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「あなたも早く婚約破棄なさったら?」って大きなお世話よ!  作者: たてみん
復興の季節

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71/200

71.辺境伯領の午後

 ……そして長きにわたる戦いは遂に終わりを迎えた。

 そう心の中で呟きながらチュリは畑の中に倒れ込んだ。


「お疲れ様でした、お義姉さま。少し休憩しましょうか」

「え、えぇ。そうさせてください」


 ひょこっと顔を出したナンテは疲れるどころか汗1つかいていない。

 結局収穫の8割以上をナンテが行ってしまった。

 しかも収穫物を見比べてみると切り口をはじめ明らかにチュリよりも丁寧な仕事ぶりだった。

 経験の差と言えばそれまでだけど、チュリだって別に17年間遊んでいた訳ではない。

 実家に居た頃はメイド見習いとして仕事を叩きこまれて来たし、指先の器用さには自信があった。

 それなのに圧倒的としか言えない状況。

 決してナンテの事を侮っていた訳ではないが、ここまで実力差があるとは思っていなかった。

 そしてチュリが大の字で休んでいる間もナンテはせっせと周囲に指示を出している。


「こちらの箱は領主館へ。

 ここからここまではジャックさんの所に運んで。

 そっちのはサーヤさんのところへ」

「「はいっ」」


 指示を受ける方も慣れたもので、テキパキと荷車に作物の詰まった箱を乗せては何処かに運んでいく。

 一通り指示を出し終えたナンテは鍬を取り出した。


「今度は何を?」

「収穫が終わった畑は耕して次の種を蒔くんです。

 お義姉さまはまだ休んでてください。

 あ、ただ畑の外に出てもらっても良いですか?」

「えぇ。ごめんなさいね」


 畑の中からいそいそと出たチュリは、ようやく息は整ってきたもののまだ立って動くのはしんどかったので、そのままナンテの様子を見ていることにした。


「そぉれ!」

ズドドドドドッ


 可愛い掛け声とは裏腹に物凄い勢いで畑が掘り返されていく。

 しかも一見無秩序に掘っているようでいて、ナンテが耕した後はきちんと畝が出来上がっていた。


「あら、まだ石が埋まってたのね」

「え?」


 ナンテが何か呟いたかと思えば、畑の中から拳大の石が数個浮かび上がって畑の外に飛んでいった。

 物理法則を無視したその動きは間違いなく魔法によるもの。


(あれはまさか【ストーンバレット】の魔法?)


 特に魔力を練った様子も無ければ呪文の詠唱などもしていなかった。

 手に持っている物も魔法の杖などではなく鍬だし。

 まるで息を吸って吐くように魔法を使うナンテにチュリは戦慄を憶えた。


(あんな芸当、学園の生徒でも出来る人が何人いるだろう)


 在学中、魔法の実力は上位だったチュリでも真似をするなら1月位練習期間が欲しいところ。

 というかあんな魔法の使い方、学園では習わなかった。

 一体何処の高名な魔法使いに教わったのだろうか。

 などと考えている間に畑は耕されてしまった。


「じゃあ皆、後の種まきはお願いね」

「お任せください」


 どうやらナンテがやるのは掘り返すまでらしい。

 後を引き継ぐように数人のナンテよりももっと若い子供達がせっせと種を植え始めた。

 なるほど適材適所というものか。

 鍬を振るうには腕力の足りない子供が出来る作業を割り振っているのだろう。

 勉強になるなとチュリは頷いた。

 そんなチュリの元にナンテがやって来て笑顔で言った。


「じゃあそろそろ次に行きましょうか」

「え……ナンテさんは休まないの?」

「これくらいまだまだ平気です」


 ナンテは朝食を終えてからもう4時間以上動き続けている。

 チュリがもう10年歳を取っていたら「これが若さか」なんて呟いていただろう。

 それは兎も角、チュリを伴ってナンテが向かったのは横長の建物。

 扉を開けてみれば独特の獣臭さがチュリを襲った。


「うぐっ」

「慣れないときついですよね。

 外で待ってても大丈夫ですよ?」

「いえ大丈夫です」


 半分以上は見栄と意地だったけど、仮にも姉と呼ばれているのならこれくらいは頑張らないとと思ってしまった。

 そして臭いからして大体察していたが中は厩舎だった。

 掃除や換気を行っていても臭いが染みついてしまうのは仕方ない。


「みんなこんにちわ」

「グモ~~」

「コケッ!」


 ナンテが声を掛ければ向こうからも返事が返ってくる。

 居るのは牛が2頭に鶏が5羽。

 なのだけど、チュリにはちょっと様子がおかしいように思えた。


「あの、ナンテさん。

 この牛と鶏、ちょっと大きくないですか? それに立派な角も生えてますし」

「え? いえ。食料事情が良くないので小柄な方ですよ。

 成長したホルスティーヌは3メートル近くまで成長しますし、ウコッケー達も1メートルくらいになりますから」

「って、それ魔物じゃないですか!!」

「噛み付いたりしないから大丈夫ですよ」


 ホルスティーヌもウコッケーもれっきとした魔物だ。

 ただ一口に魔物と言っても全てが人間を見たら親の仇のごとく襲ってくるわけではない。

 彼らのように温厚で、共生関係を築く事の出来る魔物だって居る。

 むしろ彼らの方が普通の動物よりも頭が良くて意思の疎通が取りやすいから、飼育する分には楽だったりする。

 もちろん躾をしっかりしないと大変な事になるが。


「みんな。この人は私の家族だから。

 怪我させたりしたらぶち殺すからね!」

「ブモッ!」

「コケッ!」


 声に魔力を乗せてナンテが呼び掛ければ全員が敬礼するかのようにビシッと姿勢を正した。

 それを見たチュリは、実は自分の隣に居る少女も魔物なんじゃないだろうかと思ってしまったがそんな筈はない。

 だけど少なくともここのボスがナンテであることを理解したのだった。


「じゃあ皆、散歩に行きましょう」


 そうナンテが呼び掛ければ彼らは綺麗に2列になってナンテの後ろに並んだ。実にお行儀が良い。

 それを見てチュリは、なるほど今から放牧に行くという話のようだと理解した。

 ナンテが歩き出せば、それに続いて彼らも歩き出す。

 そのまま村の中を歩いていくけど、すれ違う村の人達も見慣れている光景なのか驚いた様子はない。

 もし彼らが突然暴れ出したら大惨事になるんじゃないか、などと心配になるのだけど大丈夫なのだろうか。


「ナンテさん。リードとか付けなくて良いの?」

「彼らは勝手にどこかに行ったりしないから大丈夫ですよ。

 それにペットという訳でもないですし」


 ナンテの頭の中ではあくまでも共生関係、つまり対等な立ち位置であって上下の主従関係ではないと思っている。

 もちろん一緒の場所に生きる上で他人を襲わないなどのルールは決めているけど、例えば彼らがどうしても森に帰りたいんだと言ってきたら開放するつもりだ。

 だから当然ロープや鎖で縛るような事もしたくない。


「それに鉄の鎖くらいなら引きちぎれますよ」

「だ、大丈夫なの、それは」

「怒らせなければ大丈夫ですよ。ね?」

「ぶもっ」


 ナンテが問いかければ「その通り!」と言った感じで頷くホルスティーヌ。

 どうやら完全に人間の言葉を理解しているようだ。



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