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「あなたも早く婚約破棄なさったら?」って大きなお世話よ!  作者: たてみん
精霊の試練

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37.空からの襲来

 ナンテが西の森を耕し始めてから数時間が経過した。


「大分整ってきたわね」


 一息入れながら周囲を見渡せば、へし折られて木々はジーネンによって端に避けられた後にナンテの【倉庫】に収納され、空いた土地もナンテによって耕されたので、人によっては裏山に造られたプライベートガーデンのように見えるかもしれない。

 とは言っても今はまだむき出しの土が見えるだけだ。


「しかしお嬢様。もうすぐ冬です。

 今からでは何かを植えても収穫出来ないのではないでしょうか」

「そうね。

 それに地面を掘り起こせばすぐに畑になるかと言えばそうでもないし。

 今年はこのまま肥料を埋め込んで、来年の春になってから種まきするのが良いと思うわ」


 元々ナンテがここを耕そうと思ったのは別に今年の収穫を見込んでの事ではない。

 なにせ今年の冬を乗り切れるだけの食料は既にマルマの所に置いて来たのだ。

 だから今年は大丈夫。でも来年以降も同じようにすることは出来ない。

 再来年は冬将軍の到来と共に冷夏になることが予見されているので、それに向けてナンテ達も食料の備蓄を増やさなければいけないからだ。

 それにここに頻繁に足を運ぶ案も現実的ではない。

 だから森の民には自分たちで食料の自給自足を満たしてもらう必要がある。

 その為にナンテが出来る事と言ったら、こうして土地を耕してあげることくらいのものだ。


「それにもし畑にしないとしても、こうして耕しておけばすぐに草が生えて元の森に戻るでしょう」


 いずれにしてもここに生きるモノにとってはプラスになるのだからナンテとしては問題ない。

 仮にここを森の民が活用せずに、結果として森の民が困窮したらどうするか。

 残念だがナンテはそこまで責任を持つ気はない。

 なぜなら今回はコロちゃんに頼まれたので助けたが、将来に渡って庇護する責任も権利もナンテは持ち合わせていないからだ。

 森の民の村はいわば小さな独立国家。他国の民のナンテが介入し過ぎるのも問題になる。

 これ以上何かをして欲しいのなら正式に村の人から依頼してもらうべきだろう。


「今回やりたかったことはこれで済んだから、明日の朝には帰りましょう」

「承知しました。他の者にも伝えておきます」

「ええ、お願い」


 などと話していた所で森がざわつき始めたことにナンテもジーネンも気が付いた。

 畑仕事の手を止めて周囲を見渡せば、どこからか強い魔力が流れてきている。

 更に先ほどまで晴れていた空にも雲が出始めていた。


「これは何か嫌な感じね。多分魔物だわ。それも強力な」

「急ぎ村に戻りますか?」

「……いいえ、ここで迎え討ちます」


 森の奥から流れて来る嫌な臭いの魔力は今まで感じた事の無いものだ。

 もしかしたらかなり強力な魔物が、例えばここの木々をなぎ倒した魔物が近づいて来ているのかもしれない。

 それなら急ぎ村に戻って守りを固めた方が良いのではないかとも思うが、仮に既に向こうがナンテ達を捕捉していた場合、魔物を村におびき寄せる結果になってしまう。

 それにだ。


「【畑の民】の実力を見せてあげましょう」

「はっはっは。それは良いですな」


 咄嗟に名乗った名前だったけど、案外ナンテは気に入っていた。

 そしてここは今日一日がっつりと耕した正真正銘ナンテの畑だ。

 ナンテにとって自分の畑(ここ)よりも戦いに適した場所は無い。

 それにまだ種も植えていないのでいくら掘り返しても何の問題も無い。

 今ならトロルが軍を成してやって来ても撃退出来るだろう。


「来たみたいね」


 ナンテの探知範囲に巨大な魔物の気配を捉えた。

 一直線にナンテ達の方に向かってくることから、向こうもナンテ達を捕捉しているのだろう。

 同時に叫び声のような音も聞こえてくる。


『ァーーーッ』

「酷い声ね」

「恐らく声帯が無いのでしょう」


 人間のように話したり歌ったりできる魔物は滅多に居ない。

 なので魔物が声とも言えない声を発するのは良くあることだ。

 ただ気になるのはやけにクリアに聞こえる事か。


「……そっか! 木々が倒れるような音が聞こえないんだわ」

「む、たしかに。この場所を破壊するほどの魔物なら通り道にある木もなぎ倒しながら移動する筈」

「それが無いという事は……上よ!」


 ナンテの言葉を肯定するように上空に大きな影が現れた。

 その姿を見てジーネンは思わず後ずさった。


「あれはまさかドラ……」

「また随分と大きな羽付きトカゲね!」

「いえあれは」

「でも残念。腐ってて食べられそうにないわ」

「……」


 ジーネンはあれはドラゴンだと訂正しようとして、止めた。

 ドラゴンと言えば物語の中に出て来る最強の魔物。

 それも今目の前に居るのは肉体が腐敗したドラゴンゾンビだ。

 通常のドラゴンに比べて真面な筋肉はないので身体能力は劣っているだろうが、魔力でその巨体を飛ばしている力は本物だ。そこらの魔物とは格が違う。

 しかしナンテにそれを伝えても委縮させるだけで事態が好転する訳ではない。

 それならちょっと変わったトカゲだと勘違いしてもらってた方がよいだろう。


『ァーーーッ』

「なるほど。あれじゃあ声は出ないわね」

「そんな悠長に観察している場合でもないような。

 っと、降りてきますぞ!」


 ドラゴンゾンビは見た目の醜悪さとは裏腹にふわりと優雅に降下してきて。


バキバキバキッ

(あっ)


 足元にあった木を何本もなぎ倒していた。

 どうやら先日も同じようにしてこの場所を破壊したのだろう。

 そして降りたった目的はもちろん、獲物を捕食する為だ。


『ァーーーッ』

「わわっ、ていっ」


 首を伸ばすように噛み付いて来たドラゴンゾンビの攻撃をナンテは横に飛んで避ける。

 そのついでに鍬を振り下ろして横っ面を切り裂いた。


「よかった。鱗が無い分、簡単に鍬が通るわ」

「しかし見た目以上に動きが早いようです。お気を付けください」

「ええ。って凄い回復速度だわ」


 言ってる間にナンテが切り裂いた場所が元に戻ってしまった。


「でも腐った状態に戻るのね」

「あれが奴の正常な状態ということなのでしょう」


 そんな凄い回復力があるのなら腐敗する前の正常な肉体を取り戻せるんじゃないかとも思うけど、そうもいかないらしい。

 まあ魔物の事情をとやかく考えても仕方がない。


「ともかく放置してたら畑を荒らす害獣には違いないわ。

 ここできっちり止めを刺すわよ」

「ははっ」


 自分達より何倍も大きい魔物が相手だが、ナンテは臆することなく鍬を構えて飛び掛かるのだった。



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