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「あなたも早く婚約破棄なさったら?」って大きなお世話よ!  作者: たてみん
冬将軍と大飢饉

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63/200

63.大丈夫です!

 突然の冬の襲来を受けて屋敷を飛び出したナンテは急ぎポテイト村へと向かっていた。

 しかしこの季節外れの雪に驚いたのはナンテ達だけではなかった。

 街の人々も慌てて外に出ては空を見上げて不安そうな声を上げている。


「おい雪だ!」

「今年は一体どうなっているんだ!?」

「まさか世界が滅ぶ前兆じゃないだろうね」

「魔物の軍勢が押し寄せて来るんじゃないか!?」


 口々に騒ぎ立て、中には妄言を口にする者さえ居て不安はあっという間に広がっていく。

 普段ならそんな馬鹿なと一蹴するような内容でも、今年の冷夏と合わさって有り得ない事が立て続けに起き過ぎた。

 きっとみんな内々に留めていた不安がここに来て一気に噴出してしまったのだろう。


(このままだとまずいかも)


 不安に駆られた人達が次に起こす行動は領主、つまりナンテの両親の元へと押し寄せることだろう。

 そうなれば両親は彼らをなだめる事に時間を奪われ、今本当にやらなければならない事が出来なくなってしまう。

 何とかして皆を宥めなくては。

 ナンテは行き先を変更し街の広場へと向かった。

 そして広場の中央でみんなに呼びかける。


「みなさん落ち着いて。どうか私の話を聞いてください!

 私は辺境伯の娘のナンテです」


 ナンテの呼びかけは、幸いにして近くに居た街の人達に届いた。

 元々ナンテはこの街ではちょっとした有名人だ。

 それが演説を始めると言うので何が起きるんだと皆集まって来る。

 ナンテは来てくれた人たちを見回してから深呼吸をして話始めた。


「みなさん、私の呼びかけに応えて下さりありがとうございます。

 突然の雪にビックリしてしまいましたね。

 私も家族と一緒に『今年の冬はせっかちね』なんて話してました」


 まずは軽い調子で話す。

 これにより皆が心を落ち着けて、ちゃんと話を聞くゆとりを確保してもらう。

 本題はそれからだ。


「さて、今年の天候不良ですが、実はずっと昔にも同じことがあったそうです。

 えっと今ここには居らっしゃらないようですが、お年寄りの方なら子供の頃に経験したことがあるはずです。

 祖父母から『わしの若い頃はなぁ』なんて聞いたこと無いですか?

 領主館の書庫にはその当時の記録も保管されていました。

 それによると、この雪は一過性のもので、何日かすればいつもの天気に戻るそうです。

 決して何か悪いことが起きる前兆ではないので、安心してください。

 大丈夫です」


 ゆっくりと、一言ずつ伝わるように話していく。

 大切なのは『大丈夫なんだ』と信じてもらう事だ。

 ちなみに過去の記録にこの雪の話はない。ナンテのでっち上げだ。

 だけどコロちゃんからも数日で納まるだろうとお墨付きをもらっているし、みんなに信じてもらうためだからこれくらいの作り話もありだろう。


「とは言っても、急に寒くなりましたよね。

 身近に体調を崩してしまっている方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。

 だから皆さんにお願いです。

 ご近所の方でそう言った方がいないか確認して欲しいんです。

 それとここで伝えた話を他の人にも伝えてください。

 『この寒さは数日で納まるから大丈夫です』と」

「おう、わかったぜ」

「デブンの爺さんなんて腰を抜かして倒れてるかもな」

「俺、南地区の奴らに話してくるよ」

「なら私は東地区に行ってくるわ」


 何人かがナンテの話を聞いて伝令役を買って出てくれた。

 彼らから伝え聞いた人達は一様に「ナンテお嬢様が大丈夫って言ったんなら大丈夫だろう」とちょっと心配になるくらいに素直に聞き入れてくれた。

 そして広場に残った人たちはと言うと。


「それでお嬢様。他に俺達に出来る事は何かないか?」

「そうだよ。いつも世話になってるんだ。こんな時くらい何か恩返しさせておくれ」


 口々にそう言ってくれた。

 折角の好意だ。きちんと受け止めるのが礼儀と言うもの。

 ナンテは彼らの協力を受ける事にした。


「ありがとうございます。

 それなら、畑の収穫を手伝ってもらえないでしょうか。

 数日とは言えこの寒さです。折角の野菜も萎れたり枯れたりしてしまうでしょう。

 そうなる前に農家の方々に協力して収穫出来る分は手分けして済ませて欲しいです」

「よっしゃ任せろ」

「それなら難しい技術とかは要らないね。

 手の空いてる奴らに片っ端から声を掛けて手伝わせるよ」

「はい、よろしくお願いします!」


 これできっと領都の畑の収穫は何とかなる。

 ナンテは解散する彼らを見送った後、改めて自分の畑へと向かった。

 そこには残念ながらまだ収穫するには早すぎるジャガイモ畑が広がっていた。


「色々あり過ぎて植えるのが遅くなってしまったものね」


 本来の収穫予定は10月末から11月にかけて。まだ1月以上もある。

 今掘り起こしても豆粒大のジャガイモしか出てこないだろう。

 しかしこのまま放置すれば確実に寒さで枯れる。


「コロちゃん、何とかならないかな」

『うーん、どうにかして土が凍らないように出来れば良いんだけど』


 頭を悩ませながらふたりでペタペタと畑の土を触ってみる。

 いくら栄養豊富なナンテの畑とは言っても凍るものは凍る。

 今はまだほんのり温かい土も冷気と雪に曝され続ければ明日か明後日には氷漬けだ。


「……あれ、待って」

『なにか思い付いた?』

「うん、まだ地中は温かいわ。

 なら蓋をすれば良いんじゃないかな」


 ナンテが考えたのは地面に蓋を乗せて冷気や雪と直接触れないようにしてしまおうと言う話だ。

 それが出来れば地中に籠った熱のお陰で地面が凍る事は無い。地中のジャガイモもきっと無事だ。

 そして蓋の材料は今空から降って来ている。


「畑全体を覆うかまくらを作るの」

『えっ、そんな大きいもの作れるの?』


 コロちゃんの頭の中には文字通り山のように大きな雪で出来たかまくらが思い浮かんでいたけど、そんな巨大なものを作ろうと思ったらどれだけ魔力が必要な事か。

 残念だけど大地の精霊であるコロちゃんでは自在に雪を操ることは出来ない。

 当然ナンテも無理だろう。


「別に山を作る必要はないよ。

 まぁちょっとやってみるから見てて」


 言いながらナンテは魔法で風を起こす。

 それはそよ風のようなゆるやかなものだ。

 これならそれほど魔力を消費しない。

 そのままじっと1時間。

 畑はナンテの腰位の高さの雪で覆われた。


『随分と雪が積もって来たね』

「うん。コロちゃん、下の方を見てみて」

『どれどれ。おっ、空洞が出来てる』


 ナンテが使った魔法は風を起こすというよりも空気をその場に押し留めるものだった。

 雪はその空気の上に乗ったので高くまで積もったように見えていた。

 これで積もった雪より上の冷気は地面に届かない。

 届かなければ地面が冷えないので凍ることも無い。

 雪と地面の間の空気も流動しなければ雪の冷たさを地面に届けられない。

 空気と言うのは意外と熱伝導率が低いのだ。


「雪の層は数カ所に柱を作ることで最小限の魔力で維持できるようにしたわ。

 あとはじっと空気を留め続ければ1月は無理でも数日なら何とかなるはず」

『数日……その間、ずっとここに?』

「だね。だから我慢比べ」


 下が温かく上が冷たいと空気は入れ替わってしまう。だから魔法を絶やす訳にはいかない。

 その日から10日間、ナンテは村人の差し入れを貰いつつ畑の前に留まり続けるのだった。



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