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「あなたも早く婚約破棄なさったら?」って大きなお世話よ!  作者: たてみん
冬将軍と大飢饉

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50/200

50.気楽な一人旅

 ナンテはコロちゃんを連れて旅に出た。

 今回は珍しくコロちゃんを除けば一人旅だ。

 目的は今この大陸に来ているという冬将軍に会う事。

 会ってどうするかは特に決めてはいない。


「遠路はるばる来てくれたのだからご挨拶しましょう」

『おーっ』


 お気楽なのはナンテだけでも無かった。

 まるでこれからピクニックにでも行くような雰囲気である。


「それでコロちゃん。

 冬将軍にはどこに行けば会えるの?」

『あっちだよ』


 指差されたのは南西。ただし横ではなく斜め上を示していた。

 そこには青い空が広がっているだけだ。

 だけどコロちゃんがそっちだと言うのならナンテに疑うという選択肢は無い。

 ひたすら信じて歩き続けるだけだ。


「それにしても旅行する分には丁度良い気温だよね」


 現在は初夏。本来なら晴れた日差しの下に立っているだけでも多少汗ばむ陽気だったはずだ。

 しかし実際には春先の、ただ立っているだけだと風が冷たいかなと感じる気温だ。

 今みたいに歩き続けている分には適温に感じる。

 周囲に生えている草も春のものが目立つ。

 不意にしゃがんだナンテは手近な1本を摘んでしげしげと眺めた。


「畑だけじゃなく野草の生育にも影響が出てるのね」

『うん。とは言っても全く育たないのではなく小さく育つって感じになると思うよ』

「そっか」


 自然に生えている野草と人が手を加えた畑の作物とでは求められている到達点が違う。

 野草の場合、もちろん欲を言えば大きく育って花や実を沢山付けたいのかもしれない。けど最低限枯れなければ良いのだ。

 対して畑の作物は可食部が育ってくれないと意味がない。

 ジャガイモに例えるなら地上部分がどんなに大きく成長しても、豆粒のようなジャガイモしか出来なかったら種芋としては使えるだろうが食べるのは厳しい。

 つまり今回の冬将軍による冷害は、人間にとっては厳しいものであるものの、自然界の特に植物にとってはそれほど問題ではなかったのかもしれない。


「野草はそれで良いとして、動物たちは大丈夫かしら」

『うん、まぁ確かに食べ物は減っているだろうね』


 話ながらナンテ達は林の中へと突入していった。

 この旅でナンテは街道を無視してコロちゃんが示した方向に真っすぐに進んでいる。

 草原を抜け、林を抜け、湖は流石に迂回しようと思っているけど川くらいなら魔法を使って飛び越える予定だ。

 一人旅なので休憩なども自分のペースで取れる。

 

「私、岩登りとか初めてしたわ」

『あはは、がんばれー』


 高さ5メートルを超える壁にぶつかればロッククライミングの要領で踏破していく。

 こんなこと領主の娘で畑仕事をする生活ではまず体験できないものだ。

 それが今後の人生に何か役に立つのかと聞かれると分からないけど、それでいいのだ。


(新しい事をしてるってことは成長してるってことだものね)


 ちなみにその間ずっとコロちゃんはナンテの肩に乗ったままだ。

 鼻歌交じりにナンテを応援するが自分で歩く予定は無さそうだ。

 まぁコロちゃんは全然重くないので問題はない。

 それにコロちゃんだってただサボっているという訳でもない。


『ナンテ、あそこに赤いキノコがあるでしょ』

「うん」

『あれは触ると手がかぶれるから要注意だよ』

「わかった!」

『同じ赤でも向こうのキノコは焼いて食べると美味しい』

「じゃあ今日の晩御飯はそれね」


 こんな感じで目に付いた野草やキノコの紹介をしてくれていた。

 教えてもらった内の多くは辺境伯領では見たことのないものだ。


「やっぱりコロちゃんは博識だね」

『へへんっ』


 ナンテに褒められてコロちゃんは得意げだ。

 どうせ他にすることも無いので色々とマメ知識も披露していく。


『あっちの木の枝がくるんっと丸まってるだろ?

 あれは風の精霊がいたずらしていった跡なんだよ』

「ならあそこで待ってたら風の精霊に会える?」

『どうかな。風の精霊は気まぐれだからね。

 でも彼らが居たって事はそれだけ居心地の良い場所だって事だ。

 嫌な場所だったら何もせずにさっさと通り過ぎていくから』


 精霊というのは大体において自分に正直だ。

 やりたくない事を無理してやることはないし、嫌な場所からはさっさと立ち去る。

 『精霊が逃げた国は亡びる』という諺があるほどだ。

 その為、一部の学者の間では昨今の精霊術師の減少を危険視している。

 ただ残念な事にまだ何も起きていない今は楽観視している者が大多数だが。

 ともかくつい最近、ここに精霊が居たと言う事は確かだ。

 それだけこの森は精霊から評価されているということ。


「じゃあ今日はこの森で一泊していきましょう」

『うん、良いと思うよ』


 まだ夜営には早い時間だけど無理に先を急ぐ旅でもない。

 ナンテは散歩するように足取り軽く進みながら、薪を拾いつつ今日の寝床に良さそうな場所を探すのだった。


 夜。

 焚き火を囲みながら星空を見上げてのんびりと過ごす。

 こういう時に話し相手が居てくれるお陰ですごく心が休まるのだ。


「やっぱり魔物の森に比べると襲われる頻度はだいぶ少ないね」

『僕はゴブリンばっかりでちょっと飽きて来たよ』


 ネモイ辺境伯領の北に広がる魔物の森は、その名の通り多くの魔物が生息している。

 しかし別にそれ以外の森に魔物が出ない訳ではない。

 それでもこちらから探さなければ1時間に1回くらいしか会わないのだから十分に少ないと言える。


「冬将軍の居るところまではまだ遠いのかな」

『明日には住処の入口に着くと思うよ』

「入口?」

『そう入口』


 入口があると言う事は出口もある。

 いやそう言う事ではなく、入口から冬将軍が居る場所までも距離があるという意味だ。


(よっぽど大きな家に住んでいるのかな)


 ナンテが想像できる一番大きな建物は、以前アウルム帝国との国境に行った時に寄った砦になる。

 それでも入口から一番奥まった所に行くのに30分も掛からない。

 となるとイメージすべきものがそもそも家ではないのかもしれない。

 なにせ相手は精霊だ。

 遥か彼方に見える霊峰が丸々住処ですって言われても不思議ではない。

 それなら確かに入口=山の麓になるので頂上まで数日掛かると言われても納得だ。

 ナンテはそんな高い山にはまだ上ったことが無いので、どんなところなのかをあれこれ想像しながら眠りに就いた。



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