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「あなたも早く婚約破棄なさったら?」って大きなお世話よ!  作者: たてみん
復興の季節

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84/200

84.良き隣人であれ

 精霊たちもすっかり慣れてきた所でお茶のお代わりを淹れつつナンテも気になった事を聞いてみる事にした。


「あの、去年の冷害ですが、精霊術師なら事前に気付けたんじゃないですか?」


 冷害の前の年にはナンテの父であるネモイ辺境伯から国境の領主を通じて両国に冷害が来るかもしれないとは伝えてあった。

 しかし精霊術師が居るのであればそんなこと無くても自分たちで察知できたのではないかとも思う。

 それならもっと冷害に対する備えが出来てても良かったのではないか。

 その問いにマネイは首を横に振った。


「うちのフレアは寒がりでな。

 毎年冬になると引き籠ってしまうんだが、一昨年の冬から今年の春まで姿を消していたんだ」

『わたしアイツ苦手なのよ』


 フレアが言うアイツというのは多分冬将軍の事だろう。

 冬将軍はその名の通り冬の精霊だ。その場にいるだけで周囲を冬に変えてしまう。

 火の精霊のフレアからすれば敵ではないけど天敵といえる存在だ。

 続いてコルムがヒマリヤ王国側の事を話した。


「儂らの所では別の事に気を取られていて対応が遅れたんじゃ。

 契約上、質問した事には答えてもらえるが、それ以外の事はあまり話してはくれんからな」

「別の事というと?」

「魔物じゃよ。今年になって元通りになったが、去年まではゴブリンどもが大量発生していただろう?

 その対策に追われていたんじゃ」

「あぁ」


 森の民の時と同じ問題だ。

 ナンテとしては魔物の森はゴブリンだらけというのが常識だったけれど、実はそれは6年前のちょうどナンテが自分の畑を持ち始めた頃からの話だ。

 それ以前は魔物と言えば確かにゴブリンも多かったが全体の3割から4割で、オークを始め様々な魔物が出没しているのが普通だった。

 去年みたく9割ゴブリン残りトロルというのは異常だったのだ。

 そうなると魔物ハンターを始め魔物を狩ることで生計を立てていた者たちは軒並み生活が苦しくなり国や領主もその原因究明に奔走することになった。


「エリアルからは今年の春にはいつも通りに戻るだろうと言われたので、魔物ハンターなどには一時的な支援を行う事で落ち着いたのだが、そこへあの冷害の報せだったからのう」

「冷害の噂が流れてきても、準備期間が1年ではそこまで対策は取れなかったのよね」

「そうだな。せめて2年。いや3年は欲しかった」


 魔物の肉や素材が手に入らなくなって経済が停滞したところに大飢饉。

 まさに泣きっ面に蜂。

 例年通りの備蓄では耐え凌ぐことも厳しかった。


「だからこちらから送られて来た救援物資には心から感謝している。

 あれのお陰で数万人は助かっただろう」

「帝国からも礼を言いたい。

 あれが無ければ私も今生きてはいなかったかもしれないのだ」


 突然3人が深々と頭を下げて来たのでナンテは驚いた。

 よく見ればエリアルとフレアも伏せの姿勢でナンテに頭を垂れているではないか。


「あ、頭を上げてください。

 困った時はお互い様じゃないですか」

「そう言ってくれるか」

「うちの馬鹿貴族共に1日100回聞かせてやりたい言葉じゃな」

「本当ですねぇ」


 無事に頭は上げてくれたけど、何か矛先が別の所に飛んでいったようだ。

 彼らが帰国後に何事も無い事を祈る。


「ナンテ嬢も何か困ったことがあればいつでも帝国を頼ってくれ」

「あらヒマリヤ王国を頼ってくれても良いのよ」

「うむ、いつでも歓迎するぞい」

「ありがとうございます」


 両国のトップからの言葉だ。お金では替えられない価値があるだろう。

 言われたナンテは頭の片隅にそっと仕舞うだけで出すことは無いかもしれないが。

 ともかくこれにて精霊を交えた会合は終了だ。

 フレアとエリアルはぱっと姿を消し、コロちゃんもいつもの定位置であるナンテの肩の上に飛び乗った。


「この後はどうしましょうか。

 この村で見れるものはもうほとんど無いのですけど」

「ふむ。ナンテ嬢は私達が居なかったら何をしていたんだい?」

「ホルスティーヌ達と一緒に畑仕事ですね」

「ではその様子を見学させてもらって、邪魔にならないところで私達は撤収するというのでどうだろう」

「うむ、儂らに異存は無い」

「分かりました」


 休憩所を出たナンテ達は先ほどとは別の畑へと向かった。


「この畑は先ほどのとは違うのかな?」

「はい。ここは今年から耕している場所になります」


 答えながらナンテは鍬を取り出してせっせと耕し始める。


「まだ肥料の栄養が十分に行きわたっていないのと、石が結構残っているので、こうやって掘り返して混ぜながら、野菜の育ちやすい土壌にしていくんです」


 話しながらもどんどん畑は掘り返され、同時に掘った場所から幾つもの石が飛び出ては畑の外へと飛んでいく。

 マネイ達は畑仕事などほとんど見たことが無いが、ナンテの行っているこれが普通ではない事だけは分かった。


「これは、いったい幾つの魔法を併用したら再現できるんだ?」

「身体強化だけでは鍬がもたないだろうから武器強化もだろう。

 他にも土魔法と風魔法、いや空間魔法や重力魔法も使っているのではないか?」

「え? 畑魔法しか使ってませんけど」

((聞いたことの無い魔法が出て来た))


 昔はナンテも土魔法とか水魔法とか意識していたけど最近では畑で使う魔法は全部畑魔法だ。

 もちろん細かく分けれるのは分かっているが、そこにメリットを感じない。

 木を伐採するのも切り株を掘り起こすのも岩をどけるのもゴブリンを殲滅するのだって結果的に畑の為なのだから畑魔法で良いじゃないか。

 自分は魔法学者ではないのだからとナンテは興味のない分野を彼方へ投げ飛ばしていた。

 そんなことより美味しいジャガイモを育てる方が重要だ。

 そうしていつしか畑仕事に集中し始めたナンテは更に加速しながら黙々と耕していた。


「凄まじいな。これはホルスティーヌ達が本能的に従うのも納得できる」

「さて、では儂らはこの辺で撤収しようか」

「そうですね」


 これ以上は邪魔にしかならないと判断した3人は護衛を伴ってその場から撤収した。

 帰りの馬車の中では特別会話は無かったものの、ちらりとお互いを見ては頷き合っていた。

 どうやら国を背負う経験を持つ者同士、通じるものがあるようだ。

 そして領主邸に戻って来てネモイ辺境伯を見つけると大事な話があるからと執務室へ連れ込んだ。


「それで大事な話とはナンテの事でしょうか」


 辺境伯もナンテが見つかった時点でこうなるかもと予想はしていたので、腹をくくって自分から問いかけた。

 だけどマネイ達の話は想定していたものとは違った。


「辺境伯。貴殿に野心はあるのかな?」

「野心、ですか」


 急になんの話だろうか。

 さっぱり意図が読めないが、答えによって今後の人生が大きく左右される事だけは分かる。


「私はこの領地とここに生きる者たちが平穏で幸せであれば十分です」

「ふむ、そうか……」

「あの、それが何か?」

「いやなに。単刀直入に言うとこの国の王になる気があるなら手を貸すぞということだ」

「は???」


 一体何をどうしたらそんな話になるのか。

 ナンテが何か言ったのか?いやあの子に限ってそんなことを考えるとは思えない。

 じゃあ一体どうして王位簒奪などと言う話になるのか。

 頭の中は?でいっぱいだったが、答えだけは明白だったので素直に答える。


「私にその意志はありません」

「そうか。だがまあ気が変わったらいつでも声を掛けてくれ」

「その時には儂らも呼んで欲しい」

「はぁ」


 3人はあっさりと引き下がると執務室を出ていった。

 ひとり残された辺境伯は呆然と見送るだけだった。



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