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「あなたも早く婚約破棄なさったら?」って大きなお世話よ!  作者: たてみん
精霊の試練

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25/200

25.冬が来る

 それから2年は取り立てて大きな問題も無く過ぎて行った。

 そしてナンテが8歳になり、兄のガジャは15歳になった。


「では父上、母上、ナンテ。行ってまいります」

「うむ。気を付けて行って来いよ」

「決して穢れに染まらないように気を付けなさい」

「お母様みたいなすてきな恋人を見つけて来てね」


 15歳になったガジャは学院に通う為に領都を旅立っていった。

 通常は馬車に護衛にと盛大に送り出すところだけど、そんなものがネモイ辺境伯家にある訳がない。

 これも良い修行だと路銀と手荷物だけでガジャは送り出された。

 道中は身体強化の魔法を使いながら10日掛けて走って行くことになるだろう。

 そして実家に残っているナンテがやることと言えばいつも通り畑仕事だ。


「最近は平和ね~」

「いえお嬢様。オークの群れが森から出て来たり他の領地から盗賊が侵入してきたりと色々ありましたが」

「死人も出なかったし畑も無事だったもの」


 時々事件は起きていて大人たちは忙しく走り回っていたが、その時もナンテは畑を耕していただけだ。

 自由に耕して、畑に近づいた魔物を倒して肥料にして、おまけで畑から野菜を盗もうとした不逞の輩も倒して肥料にして。

 お陰でナンテの畑は毎年豊作だ。


「ストーン隊の皆も警備ありがとう」

『『(びしっ!)』』


 ナンテの呼び声に合わせて拳サイズの石がコツンと動いた。それはまるで人間で言えば敬礼をしたようだった。

 この石はナンテの魔法で動く畑の警備隊。見た目はただの石なので知らない人が見たら風で石が転がったようにしか見えないだろう。

 だけど実際には野盗程度なら抵抗する間もなく昏倒させられる戦士だ。

 それが畑を囲むように数十個ほど置いてある。

 なのでもしナンテが居ない時に魔物が来ても安心だ。

 それよりナンテとしてはちょっと困りごとがある。

 何かと言えばこのままでいけば今年も豊作になりそうなのだ。


「私の倉庫ももっと拡張しないとだめかな」


 ナンテの魔法で作った倉庫はナンテの畑で採れたジャガイモが山積みになっている。

 今年収穫する分を収納しようと思うと今ある分では足りなくなりそうだ。

 やはり収穫量に対して消費が絶対に足りていない。


「自国領に流通出来ないなら他国に売るとか?」


 2年前にやってきたムクジ公爵ならきっと喜んで買ってくれるだろう。

 東の帝国だって昔はこの国と戦争をしていたらしいけど今は休戦状態なのだから食料をちょっと色を付けて売る分には問題ない筈。

 帝国は工業が盛んで農業はそれ程でもないから食料の輸入には積極的だろう。

 この辺りの国の情勢や国交関係は冬の間に習ったから多分間違いない。

 ただ商売に疎いナンテでもどうせ売るなら高く売りたいと考えた。

 その為にはこちらから「買いませんか」と行くよりも、向こうから「どうか売ってください」と頼みに来るくらいの状況が望ましい。

 でもそんな都合よくは行かないかなとも思う。

 そんな折、秋の終わりごろから何処かに行っていたコロちゃんが帰って来た。


『やっほ~ナンテ。元気してた?』

「あ、コロちゃん。お帰り~」


 コロちゃんは挨拶をしてそのままナンテの肩に飛び乗ろうとして、胸の辺りに着地した。

 そこからよいしょっと定位置の肩までよじ登る。


『ナンテは初めて会った時から随分大きくなったね。飛び乗るのも一苦労だよ』

「育ち盛りだもん。そういうコロちゃんは変わらないね」

『精霊だもん』

「ふふっ」


 初めて会ったのが3歳の時だから倍までは行かなくても大きくなるのが人間だ。

 コロちゃんはもう何百年も生きているけど、何度見ても生き物の成長は早いなと思ってしまう。

 ある意味コロちゃんもナンテの両親やジーネンと同じ親ばか精霊であった。


『あ、そうだナンテ。一つ大変な話があるんだ』


 いつもにこにこしているコロちゃんが珍しく真剣な顔をしていた。

 それを見てナンテもちょっと気を引き締める。


『実は、もうすぐ冬将軍がこの大陸に来るんだって』

「ふゆしょうぐん?」


 はて。そんな名前の人は聞いたことが無い。

 いやコロちゃんが言うのだから人ではなく精霊だろうか。


「その冬将軍さん? が来ると何か問題があるの?」

『あいつ暑いの嫌いなんだ。

 だから周りを強引に涼しくしちゃうんだよ』

「暑いのが好きな子達には迷惑な話ね」

『だろ? でも僕達の言う事なんて聞かない奴なんだ』


 どうやら精霊界隈でも迷惑キャラは居るらしい。

 ただ精霊である以上、特定の環境じゃないと生きていけないって言う事があるのかもしれない。

 例えばその冬将軍が雪だるまみたいな精霊だったら暑いと溶けてしまうだろう。

 それなら寒い所に引きこもっていればいいとも思うけど、それも精霊なりに何か事情があるのかもしれない。

 精霊はコロちゃんしか会ったことが無いナンテとしてはその辺り何とも言えないところだ。


「それでその人はいつ来るの?」

『んっとそうだな。あいつの足の速さを考えると、来年……いや再来年だな』

「そっか。もう少し先なんだね」


 コロちゃんの話からして来週くらいにはやってくるのかなと思ったらもっとずっと先だった。

 それにナンテ自身はそれ程暑いのは嫌いじゃないけど寒いのだって嫌いじゃない。

 夏が冬のように寒くなる訳でもないなら大した問題じゃないだろう。


『でも今の内から備えておいた方が良いよ』

「ふむむ」


 どことなく深刻そうなコロちゃんの様子を見ているとあまり楽観視して良いものでも無いのかも。

 それなら念のため家族にも伝えておいた方が良いかもしれない。

 精霊の事は言えなくても精霊から聞いた話を伝えるくらいは問題ないのだ。

 そう思ったナンテは夕食の席で両親に話してみる事にした。


「そういえば再来年は涼しくなるんだって」

「おやそうなのかい?」

「それは誰が言っていたの?」

「あ、えっと、私の友達」


 精霊の事は見えない人には話さない事になっているのでちょっと誤魔化した。

 追及されると困るけどナンテの話を聞いた両親は「へぇそうなんだね~」なんて軽く返事をしただけだった。

 ほっと胸をなでおろすナンテを余所に、お互いに目配せする両親の目は真剣だ。


「そのお友達は他にも何か言っていたかい?

 例えば涼しくなるのはこの辺りだけなのかとか、期間はどれくらいなのかとか」

「うーんとね。

 暑いのが嫌って言ったから、多分春のまま夏にならない感じじゃないかな」

「そっか。もし聞けるようなら詳しく聞いてみてくれるかな」

「うん、わかったわ」


 両親は努めて穏やかに冷静なままナンテにお願いするのだった。


やっとここまで辿り着きました。


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