 コリキはその丸太をコンコンと叩きながらナンテに問うた。


「この丸太の中で一番良いのを選んでみな」


 言われたナンテは端から順番に丸太を見ていった。

 一緒に付いて来たムギナには多少太さや色合いに違いがあるものの、どれも大した違いは無いように思えてしまう。


(大丈夫かしら、ナンテさん)


 ここで間違えれば酷く怒られるのは目に見えている。

 でもこんな何年も木を見て来た専門家じゃないと分からない問題を出すなんてコリキという人は意地悪な人だ。

 もしナンテが上手に答えられなくて変な要求をされたらきっちりと反論しようと心の中で決めた。

 そうしている内にナンテの答えが出たようだ。


「これです。これだけ別格です」


 ナンテが指差したのは他よりも少し細い木だった。

 木というのは基本的に長い年月育てればそれだけ太く立派になる。

 太い方が用途も増えて価値も上がるのが一般的だ。

 積んである丸太の中にはナンテが示した木の倍近い太さのものもあった。

 コリキもふっと息を吐いて言った。


「じゃあその木を買って行くか? もちろん製材もすぐにやってやるぞ」


 しかしナンテは首を横に振った。


「いえ、止めておきます」

「なんだ。良い木なんだろう? それともやっぱり自信が無いのか?」

「そういう訳では無くて、見たところここにはこれ1本しか無いみたいですから。

 他の材木と並べて使うとそこだけ浮いてしまいそうです」

「ほう」


 ナンテが言っているのはこの製材所にある全ての材木の事だ。

 まさかここまで案内する中で全部に目を通していたらしい。

 そして今ここにある丸太と同等の材木は無いと見抜いたという。

 自信に満ちたその言葉は当てずっぽうではないとコリキには感じられた。


「それと」

「ん?」

「こっちの丸太、中の方が腐ってボロボロですよ?」

「なんだって!?」


 ナンテが最初に示したのとは別の丸太を指して言うと、コリキは慌ててその丸太に飛びついた。

 樹皮もしっかりしていて見た目は特に変わった所は無い。

 しかしそれだけじゃ分からないのが木を扱う難しい所だ。

 コリキは叩いたり匂いを嗅いだりして確認した後、勢いよくその丸太を引っ張り出して大声を上げた。


「こいつを今すぐ裏の廃棄所に運び出せ。ハイド病だ!!

 手の空いてる奴は全員で残りの丸太を確認しろ!!」

「「はいっ」」


 製材所内で働いていた男達がコリキの怒声を聞いて慌てて駆けつけて来た。

 ナンテ達は作業の邪魔にならない様にと入口の方に避難する。

 そして一緒に来たコリキが帽子を取りながらナンテに頭を下げた。


「助かったぜお嬢さん」

「どういたしまして。それよりハイド病って何ですか?」

「なんだ、知らずに言い当ててたのか。

 ハイド病ってのはお嬢さんが言った通り、木の中を腐らせてダメにしちまう病気だ。

 外側には出てこないから発見が遅れることで有名なんだ。

 そしてなによりこの病気は一緒に置いてある木に伝染する可能性がある」


 もしナンテが気付かなかったら、あそこに置いてあった丸太が全部だめになっていたかもしれない。

 そうなればかなりの損害だ。


「最初に言い当てた丸太も当たりだったし、お嬢さんはどうやって見分けたんだ?」

「魔力の通り具合からです。

 畑の作物もそうですけど、良いものはハリがあるというか魔力を通すと力強く押し返してくるんです。

 最初の丸太は、魔力に満ちていて通すどころか跳ね返ってくる感じでした。まるで」

「ああ、お察しの通りあれはトレントと呼ばれる魔木だ」


 動物に近い性質の魔物を魔獣と呼ぶが、同様に植物に近い性質の魔物を魔木と呼ぶ。

 トレントはそんな魔木の1つだ。

 加工すれば魔力との親和性が高くなるので魔法使いの杖として使われたり、逆に魔法に耐性のある盾や城門として使われたりする。

 もちろんこの辺りでは滅多に手に入らない高級木材だ。

 そんな木材を自宅の建材として使うのは王家や高位貴族くらいなものだろう。


「ともかくお嬢さんは俺の出した問いに見事答えてみせたし、何よりハイド病を見つけてくれた恩がある。

 流石にタダでとは言えないが、出来るだけ安く材木を譲ろう」

「ありがとうございます」


 こうして無事にナンテは必要な分の材木を買い付けることに成功したのだけど、学院の寮まで持ち帰ったその姿は後日街で噂になっていた。

 まるでそう、材木の壁がひとりでに動いているようだったと。

 小屋を作る為の材木は結構な量になるし、それをナンテが担いで歩いたものだから、人々の目にはナンテが映らなかったのだ。



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