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「あなたも早く婚約破棄なさったら?」って大きなお世話よ!  作者: たてみん
復興の季節

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77.ジャガイモの風評改善

 隣国からの要請を受けてアンデス国王は頭を抱えていた。

 それというのも、両国の望みはジャガイモの輸出。

 もしこれが家畜の餌としてジャガイモを求めているというのであれば何の問題も無かった。

 しかし彼らは人が食べる用のジャガイモを欲している。

 それが何を意味しているのか。


(彼らが美味いと称賛している物を、我々が家畜の餌だと見下していると知られたら、彼らの事も見下しているのではないかと思われるだろう)


 これが向こうの地方貴族が言ってるだけだというなら笑い話で終わる。

 しかし良く聞けば王族や皇帝までもが称賛しているというのだ。

 こちらの内情が知られたら侮辱されたと外交問題に発展し最悪戦争になってしまう。

 その場合、東西からの挟み撃ちになるのでアンデス王国に勝ち目はない。

 それだけは何とか避けなければ。

 国王は顔を青くしながら急ぎ会議を開き、肝入りの大臣たちと頭を突き合わせる。


「早急に国内におけるジャガイモの扱いを見直さねばならぬ。

 何か良い案は無いか」

「ふぅむ、そうですなぁ」

「そもそも彼らが食べたジャガイモは本当に美味しかったのでしょうか」

「どういうことだ?」

「両国も食糧難の折に食べたから美味しく感じたのであって、他の食材が充実すれば忘れる程度のものかもしれないと言う事です」

「なるほど、その可能性は高いな」


 空腹は最大のスパイスだ、などと言うように、言い換えれば他にもっと良いものがあればわざわざジャガイモを食べる理由は無くなる。

 両国でも今はまだ食糧が少ない状況が続いているからこちらに依頼しただけで、小麦などが多く収穫出来る秋ごろになれば話題にも上がらなくなるだろうという見立てだ。


「であればそう。『家畜の餌』ではなく『飢饉の際に空腹を満たせるもの』という扱いにするのはどうでしょう。

 これであれば日頃私達が食べていないことの説明にもなれば、平時は家畜の餌としていても問題なくなります」

「おぉ、それは名案だ」

「それならば飢饉を脱した今、我々が口にする必要も無いですな!」

「しかり!」


 彼らの共通意見は『ネモイ辺境伯領で食べられている物を口にしたくない』だった。

 余程あのゴブリン料理がトラウマになっているようである。


「ただ噂話の多くは国境を行き来する行商人から広まるでしょう。

 彼らの口からジャガイモの情報を『正しく』伝えてもらう必要があります」

「ほう、何か策があるのか?」

「はい。国から大々的にお触れを出してジャガイモ料理の大会を開くのです。

 例えばそう『ジャガイモを人が食べられるように調理した者には金一封を与える』とでもすれば大勢集まるでしょう。

 そうすれば、国としてジャガイモを評価していると触れ回る事が出来ます」

「なるほど、悪くない。

 審査員は地方領主にでもやらせれば良いだろう」

「その場に各国の使者を招くというのも良いかもしれません」

「うむうむ」


 こうしてアンデス王国建国以来初となる国を挙げてのジャガイモ料理大会が開かれることになった。

 ただ、この計画は根本的な問題があったために、開催はしばらく先になる。

 というのも、少し考えれば分かる事だが、現状そんなお祭りを行える程食料に余裕はない。

 特にジャガイモを育てている北方は初夏を迎えた今やっと飢餓から回復し始めたところなのだ。

 手元には種芋すら残っていない。

 いくら王命でも無いものは無いのだ。

 それにジャガイモの収穫時期は早くても8月。王都に運び込めるのは9月以降だろう。

 だからこのお触れを聞いた農民たちは呆れるばかりだ。


「王様も不思議な事を考えるのぉ」

「まったくじゃ。例年でもこの時期にあるジャガイモは去年からの残り。

 芽が出てしまっているものも多いじゃろうて、美味いジャガイモなどある訳が無い」


 北方の農家なら当たり前のことだけど、中央貴族や王家がそんなジャガイモ事情を知る訳が無かった。

 しかしそれでもこの政策は多少の成果を上げる事が出来た。

 大会自体が開かれなくても、王家がジャガイモに注目しているということが伝われば良かったからだ。


「王家主催のジャガイモ料理大会が開かれるんだってよ」

「俺去年の冬に初めてジャガイモのスープ食べたけど、意外に美味かったぞ」

「小麦のシチューと並べられたら悩むところだけどな」

「でも今後は王都でもジャガイモの取り扱いが増えるって事だろ?

 うちの畑でもいっちょ作ってみるか」


 民衆の間で様々な意見が出たものの、特に地方に行けば行くほどに好意的な意見が多く出た。

 そしてその話は行商人にも伝わることになる。

 こうして「ジャガイモ=家畜の餌」という情報は他国には広まらずに済んだ。

 もちろんお抱えの諜報機関を通じて上層部には正確にどういう扱いであったかは伝わっていたが。

 一方その頃、ネモイ辺境伯領では両手いっぱいに作物を携えたナンテが領主邸に駆け込んでいた。


「お父様、お母様。見てください。

 今年一番のジャガイモです!」


 満面の笑顔で差し出されたのは畑から掘り出してそのまま持って来たジャガイモだった。

 どれも子供の拳ほどの大きさで立派とは言えないが朗報には違いない。

 両親もその成果に喝采を上げる。


「でかしたぞナンテ。これでもう我が領は安泰だ」

「流石私達の娘ね。

 でも、随分と早くないかしら?」


 記憶が間違っていなければジャガイモの収穫はあと1月は後の筈だ。

 作物を急成長させる魔法など聞いたことが無いし、精霊の力を借りても無理ではないだろうか。

 しかしそこでナンテはムフンと胸を張った。


「実は促成栽培に成功したのです。

 ただ、その影響で御覧の通り1つ1つの実の大きさが小さくなってしまいましたし、味も数段落ちてそうです。

 なのでこれは今回のような緊急時にのみ実施することにしましょう」

「うむ、そうだな。

 それで、収穫量はどれくらいになりそうなんだ?」

「領民全員に配れば1週間分と言ったくらいでしょうか」

「十分だ」


 今はもう、各地で夏野菜の収穫も始まっている。

 それに加えてナンテのジャガイモがあれば何の心配も無い。

 魔物の森に住む森の民からの肉の支援も続いているし、むしろ以前より豊かなほどだ。

 来月には他の畑でもジャガイモの収穫が始まるし、今年は天候も安定しているから冬を越す為の備蓄も確保できる計算だ。

 ネモイ辺境伯は王都から届いた手紙を握り潰しながら喜んだ。



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