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「あなたも早く婚約破棄なさったら?」って大きなお世話よ!  作者: たてみん
精霊の試練

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32/200

32.森の民との遭遇

 無事にトロルを撃退したナンテ達が後ろを振り返ると、他の皆はまだゴブリンの相手をしていた。

 今は一進一退に見えるが、最初見た時よりもゴブリンが増えているので、時間を掛ければ戦闘音を聞いてもっと集まってくるかもしれない。


「加勢しないと」


 と思ったけどひとつ問題があった。

 例えばここで飛び出して行って持っている鍬や鎌でゴブリンを討伐出来るかと言えば出来るだろう。

 だけどそれをしたら出発前にした『ハンターの皆よりも前に出ない事』という約束を破ってしまう事になる。

 トロルを相手にした時はしんがりを務めただけだから問題なかったのだ。

 なのでここは別の手段を取ることにした。

 要は前に出なければ良いのだ。


「おおきく振りかぶって、えいっ」


 地面に落ちている石を拾って投げる。

 畑でゴブリン相手に子供達がやってるいつもの戦い方だ。

 それをナンテがやると。


ボッ!

「ギャッ」

「「なっ」」


 運の悪かったゴブリンの頭が吹き飛んだ。

 その破壊力を目の当たりにしてオニギ達も驚いたが、それ以上に仲間が突然倒されたことでゴブリンたちの間で動揺が走る。


「今だ。かかれっ」

「「お、おぉ!」」


 その隙を見逃さず一気に間合いを詰めて攻撃したことで無事にゴブリンの撃退も成功した。

 追加の魔物もいなさそうだ。


「助かったぜお嬢。……お嬢?」


 ゴブリンを撃退し、追って来ていたはずのトロルの姿も何故か無いのでようやくひと息つけると思ったオニギだったが、後ろで援護射撃をしてくれたナンテに声を掛けても返事がない。それどころかナンテは次があるとでも言うようにトロルがやってきた方をじっと見つめていた。

 全員がナンテの所に集まって、そろって森の奥を見るが別に何かがあるようには思えない。

 しかしそこに向かってナンテはハッキリとした声で呼びかけた。


「いつまで隠れているつもりなのかしら」

「……フム」


 まるで掛かっていた靄が晴れるように、何人もの人影が現れた。

 彼らの手には弓や斧が握られており、いつでもこちらを攻撃できるように構えられていた。

 服装も長袖長ズボンにフードまで被っていて完全防備という感じ。

 残念ながらあまり友好的な相手ではなさそうだ。

 リーダー格であろう男が一歩前に出ながら話し掛けて来た。


「我らは『森の民』。我は戦士ブナだ。

 よくぞ我らの隠形を見破った。

 先ほどの戦いぶりといい相当の手練れとお見受けする」

(森の民?)


 ナンテは隣にいるジーネンに視線を送ったが、どうやらジーネンも森の民という言葉に聞き覚えは無いようだ。

 そもそも魔物の森に人が住んでいること自体、聞いたことが無いので彼らの呼称を知らないのも当然か。

 しかし、今の挨拶にどう答えるか。

 こちらが知らないように向こうだってこちらの事を知らない可能性が高い。

 例えば「アンデス王国の~」と名乗っても通じないかもしれない。

 ならば向こうに合わせて名乗るのが良いだろうか。

 数秒の思考の後、ナンテも一歩前に出て挨拶をする。


「お初にお目にかかります。

 私達は『畑の民』。私はこの一団の責任者のナンテです」

「畑の民だと? 聞いたことがないな」

「そうでしょうね。私達も森の民という言葉に聞き覚えがありません」


 『畑の民』という言葉に聞き覚えが無いのは仕方がない。

 なにせナンテが勝手に言っただけなのだから。

 だけど魔物の森に住む『森の民』に対して平原で大地を耕して生活する『畑の民』。自分で言ってみてなかなか良いなとナンテは思っていた。何より分かりやすい。


「それはともかく。こちらに交戦の意思はありません。

 武器を下げては貰えませんか?」

「ふむ。これは失礼した」

「皆さんも。大丈夫ですから」

「……わかりました」


 ナンテの呼びかけで双方ともに構えを解いた。

 といってもお互いにまだ距離があるし、いつ戦闘になっても良い様にと意識は張りつめたままのようだ。


「それで、畑の民がこのような森の中に何をしに来た?」


 この森に住む住民であるであること、やって来た方向。

 そこから考えて彼らこそがナンテがコロちゃんに頼まれて会いに来た村の人達だろう。

 なら彼らの村には精霊が見える人が居るはずだ。


「お友達のお友達に会いに来ました」

「ふむ、その者の名は?」

「名前は……」

(コロちゃん、コロちゃん。向こうで精霊の見える人ってなんていう名前なの?)

『え、あ……ごめん、聞いてなかった』

(あらら)


 残念ながら精霊だって全能ではない。知らない事だってあればミスもする。

 むしろどちらかというとコロちゃんは精霊の中でもおっちょこちょいな方だ。多分。

 困ったな。

 きっと知らないと言えば悪い印象を与えるだろう。

 だけどナンテは嘘は言わない。

 真っすぐに正直に。それこそがナンテの武器だ。


「ごめんなさい。名前までは分からないのです」

「そうか。では仕方ない……」


 『案内する訳にはいかない。お帰り願おう』と続けようとした所でナンテが遮って質問を返した。


「ところで、皆さんはどうしてここに来たのですか?

 誰かにここに来るようにと言われたのではないでしょうか」

「「!!」」


 ナンテの質問に驚くブナ達森の民。

 確かにブナは村の有力者からこちらに向かうようにと指示を受けて来た。しかしそれを今会ったばかりのこの少女が知る筈がない。

 なら当てずっぽうか? それにしては目の前の少女は自信に溢れている。

 若干の畏れを抱きながらも確認しない訳にはいかない。


「そなたは何を知っている?」

「実はあまり知っている事は少ないんです」


 事実コロちゃんからはこの森の奥に住む人達を助けて欲しいとしか言われていない。

 何から助けて欲しいかも、どんな人たちかも聞いていない。

 ただきっと会えば何とかなるだろうと思っている。

 コロちゃんがナンテに助けを求めたという事は、ナンテで助けられるということだから。

 それに先ほどの言葉は別にコロちゃんから聞いて知っていた訳ではないのだ。


「トロルは食用には向かないようですね。

 であれば村から遠ざける為に追い返すだけで十分で、わざわざここまで追ってくる必要はないでしょう。

 なら何の為にここにきたのか。

 答えは一つ。私達に会いに来たのでしょう。

 トロルを嗾けたのは私達の力量を見る為かしら」

「……」


 否定しないという事はその通りということだ。

 本来、先ほどのトロルだってナンテの魔法で別方向に去って行くはずだった。

 しかしトロル達はナンテの魔法以上の脅威に曝されていた為に、ナンテ達の方に逃げてきたのだ。

 そのせいでナンテ達は窮地に立たされたので文句の一つも言っていいだろう。

 なので仕事を1つ依頼することにした。


「では参りましょうか」

「なに?」

「皆さんの村に案内してください。もちろん道中の魔物の討伐もお願いしますね」

「……よかろう。付いてくるが良い」


 サッと身をひるがえして森の奥に向かうブナに付いて行く。

 そこからの道のりは順調そのもの。流石『森の民』と呼ぶべきか。

 方角も分からなくなりそうな森を迷うことなく突き進んで行った。



すみません、この先すこし投稿が遅くなるかもしれません。


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