53.冬将軍と闖入者たち
夏でなお雪に覆われた山の頂。それが冬将軍の住処だった。
ただ、入口があった山と同じかと言えば違う。
なぜならその山の頂上に雪は無かったはずだからだ。
「それでコロちゃん。
肝心の冬将軍はどこに居るの?」
『我はここである』
「!」
ナンテの問いかけに答えは別の所から聞こえて来た。
声のした方を見ればそこに居たのは真っ白で巨大なふわふわのもこもこ。
精霊は生き物の姿とは限らないのでふわもこでも不思議ではない。
「あなたが冬将軍?」
『いかにも』
巨大なふわもこが頷く様な仕草をした。
よく見れば顔も付いてれば足も生えている。
動物に例えるなら羊の毛皮を着た白熊。それが冬将軍という精霊だった。
「これは確かに暑いの苦手だよね」
厚着に厚着を重ねた姿は見るからに暑そうだ。
この雪山くらいの寒さで丁度いいだろう。
と、そんな観察してる場合ではない。
初対面なのだ。ちゃんと挨拶をしなければ。
「お初にお目にかかります。
私はナンテ。こっちはお友達のコロちゃんです」
『よくここまで来た、小さな友ナンテ。
コロちゃんも久しいな』
『遊びに来たよ冬将軍』
コロちゃんと冬将軍は顔なじみのようだ。
それと精霊に敬称は不要だ。
つまり冬将軍『様』ではなく冬将軍と呼ぶのが正しい。
コロちゃんは『ちゃん』まで含めて名前になる。
挨拶が済んだので続いてナンテはちょっと自分の欲求に素直になってみた。
「あの冬将軍。もし良かったら体に触らせてもらってもいいですか?」
『うむ、まぁ良いぞ』
許可をもらったナンテはトコトコと冬将軍に近づき、その身体に手を伸ばす。
ズボッ
触れたと思ったら抵抗も無く腕が埋まってしまう。
そのまま上半身全部がそのふわふわな体毛の海に埋まってしまった。
いっそ全身をその体毛に任せてしまえば至福が待っているかもしれないと思うけど、それでは会話が出来ないので気合を入れて身体を引き抜いた。
「ふぅ」
『堪能したか』
「はい。ありがとうございます」
冬将軍の身体は見た目以上にふわもこであった。
この触り心地を堪能出来ただけでも来てよかったと思う。
『さて、ナンテには何か礼をせねばならんな』
「はえ?」
突然冬将軍がよく分からない事を言い出した。
ナンテと冬将軍は今日初めて会ったので何かお礼をしてもらう謂れはないはずだ。
「私何かしましたか?」
『ダンジョンの掃除をしてくれたであろう。
あれのお陰で予定よりも早く仕事が終わりそうだ』
「仕事……」
そう言えば冬将軍は何か目的があってこの大陸に来たらしい。
仕事というのもその目的に基づくものだろう。
「冬将軍の仕事って……」
「見つけたぞ悪精!!」
「『!!?』」
突然どこからか呼ぶ声が響いて来た。
一体何処からだと周囲を見渡せば太陽を背に立つ人影があった。
『何者だ!?』
「……?」
冬将軍の問いかけに、人影は無視した訳では無さそうだが首を傾げるだけだった。
それを見たナンテはひとつ思い当たることがあった。
きっとあの人影は精霊の言葉が理解出来なかったのだ。
その場合、冬将軍が吠えただけに思えたのだろう。
なのでナンテが通訳することにした。
「あなたは誰? 専用の通路を通らないとここには来れないみたいなんだけど」
「なっ、こんなところに何で子供が居るんだ!?」
人里から遠く離れた所に明らかに成人していない少女が居たら不思議だろう。
ただ、この場でナンテの事はそこまで重要ではない。
「私はちょっと遊びに来ただけ。
それよりも先ほど悪精と呼んでいたけどどういう意味なの?」
「ん~まぁいいか。
俺は神プルトに選ばれし勇者アルファ。
君も今この大陸で起きている冷害について気付いているだろう?
その原因がそこに居る悪精だ。
俺は神のお導きにより、その悪精を討伐するために来たんだ」
「勇者、ですか」
金属鎧に身を包み、幅30センチはある大剣を肩に担いだその男は自分の事を勇者だと言った。
勇者というのは神と契約を結んだものの総称だ。
彼らは神から多大なる恩恵を受ける代わりに神の代行者としての任務を与えられる、らしい。
教会関係の本にそう書いてあった。
つまりここに来たのもその神の指示によるものだろう。
移動も神の力を使えばそれほど難しくもない筈だ。
「それで、その神が冬将軍を倒せと言ったの?」
「そうとも!
世界を混乱させる精霊など滅んでしまえば良いのだ!」
ズビシッと冬将軍を指しながら胸を張るアルファ。
その姿を格好いいと思う人は居るだろう。
しかしナンテは精霊側の人間だ。精霊に敵対する者に魅力は感じない。
そしてこの場で勇者と対峙するのは自分の役目だろうと一歩前に出たところでしかし、再び横から待ったの声が掛った。
「そこな勇者、少し待つのである!」
「むっ、何者だ!」
声のした方には最初の勇者とはまた違った男が立っていた。
草を編んだ帽子に裾の広いズボン。腰には2本の剣を差している。
男は帽子を取りながら名乗りを上げた。
「我輩は神ウランから神託を受けた勇者ツヴァイ。
その精霊の力は我輩が貰い受ける」
「ほう、つまり俺の邪魔をしようってのか。
面白れぇ。出来るもんならやってみやがれ」
そう言って睨み合う勇者たち。
同じ勇者と言ってもどうやら仕える神が違えば敵対もしているようだ。
置いてけぼりになった形のナンテはそっと冬将軍に耳打ちした。
「今のうちにここを離れませんか?」
『うむ、そうしよう』
早くも剣を切り結んでいる勇者たちに気付かれないようにナンテ達はこっそり移動を開始した。
「どこか身を隠す場所はありますか?」
『いや、次の地に向かうとしよう。
そうすれば奴らも追ってはこれまい。
ナンテよ。我の背に乗りなさい』
「はいっ」
体毛がもこもこ過ぎて半ば毛に埋まりながらも何とかナンテは冬将軍の背中に乗った。
それを確認した冬将軍は雪の上をゴム鞠のようにぽんぽんと飛び跳ねながら隣の山に飛んでいってしまった。
後ろを振り返ってもさっきの勇者たちの気配はないので無事に撒く事が出来たようだ。
最初はナンテが勇者と対峙して撃退するコースもあったのですが、ちょっと殺伐としすぎたので別ルートへ。




