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「あなたも早く婚約破棄なさったら?」って大きなお世話よ!  作者: たてみん
冬将軍と大飢饉

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64/200

64.3国会談

 ナンテが目覚めたのは突然の冬が明けてから2日後の事だった。

 その頃にはすっかり雪も解けて無くなり、起きたナンテは夢を見ていただけなのかと疑う事になった。

 もちろん夢ではなかったのだけど。


「起きたかナンテ。

 全くあまり心配をさせないでおくれ」

「帰ってきた途端倒れたときは肝が冷えたわ」

「すみません、お父様お母様」


 両親に優しく迎えられたナンテは申し訳ないと謝りつつ、つい気になっていた事を聞くことにした。


「あのそれで、畑はどうなりました?」


 実は畑に魔法を掛けてから1週間経つ頃にはナンテは疲労と魔力切れで意識が朦朧としていたのだ。

 最後はコロちゃんの力で家まで送り届けられたけど、だから無事に畑を守りきれたのか記憶に残っていなかった。


「「……」」


 ナンテの問いかけに何も言わずに顔を見合わせる両親。

 その表情にナンテが駄目だったのかとガッカリしたところでイタズラ大成功と書いたプラカードが出てきそうな勢いで両親は笑顔になった。


「大丈夫だナンテ。ジーネンに確認に行かせたが、葉が数枚枯れた程度でほぼ無事だそうだ」

「むぅ、酷いですお父様。お母様までグルになって」

「私達を心配させた罰よ」

「それと今日1日は外出禁止だ。

 部屋でゆっくり静養すること。いいね」

「はぁい」


 普段から娘に甘い両親がここまで言うのだ。ナンテとしても心配させ過ぎた事を反省して部屋に戻った。

 ベッドに飛び込みつつ、隣でのんきにあくびをしていたコロちゃんを突っつく。


「数日で天気は元通りになるって話だったのに」

『ごめんごめん。僕も10日も続くとは思ってなかったよ』


 数日なら体力も魔力も何とかなるだろうと考えていたのに予想以上に長引いたせいでこの結果になってしまった。

 村人たちからの差し入れが無かったら途中で倒れていただろう。


『ただ限界まで魔力を使い続けたお陰でナンテの魔力量は上がったみたいだね』

「そうなの?」


 自覚は全くないがコロちゃんが言うならそうなのだろう。

 一般的に人の扱える魔力の限界値は生まれた時に8割方決まっている。

 肉体の成長に合わせて限界値に向けて徐々に扱える量は増えていくが急に増えることはない。

 それがほんの数日で限界値ごと一気に増えてしまった。

 学者が聞けば椅子から転げ落ちるだろう。


「でも繰り返しやれと言われても御免かな」

『それが目的でやるにはかなりの苦行だからね。

 僕も今のナンテにはもう勧めたりはしないよ』

「もう?」

『あはは……』


 実はナンテと出会って友達になってからちょいちょい遊びと称して魔力の限界値が上がるように唆していた。

 お陰で魔力量は既に一流の魔術師以上だ。


『それより問題はこれからだよ』

「そうね。冷害による飢饉問題はこれからが本番だもの。

 何とかして冬を乗り越えないとね」


 気温は例年の秋と同じに戻ったけど、既に冬まで1月しかない。

 今からでは畑で育てられるのはちょっとした葉野菜くらいが精々だ。

 後は室内で育てられるもので凌ぐしかない。


 それからは天気も荒れる事無く2週間が過ぎた。

 その間、各地から次々と厳しい報告が届いて来た。

 やはり多くの農地で作物が収穫前にダメになってしまっていたようだ。

 王家もこの緊急事態を受けて全国に食糧支援を要請していたが、当然どこも食糧難なので大して集まらないだろう。


「お父様。王家からの要請はやはりここにも来てるのですか?」

「ああ来たよ。

 だから『確かに承りました』と回答しておいた。

 運ぶのはもう少し後になるけど領内の食糧庫はほぼ空になるだろう」

「えっ!?」


 どういうことだろう。

 以前の話ではネモイ辺境伯領は既に王家に対して食糧支援は行ったから当面はもう行わないと言う話ではなかっただろうか。

 それ程までに王都の食糧事情は逼迫しているということなのか。

 疑問に感じたナンテに父はニヤリと笑った。


「陛下には先日、この領の食料は地方領地への支援に使うと言う言質は取ってある。

 だから輸送隊を組んで各地に配って回る予定だ。

 その為の中継拠点は確保してあるから今度はナンテの手を借りなくても済むだろう」


 父の様子からして王都はまだ余裕がありそうだ。

 そしてその言葉の通り、10月末頃から頻繁に辺境伯領と周辺領地、とりわけ王都に続く南の街道を除いた道を荷馬車が頻繁に行き来するようになった。

 もちろんここ最近増えている盗賊対策に護衛も多く付けている。

 計画が順調にいけばこれで地方の小さな町や村のほとんどに食料が行きわたるだろうと言う話だ。

 逆に王都を始めとして大都市がどうなっているかは見ない事にしているが。

 そして12月に入り本来の冬として雪の降り始めた頃、領主館に2組の使者がやってきた。


「ご無沙汰しておりました。

 ヒマリヤ王国ムクジ公爵家長男のリモンです」

「お忙しい所、お時間を頂き感謝いたします。

 アウルム帝国フォス男爵家のフォラスです」


 ネモイ辺境伯領と接する両国から奇しくも同じ日に顔を合わせる事になった。

 折角なのでとナンテの父であるネモイ辺境伯も合わせて1つのテーブルを囲み3国会談のような形で話をする。

 ちなみにナンテも同席し、他には彼らの護衛が同じ部屋で待機していた。

 最初は軽い雑談から。

 しかし彼らがここへ来た理由は大体分かっている。

 なので一息ついた所で最年長でホストのネモイ辺境伯から本題を切り出した。


「ところで今年の冷害による飢饉はアンデス王国のみならず両国でも問題になっているでしょう。

 十分な対策は取れているのでしょうか」

「それは……」

「正直芳しくはありません」 


 冷夏については去年の内にネモイ辺境伯から両国に打診してあったし、両国でも事前に察知していた者は居ただろう。

 しかし国のトップが旗を振らなければ身動き取れないのが国だ。

 アンデス王国がまともな対策を取れなかったのと同様に両国でも万全とは行かなかったようだ。


「ヒマリヤ王国では静かに耐え凌ぐことになりました。

 消費を限界まで削って春を待ちます」


 熊のように冬眠したかのようにじっと動かずエネルギー消費を抑えようという方針らしい。

 しかし人間は熊ではない。春まで寝続ける訳にはいかないし、何より熊は冬眠前に十分な食事を摂ってから寝るのだ。

 裕福層なら同様の状態かもしれないが、貧しい村の人達はそれが出来ないので冬を乗り切れるだけの体力があるかどうか。

 きっと無理なものは見捨てる決断を下したのだろう。

 一方、フォス男爵の方は。


「アウルム帝国では少ない食料を巡って内戦が起きています。

 ただし無秩序ではなく、皇帝が指揮を執ることでルールに則って戦っていますので壊滅的な被害は出ていません」

「しかし農耕が盛んな領地はそれ程軍事力に長けていないのではないか?」

「はい。ですからそこが直接戦うのではなく、作物を買い取りたい領地どうしが争い、勝った方が優先的に売買交渉を行うという形です」

「なるほどな」


 以前考えていた隣国と戦争を起こして口減らしをするのに比べたら自国内で収まっている分、アンデス王国としては助かる。

 しかし帝国としては戦争孤児が多く生まれるし、その子供達を受け入れられる場所がない。なぜならどこの孤児院だって今居る子供たちを餓死させないように精一杯なのだから。

 両国の問題は食料不足が根幹にあるのは間違いない。

 そして彼らがここに来た目的も正にそれだろう。



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