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「あなたも早く婚約破棄なさったら?」って大きなお世話よ!  作者: たてみん
畑魔法を扱う少女

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23/200

23.人のように動く魔法

 翌日の朝食の席でナンテはふと、聞き忘れていたことを思いだした。


「そういえば、皆さんはここに何かご用があったのですか?」


 ナンテの記憶にある限り、他国の人がこの地にやって来たのは初めてだった。両親から外国の話が出る事も無い。

 つまりネモイ辺境伯領は別に他国との交流が頻繁な訳では無いのだ。

 それなのにヒマリヤ王国のそれも貴族がやってくるというのはただ事ではない。

 これは何かあったのではと思うのは当然だろう。


「今回こちらに来たのは探し物があったからなんだ」


 ムクジ公爵は穏やかに答えた。

 しかし探し物か。

 ネモイ辺境伯領に何か珍しいものがあっただろうか。

 悩むナンテに父親がその答えを伝えた。


「皆さんは精霊を探しに来たんだよ」

「精霊を?」


 つまりコロちゃんを探しに来たという事か。

 いや他にも精霊は居るけど。

 ナンテの前に出てこないだけで気配というかコロちゃんに似た魔力を感じる事は度々あった。

 その魔力の感じからして多分ナンテの畑に住んでいる精霊も居る気がする。

 なるほど彼らに会いに来たのか。それなら納得だ。

 なにせコロちゃんを始め精霊は博識で元気で可愛いのだから仲良くなりたいのは当然だ。

 だけどそれならこれは確認しておかないといけない事がある。


「皆さんは精霊が見えるのですか?」

「いえ、見えたことはありません」

「あらら」


 その答えにナンテはがっかりしてしまった。

 彼らも精霊が見えるのなら精霊を知る仲間が増えると期待したのに。

 でも残念ながら精霊が見えないならコロちゃんの事を伝える訳にはいかない。

 とは言っても別に邪魔する必要も無いのでナンテは静観するだけだ。

 ただちょっと不思議に思うところがある。


「あの、それでしたらどうしてこの領地に?

 ヒマリヤ王国は精霊術師も多いと聞きますし、そちらで探した方が早いのではないですか?」

「それがそうでもないようなのだよ。

 国の精霊術師様曰く、精霊は特別ヒマリヤ王国に多いという事はなく、どこにでもいるそうだ。

 そして最近、こちらの地方で精霊の力を強く感じたというので、ここに来たら息子のリモンが精霊の目に留まりうまく行けば契約を結べるかもしれないと考えているのだ」

「なるほど」


 精霊が見えることと契約が結べることはイコールではない。

 上手いこと精霊の興味を惹けて気に入られたら契約を結べる事がある。

 ただ精霊と1言で言っても姿かたちや性格、好みは様々だ。

 なのでより多くの精霊が居そうな場所に行くことで契約に至りやすくなる、かもしれない。

 だから遠路はるばる他国までやってきたようだ。


「マナが濃い場所は精霊も好むので、この領都近郊で探しているところだ。

 残念ながらまだ精霊の気配すら感じ取れてはいないけどね」

「そういう事であれば魔物の森に行く訳にもいかないし、ナンテの畑が最適でしょうな」

「ナンテ嬢の?」

 

 魔物はマナが多い場所に多く生息しているので魔物の森は当然他の森よりもマナが濃い。

 しかし幼いリモンをそんな危険な場所に連れて行く訳にもいかないだろう。

 そこでナンテの父はナンテの畑を勧めてみた。

 なぜならあそこは魔物の森に近く、毎日のようにナンテが魔力を籠めて耕している場所だ。

 お陰で他の場所よりもずっとマナが濃くなっている。

 そのせいで魔物が集まってきているのだけど、精霊だって近づきやすいことは間違いないだろう。


「それは良いな。リモンも歳の近いナンテ嬢と一緒に居た方が楽しいだろう」

「はい。彼女は僕なんかよりずっとすごい女の子ですから」


 天才と持て囃されたリモンだったが、ナンテと比べると天狗になっている場合じゃないことは身に染みて分かった。

 精霊が自分の前に姿を現わさないのも、そんな自分の傲慢さが彼らには見えていたからかもしれない。

 ならばナンテと一緒に居る事こそが精霊との契約に至る一番の近道だろう。


「ナンテ、今後も行動を共にしても良いかな?」

「うん。もちろん」


 こうしてリモンはネモイ辺境伯領にいる間、ナンテと一緒に居る事になった。

 ならこの後も畑仕事に行こうか、と言いたいところだけど今日は生憎の雨模様。

 小雨なら気にせず畑仕事をしても良いのだけど本降りとなれば畑はお休みだ。

 そういう日は勉強をしたり家の中で出来ることをするのがいつものナンテだ。

 リモンが一緒ならナンテとしてはやりたい事がある。


「リモン君。魔法を教えて欲しいの」


 朝食を終えたナンテは食後のお茶を飲みながらリモンに言った。


「この前の草のお人形を作った魔法のやり方を教えて」

「良いけど難しいよ?」

「うん、頑張る!」


 胸の前で握り拳を作ってふんすと意気込むナンテを見て、これは何を言っても無駄かなとリモンは悟った。

 ゴーレム系の魔法はヒマリヤ王国ではそれなりに普及している魔法体系だ。

 大人の魔法使いなら練度の差はあっても大体使える。

 ただそれでも学校に通って1か月掛かってやっと初歩が習得できるような魔法だ。

 リモン達は今日を含めて4日しか居ないのだ。そんな短期間でどこまで伝えられるだろうか。

 本当はもっと長居したいのだけど、ムクジ公爵家としても仕事を置いて来ていて余り長期で領地を空ける訳にもいかない。

 リモンだけが残るというのも無理とは言わないが、そこまではネモイ辺境伯とムクジ公爵家は親密な関係でもない。

 まあ悩んでいても仕方ない。


「じゃあまずはもう一度やってみせるからよく見てて」

「うん!」

「立ち上がれ【クリエイト・グラスゴーレム】」


 居間の窓を少しだけ開けて庭に生えている草に向けて魔法を放った。

 するとシュルリと草が伸びて手のひらサイズの小さな草の人形が出来上がり、こちらにお辞儀をしてみせた。


「わぁ凄い凄い!」

「えへへっ」


 ナンテに褒められてリモンは照れ臭そうに笑う。


「よし、じゃあ続けて色々動かすよ」


 リモンの言葉に応じるように指差す先でゴーレムが踊り出す。ターンしたりジャンプしたりとまるで生きているかのようだ。

 そしてリモンが手を降ろしてもそのまま踊り続けている。


「これはどうやって止めるの?」

「追加で命令を送るか、供給した魔力が切れたら魔法が解除されてただの草に戻るよ」

「なるほど」


 ナンテは一つ頷くと見様見真似で魔法を放ってみた。


「えっと【クリエイト・グラスゴーレム】」

ひゅーーー


 魔力に押されて草が靡いた。ただそれだけ。

 残念ながらリモンがやったように人形の形になったり自分の意志で動いたりはしない。

 それを見たナンテは固まってしまった。



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