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「あなたも早く婚約破棄なさったら?」って大きなお世話よ!  作者: たてみん
冬将軍と大飢饉

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58/200

58.王都に到着

 ネモイ辺境伯領を出てから10日。

 ナンテ達は遂に王都へと到着した。

 厳重な警備がされた門を抜ければそこは大勢の人々で賑わう王都の街並みがナンテを迎えてくれると思っていたのだが。


「あれ、意外と静かなんだ」


 若干がっかりするナンテの頭に手を置きながら父は優しく笑った。


「ここは貴族街だからね。

 平民街の方に行けば想像していた通り、賑やかな街並みが見えるだろう」


 なるほど確かに道を歩いている人達はメイドや下男と言った風体だ。

 恐らく何処かの貴族の屋敷に仕えている人達なのだろう。

 彼らは騎士に護られた馬車を見ても特に驚いた様子もない。

 もっとも馬車についている家紋を見て、見覚えがないのか首を傾げているけど。


「今日はまず、このまま王宮の食糧庫に持って来た物資を納品する」

「はい」


 ナンテ達一行はそのまま大通りを進み、ひと際大きな敷地を誇る王宮へと向かっていった。

 その入口で門番に止められた。


「失礼。ネモイ辺境伯様でいらっしゃいますね?」

「そうだ、国王陛下の命により物資の搬入に来た」

「では5番倉庫にご案内いたします」


 王都に入る際の手続きで既に自分たちが来たことは王宮にも伝わっていたのだろう。

 すんなりと中へと通された。

 先導してくれる兵士に付いて行きながらナンテの父は内心で首を傾げた。

 本当に5番倉庫(=そんな若い番号なのか)なのかと。

 しかし向かっている先は確かに5番倉庫の方向だし、実際に到着してみれば合っていた。


「今担当のものを呼んできますので、先に物資の搬入を始めておいて頂けますか?」

「わかった」


 礼をして去って行く兵士を見送った後、改めて倉庫の中を確認してみたが、特に不審な点はない。というか空だ。

 ナンテは父の眉間にしわが寄っているのを見て心配そうに声を掛けた。


「あのお父様? 一体何を疑問に思っているのですか?」

「ん?あぁいや、それほど大したことではないのだがな。

 思ったよりも倉庫に空きがあるのだなと思っただけだ」

「そうですね。これなら馬車5台と言わず10台分でも余裕で納まりますね」


 ナンテの言葉にそうだなと答えつつ、騎士達に命じて馬車からジャガイモの詰まった箱を降ろしていった。

 ちなみに、馬車の荷物は王都に入る直前でナンテの【倉庫】から詰め替えておいた。

 若干二度手間ではあるが、王都の人間にナンテの能力を知られる訳にはいかないので仕方ない。

 そして一通り降ろし終わった頃に文官と思われる男性が数人の兵士を連れてやって来た。


「物資の搬入ご苦労様です。

 私は内務官のパポイ・レンソウです」

「ネモイ辺境伯領領主のホクトだ。

 国王陛下の命により、食料の搬入に来た。

 今回持ち込んだ食料はこれで全部になる。ご確認頂きたい」

「はい、少々お待ちください」


 パポイと名乗った男性は、几帳面そうな様子で山積みされた箱の中身を確認しては手元のノートに書き込み、連れて来た兵士に倉庫の中に運ぶように命じていった。

 そして全ての搬入が済むと1枚の書類を持ってこちらに来た。


「ジャガイモ180箱、確かに受取りました。こちら受領書になります」

「うむ、ありがとう」

「それにしても本当にジャガイモしかないんですね」


 どことなく冷めた目をするパポイに対し、ナンテの父は無表情なまま応じた。


「何か問題でもありましたかな」

「いえ、幾ら冷害で食糧難になりそうとはいえ、このようなものに頼ることになるとを残念に思っただけです」

「そうですか。では我々はこれで」


 特に何も言い返すことなく馬車に乗り込みその場を後にした。

 王宮を出たところでナンテの頭に手を置きながら父は申し訳なさそうに話した。


「嫌なものを見せてしまったな」

「私は大丈夫です」

「あれが中央でのジャガイモに対する評価なんだ。

 小麦の育たない土地での代替作物。

 家畜の飼料か貧民の食料扱いだ」

「ジャガイモ美味しいのに。

 でも望まない人達に無理に食べさせる必要もないですよね」

「ふふ、そうだね。

 と、この先が平民街だよ」


 門を抜ければ街の様子は一変した。

 建物1つ1つがこじんまりとしたものになり密集して建てられ、道を歩く人の数は両手では全く数えられない程だ。

 これにはナンテも驚いていた。


「王都には人が多いと聞いてたけど、こんなに多いんですね」

「今は特に多い時間帯だね」


 ナンテはひらひらで色とりどりの服を着た人達を馬車の上から眺めてみた。

 恐らくあれが最近の流行のファッションと言うものなのだろう。

 対して自分はどうか。

 丈夫さ重視で硬い布の生地で、色合いも地味なものばかりだ。

 

「……ナンテもああいった服を着てみたいかい?」

「いえ全く。あれではすぐに破けてしまいそうで怖いもの」


 じっと見ていたので興味があるのかなと思ったけどそんな事は無かったようだ。

 父としては娘の着飾った姿というのも見てみたかったし、今回は世話になりっぱなしなので何かプレゼント出来たらとも思ったのだけど当てが外れてしまった。

 それにナンテにとって重要なのは可愛さよりも機能性、もっと言えば畑仕事に向いているかどうかだ。


「それよりお父様。私は市場を見て回りたいです」

「そうだね。なら馬車を預けてから行ってみようか」


 ネモイ辺境伯家は王都に屋敷を構えていたりはしないので、郊外にある馬車も泊められる宿屋を利用することになる。

 そこから街中に戻るのは手間だけど、馬車があってはのんびり品物を見定めることが出来ないので仕方がない。


「お父様。あっちのお店に入ってみましょう」

「あれは何を売ってるのかしら」

「見てお父様。珍しいものが沢山あるわ」


 市場ではしゃぐナンテを見て、ようやく子供らしい姿が見れたと喜ぶのもつかの間。余りのナンテの元気の良さにちょっと疲れてしまいそうだ。


「ナンテ。慌てなくても明日もあるのだからね」

「はい。そう言えば、いつまでこちらに滞在するんですか?」

「明後日の午後に陛下に謁見するので3日後の朝に出るよ。

 謁見には私ひとりで行くからナンテこの2日で買うものを選んでおいて欲しい」

「分かりました!」


 王都まで荷物を運んできて、帰りは空の馬車を走らせるのでは勿体ない。

 なのでこれを機に辺境伯領ではなかなか手に入らない品物を買って帰ろうという話だ。

 ついでに家で待っている母やジーネンにお土産を買ってあげたい。

 そう考えれば2日ではむしろ足りないかもと思うナンテだった。



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