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「あなたも早く婚約破棄なさったら?」って大きなお世話よ!  作者: たてみん
畑魔法を扱う少女

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21/200

21.異国の来訪者

 その日は春の穏やかな陽気で、ナンテはいつものように自分の畑をせっせと耕していた。

 そこへ聞き覚えのない声で呼びかけられた。


「やあ、こんにちは」

「こんにちは」


 挨拶を返しながら声の方を見れば見たことのない男の子が立っていた。

 護衛と思われる大人も隣に立っているけどそちらも見たことが無い。

 更に男の子は深い緑色の髪をしていて明らかにこの地方の出身ではなさそうだった。


(緑色の髪ってたしかヒマリヤ王国に多いんだっけ)


 冬の間に勉強した内容の中に近隣諸国の話もあった。

 その中で髪色や顔立ちについても説明を受けていた。

 ここネモイ辺境伯領は西側がヒマリヤ王国と接しているし彼の国とは友好関係にあるので人の出入りも比較的自由だ。

 だからヒマリヤの人が領内に居てもおかしくは無いんだけど、こんな北の果てに来ることは滅多にないことだった。

 少なくともナンテはこの時初めて会った。


(護衛を連れているってことは貴族の子供かな?

 ならお父様に会いに来たのかしら)


 内心あれこれ考えていたら男の子の方から話を続けて来た。


「僕はリモン。君は?」

「ナンテよ」

「ここは凄く立派な畑だけど、君の畑なんだってね。

 向こうに居る大人に聞いたらそう言われたからびっくりしたよ」

「去年からみんなと頑張って耕したのよ」


 どうやらこの子は畑に興味があるらしい。

 畑好きに悪い子はいないのできっとリモンは良い子なんだなとナンテは思った。


(折角なら畑の野菜を味わってもらおうかな)


 そう思って近くの畑から元気に伸びている葉っぱを引っ張れば、土の中から真っ赤なニンジンが出て来た。

 色艶形どれも良くてこれなら満足してもらえるだろう。

 ナンテはにっこり笑うと水魔法でニンジンの土を洗い流してリモンに渡した。


「はい、どうぞ」

「え、これをどうするの?」


 勢いで受け取ったけど、水洗いしただけのニンジンを渡されてリモンは困ってしまった。

 まさかこのまま齧れと言うのだろうか。

 首を傾げるリモンにナンテは笑顔で言った。


「甘くて美味しいのよ」


 そのまさかだった。

 お手本とばかりにもう1本自分用に引っこ抜いたナンテはニンジンを美味しそうに齧り付いてみせた。

 ポリポリと咀嚼するその顔は実に幸せそうだ。

 それを見たリモンは騙されたと思って渡されたニンジンに齧り付いてみた。


「あ、おいしい」

「でしょ?」


 生のニンジンなんて土臭くて不味いものだと思っていたのに、本当に甘くて美味しい。

 むしろこれはニンジンの形をした別の果物じゃないかとさえ思ったが、今初めて出会った少女が自分を騙す為に仕込んでいたとは考えられない。

 ならこれは本当にただのニンジンなのか。


「ねえ、このニンジンは特別なニンジンなの?

 それとも育て方に何か秘密があるのかな」

「えっと、種は農家のおばさんに分けて貰ったものだから多分普通のニンジンよ。

 美味しさの秘密があるとしたらやっぱり愛情かしら」


 元は去年近所の農家で貰ったものだ。

 そこから1年かけて丹精込めて育て、収穫した種を今年また蒔いて育てた。

 それで味に違いが出たとすればナンテが愛情と魔力をたっぷり籠めて育てたことが原因だろう。

 他に考えられることは……。


「あとは肥料のお陰かしら」

「肥料? それはどんな……」

「あ、待って!」


 リモンが問いかけようとしたところで咄嗟にナンテが話を遮った。

 そしてさっきまでの笑顔が消え、キッと森を睨みつける。

 するとすぐにガサガサと草をかき分けてゴブリンの群れが出て来た。


「みんな、魔物が来たわ!」


 ナンテの呼びかけに畑で作業をしていた皆に緊張が走る。

 リモンはてっきり大人たちに防衛を任せて子供は逃げるのかと思ってたけど、ナンテを始め誰一人逃げようとはしていなかった。

 むしろ手に手に農具や石を持って集まってくる。


「えっ、みんな逃げないの?」

「もちろん。私達の畑は私達の手で守るわ」


 自分と同い年くらいの少女が凛々しく魔物に立ち向かおうとしている。

 なんて勇ましい事か。


「リモン様危険です。お下がりください」


 護衛の男性がリモンの前に立ち守りを固めようとするが、その裾を引いて退くように促した。

 この状況で自分だけ逃げるのは格好悪いだろう。


「僕も戦います。

 立ち上がれ【クリエイト・グラスゴーレム】」


 リモンから魔法が放たれると魔物と畑の中間くらいの場所で草がにょきにょきと伸びて集まり、人型になった。

 それを見たナンテはびっくりして問いかけた。


「あれは一体何?」

「草で出来た兵隊さ。

 僕は植物を操る魔法が得意なんだ。

 ただあれはあんまり強くないけど」


 その言葉の通り、やって来た魔物と衝突したグラスゴーレムは、弾き飛ばされこそしなかったものの一方的にボコボコに殴られている。まあ体が草で出来ているからボコボコというよりバサバサという感じだが。

 それでも正直戦力としては微妙だけど、囮と足止めには役に立っていた。

 ナンテはその隙を見逃さず皆に号令をかけた。


「みんな、魔物に向けて投石開始!」

「「おおっ」」


 こちらから意識を逸らした魔物に向けて次々と石が投げつけられていく。

 子供の投石と言っても、去年とは違い身体強化の魔法が掛かっているので大人顔負けの剛速球だ。

 ただの石でも130キロくらいの速さで当たれば痛いじゃすまない。

 そこにナンテも魔法を放った。


「【ストーンストーム】」


 みんなが投げた石が秋風に舞う木の葉のように飛びまわり魔物達を滅多打ちにしていった。

 一緒にグラスゴーレムも撃ち抜かれてバラバラの草になってしまったけど見なかったことにしよう。

 少なくともリモンとその護衛はナンテの放った魔法に釘付けだ。


「凄い」

「リモン様以外にこんな小さな子供があの威力の魔法を放つとは信じられません」


 驚いている間に魔物は全滅して静かになった。

 続くナンテの号令にリモン達は驚かされることになる。


「さあみんな、魔物の死体を回収するわよ」

「「はーい」」


 誰からも疑問の声が上がらないということは、ここではこれが当たり前だということだ。

 魔物が出て来ても逃げるどころか撃退し、更にその死体を回収したかと思えば、なんと畑に撒いているではないか。

 これがこの国の常識なのだろうか。


「あの、どうして魔物の死体を畑に撒いてるの?」

「実はこれが肥料になるのよ」

「肥料。魔物の死体が……」


 さっき魔物が出てくる前に言っていたのはこの事だったのか。


「ところで私も聞いても良いかしら」

「うん、何が知りたいの?」

「あのグラスゴーレムっていうのはどういう魔法なの?」

「魔力に自分の思考を写して植物に送り込むことで半自律的に動くようにしたものだよ」

「思考を写す……?」

「まぁよく分からないよね」

「リモン様は天才でございますから、同年代の子供には理解出来なくて当然でございます」


 リモンの護衛も随分とリモンに心酔している様子だった。


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