33.村に到着
森の民と合流してからも魔物の襲撃は当然のようにある。
「セリ、ナズ」
「おう!」
「まかせろ」
しかし昨日森に入った時同様にナンテ達の出番はない。
今は先行している森の民が討伐してくれている。
そして彼らの戦い方はハンターのオニギ達とは大分違った。
というのも、基本的に盾を持っていないし魔物の攻撃を防ぐという事をしない。
身軽な者が1人前に出て魔物の注意を引き付け、その隙に他の者が樹上や背後から体重を乗せた斧の一撃で致命傷を与える。
1体倒したら素早く後退し、別の者が次の魔物を足止めして、またその隙に視界の外から攻撃を加えると言うのを繰り返す。
出たり入ったりと忙しなくも見えるが、お陰で魔物は狙いを付ける事も出来ずに一方的に討伐されていった。
「見事なものね」
「これが我等の生業だからな」
そうだろう。これほど見事な連携が一朝一夕で出来るものではない。
お陰で魔物が出てもナンテ達は立ち止まる必要がない程だ。
最初こそ協力して討伐に当たった方が良いかなとも思ったけど、逆に彼らの連携の邪魔をするだけになりそうだ。
なのですぐに後方の警戒だけに留める事にしたがそれで正解だっただろう。
しばらくしたところでブナが少し緊張を解きながら振り返った。
「もうすぐ村だ。ここまでくれば魔物もそう出ないだろう」
「分かりま、止まって!」
一瞬緩みかけた空気をナンテが慌てて呼び止めた。
その声に慌ててみんなが周囲を警戒するも、ねずみ1匹動く気配もない。
ここで「なんだ少女の早とちりか」と考えるのは付き合いの短い森の民だけだ。
ブナは危険はないと見て改めて振り返りナンテの方を見た。
「脅かさないでくれ。何も居ないじゃないか」
「ふん、未熟者が!」
「いだっ」
音もなく木の上から降って来た壮年の男性のゲンコツがブナの頭に落ちた。
それと同時にナンテ達の正面に10人程が姿を現わした。
ただ、彼らに殺気は無く、見た目もブナ達と似たようなものだったので敵では無いようだ。
ブナが慌てて自分を殴った相手の顔を見てビシッと背筋を伸ばした。
「せ、戦士長シダ。どうしてここに」
「お前達が客人に無礼を働いているようだと聞いて迎えに来たんだ。この大馬鹿者!
お客人方、うちの若い者が迷惑を掛けて済まない」
「いえ、こちらに被害もありませんでしたのでお気になさらないでください」
シダが頭を下げると後ろの男達も一斉に頭を下げた。
しかし思い当たるものと言えばトロルを嗾けられたことくらいだ。
ナンテとしてはトロルはそこまで強敵でもなかったのであっさりと謝罪を受け入れる事にした。
「どうぞこちらへ。村長達がお待ちです」
「ええ、ありがとうございます」
「お前達は先に村に戻って歓迎の用意を手伝ってこい」
「はいっ」
ブナ達が慌てて村へと駆け戻るのを見ながら、ナンテ達はシダに先導されて歩いた。
彼らの村は本当にすぐそばにあったらしく、10分と掛からずにその姿を現わした。
「これが森の民の村なのね」
外側は木の柵で囲んでいるのはナンテ達の国の村でもよく見られるものだ。
一番の違いはその柵が周囲の木を使って高さ5メートル以上になっていることか。
これはきっと木を伝って上から侵入しようとするのを阻止する為だろう。
ゴブリンやトロルではそんな芸当は出来ないが、猿に似た魔物や空を飛ぶ魔物だって居るので、むしろこれでもまだ足りないんじゃないかと思ってしまう程だ。
その柵の一部が門のようになっていて、そこから村の中へと入れば、自然豊かという1点を除けばナンテ達の知る村とそれ程違いの無い光景が広がっていた。
村の中には畑もあれば家畜も居て子供たちがそれらの世話をしているのも見える。
その子供達は村の外の人間が珍しいらしく皆一様に手を止めてナンテ達を見ていた。
近づいて来たりしないのは多分シダ達が一緒だからだろう。
「ようこそ我等の村へ」
「……」
「この先に村長の家があります。歓迎の用意もしていますのでそちらまでお越しください」
「はい……分かりました」
若干上の空でシダの言葉に答えるナンテ達。
というのもその意識は村の住民に向けられたままだったからだ。
(あの耳は何かしら)
村の子供達の頭の上には立派な耳が付いていた。それも犬やキツネに似たふさふさした耳だ。
耳以外はそこまで自分達と違いは無いように思えるので、ちょっと不思議な感じだ。
ここまで一緒に来たシダやブナ達は全員フードを被っていたから分からなかったが、よく見ればフードの耳の部分が盛り上がっているように見えるので多分同じなのだろう。
「ようこそおいでくださいました。お客人方」
案内された村長宅の前には、村長と思われる初老の男性を先頭に10人以上がずらりと並んでいた。
村長の横には毛むくじゃらの犬を連れた老婆も居る。
その犬が元気よく鳴いた。
「わんっ!」
「!」
「……? お嬢様?」
その声にナンテは反応したが、ジーネン達は突然びくりとしたナンテに首を傾げた。
どうやらあの犬の鳴き声はナンテにしか聞こえなかったようだ。
それを確認した老婆がナンテに手招きした。
ナンテもそれに一つ頷いてからジーネン達に振り返った。
「ジーネン。私はそちらのお婆さんとお話してきます。
ジーネンは皆の事をお願い。粗相のないようにね」
「畏まりました。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
ジーネンが居れば早々問題は起きないだろう。
警備隊の2人もハンターの3人も性格に問題ないのはこの2日で分かっている。
森の民の方は……余所者に対してどうするかは分からないが、精霊が関わっている以上、無下にはしないだろう。
杖を突きながら歩くお婆さんに並ぶようにナンテは歩く。
その足元を楽しそうに犬が駆け回っている。
「では皆さんはこちらに。
狭い家ですが旅の疲れを癒してください」
「おぉ、ありがとうございます」
ジーネン達は村長の案内で村長宅へと入って行った。
今日はこれからこの村としては初めての客人を持て成す宴だ。
決して豊かな村ではなさそうがそれ位の貯えはあるだろう。




