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原作:クズイモ男爵領は流刑地になりました

こちらは本編の原作となったお話(プロット)です。

確か3年くらい前に執筆した未投稿作品です。


「むかぁしむかし。

 大陸の中南部にゾネイル王国という中規模の国があった。

 開国当初からの最大の事案は食料生産能力だったそうだ。

 気候は温暖ながらも国土の南側2/3は荒廃した大地だった為、南側は食料の大半を食肉が可能な魔物の討伐で賄う日々が長く続いた。

 当然そんな暮らしが安定する訳もない。毎年年を越せない者が多く出る程だ。

 そんな折、国の南西部にて荒廃した大地を開拓し、見事潤沢なジャガイモの生産地として発展させた者が居た。

 近隣の土地からもジャガイモの栽培方法について教えを請われ、その度に無償で伝えて行ったんだ。

 そのお陰で毎年の餓死者の数は激減。

 その功績でその者は男爵としてその地を納めるようになった。その名もウルダ・マッシュ男爵。

 それが私達の祖先なんだよ」

「うん、すごいね~」


 父親が何度となく聞かせてくれる我が家の歴史を、まだ幼いクリスはいつも楽しみにしていた。

 横で聞いていた母親は、もう何度同じ話を聞いたか分からないのに変わらず楽しんでいるクリスに目を細めて微笑んでいた。

 現在のマッシュ男爵領は決して豊かとは言えないが昔と変わらず広大なジャガイモ畑が広がっていた。

 ただ、平穏かと聞かれるとそうでも無かった。

 畑を少し過ぎれば相変わらず荒れた大地が広がっていたし、その先には魔の森と呼ばれる魔物が多く生息する森があり、度々そこからゴブリンなどの魔物が出て来てはジャガイモ畑を荒らしに来るのだ。

 そうなると村の大人が総出で撃退に乗り出すことになるので大変である。

 幸いなのはそれほど強い魔物が森を出てくることは滅多にないことくらいか。


 そんなちょっぴり平穏じゃないマッシュ男爵領に嵐の予兆が来たのはクリスが5歳になった頃だった。

 その日は王家から手紙が送られて来た。

 クリスが生まれてからそんなことは一度も無かったので、家族全員何事かと居間に集まっていた。

 恐る恐る封を開け中身を確認した父親は顔を青褪めさせた。

 心配になった母親が父親に問いかけた。


「いったい何が書かれていたのですか?」

「ああ。要約すると、

『貴殿の領地は昔と違いクズイモしか生産できなくなっていると聞いた。

 本来なら爵位と領地を没収するところだが、そんな辺境な土地を没収しても価値はない。

 よってそのままその地を治める事は許すが、今後貴殿の領地は【クズイモ男爵領】と呼ぶこととする』

 だそうだ」


 それを聞いた母親もあまりの事に椅子に倒れ込んだ。

 ただ一人、クリスだけは何事か考えた後で明るくこう尋ねた。


「お父様。『クズイモ男爵領』とはどういう意味なのでしょう?

 イモは僕たちの領地の特産品のジャガイモの事ですよね。

 男爵はお父様の爵位。領はこの地域の事。

 ならクズっていうのは『最高級の』とか『究極の』とかそんな意味でしょうか。

 つまり、クズイモというのは他の地域のジャガイモとは一線を画す凄いイモの事ですね!」


 それを聞いた家族は口をあんぐりと開けて驚いた後、涙を流して大笑いした。

 家族は皆、クリスが5歳にしてはかなり聡明なことを知っていた。

 だからクズという言葉の意味を正しく理解していたことも分かっていた。

 その上でなお、そう言う事で家族の鬱屈とした感情を吹き飛ばしてくれたのだ。

 続けてクリスは言う。


「それとお父様。明日からは僕も畑を耕すのを手伝いますね」

「おいおい、クリスはまだ小さいんだ。無理はしなくて良いんだぞ」

「いえ。お父様もよく仰ってるでは無いですか。

『五体満足であれば自分の食い扶持は自分で稼ぐものだ。

 他人から恵んでもらうを良しとするのは赤子か病人か老人で、

 他人から奪う者は悪人だ』って。

 村のベッシュもボイコももう日中は親の手伝いをしているそうです。

 お勉強は夜に頑張りますから、日中は働かせてください。

 僕だってうちの自慢のイモの生産者になりたいんです」

「そうかそうか」


 父親は嬉しそうに頷くと、もうすっかり手紙の事は忘れて明日からの事に胸を躍らせるのだった。




■時系列

3歳:

 病気でベッドからほとんど起きれない母親。

 子守りでせめてもと魔法を見せてもらう。


「ごめんね。お母さんは体が弱くて、あなたに母親らしいことなんて何も出来なくて」


 そう言って寂しそうに頭を撫でた母親の胸にクリスはギュッと抱き着いた。


「お母様。お母様はまるで女神様みたいだ。

 あったかくて、やさしくて。こんな素敵な魔法まで使える。

 僕は僕をお母様の所に送ってくれた神様に心から感謝するよ」


5歳:

 クズイモ男爵領と呼ばれ始める。

 クリスの農業体験開始


7歳:

 自分の畑を作り始める


「良いかクリス。よく覚えておけ。

 土を掘り起こすのも水を撒くのも魔法で出来る。

 でもな。収穫するときは一つ一つ自分の手で収穫するんだ。

 それが私達に恵みを与えてくれた大地に対する感謝ってものだ」


9歳:

「お父様。村の人が夜中に魔の森に向かって走っていく馬車を見かけたって」


 それを聞いた父親は難しい顔をしてポツリと言った。


「それは恐らく、奴隷狩りだな」

「奴隷狩り?」

「ああ。魔の森の奥には獣人を始めとした異種族が住んでいるんだ。

 悪趣味な金持ちは異種族を道具かペットのように扱って楽しむらしい。

 そいつら向けに異種族の子供を攫ってくるんだ」

「それって違法じゃないの?」

「もちろん違法さ。でも異種族だからか多くの人が見てみぬフリをしている」

「それはお父様も?」

「馬鹿、そんな訳ない。

 もし私が見つけたらそんな奴ら畑の肥やしにして子供たちは元の場所に帰してやるさ」

「そうだよね。流石お父様。かっこいい」


 それから4日後の夜。

 風の妖精ファイがクリスの元にやって来た。


「クリス~。このまえ森に向かっていった馬車が戻って来たよ~」

「わかった。案内して」


 クリスはそっと家を抜け出すとファイの先導に従って夜の道を風になって走った。

 そうして1時間程走ったところで、2台の馬車が4頭の騎馬を護衛に付けながら走っているのが見えた。

 クリスの位置から言えば右前方からこっちに近づいてくる形だ。

 馬車は箱型で窓一つない黒塗りの怪しい造りで、中を伺い知ることは出来ない。


「もしあれが奴隷狩りの馬車で、異種族の子供たちを攫って来たのだとしたら、多分後ろの馬車の中に乗せられてるよね」


 クリスはファイにお願いして馬車の中の様子を探ってもらった。

 結果は黒。

 予想通り後ろの馬車には何人もの異種族の子供が詰め込まれているらしい。

 ならやる事は決まった。

 クリスはそっと収納空間から草刈り用の鎌を取り出して護衛の4人に向けて投擲。

 それと同時に追撃の為に走り出した。


「っ!」

「がっ」

「ぐふっ」

「なっ」


 4人の護衛はなんと全員最初の鎌を脳天に突き刺されて落馬。起き上がってくる気配はない。

 あっけない。でも楽でよかった。

 クリスは意外な手ごたえの無さを無視してそのまま馬車を操っている御者に肉薄した。


「な、何奴だ!」

「シッ」


 御者の誰何には答えずそのまま首を鎌で刈り取った。

 流石にその時には自分たちの異変に気が付いていた後ろの馬車の御者だったが、結局訳も分からず前の御者と同じ運命を辿ることになった。

 乗り手の居なくなった馬たちをファイと一緒に鎮めたクリスは、まずは前の馬車の中を検めることにした。

 その馬車の中には食料品や毛布などが積まれていた。恐らく先ほど倒した奴らの生活道具などだろう。

 1つ1つを確認するのは時間の無駄だとクリスは馬車を丸ごと収納空間へと詰め込んだ。

 続いて後ろの馬車の荷台の戸を開けると、人の体から発せられる熱と臭いでむわっとした空気が出てきた。

 中を見れば手足を枷で封じられた子供が10人程、狭い車内に押し込められていた。

 どの子もクリスとは違って頭に犬耳が付いてたり、手の甲が毛深かったりと確かに異種族の子のようだ。

 ただ今はクリスの姿を見て怯えるばかり。


「みんな、助けに来ました」

「助けに?」


 予想外だったのだろう。クリスの言葉は不安げに小さく聞き返される。

 改めて子供たちの様子を見れば、床はおしっこで汚れ、何人かは抵抗したり逃げ出そうとして失敗したのか怪我をしていたり顔に酷い痣を作ってる子も居る。

 一番奥に居る白い髪の子なんてさっきから一切動いていない。


「まだじっとしてて。

 えっと『洗浄』。それと『治療』」


 クリスが魔法を発動させるとさっきまでの車内が嘘のように綺麗になっていく。

 そして子供たちの怪我も少しずつではあるが確実に治っていった。


「わぁ」

「すごい」


 子供たちから上がる歓声を聞きつつ、クリスはまだ何の反応も示さない一番奥の子に近づいていった。

 怪我をしてたのなら今ので良くなっている筈なので、もしかしたら眠っているのかもしれない。

 そっと肩に触れようとしたクリスだったが、しかしその直前。それまで動かなかった子が急に顔を上げるとクリスに噛み付いてきた。


ガブッ

「くっ」


 首に向かって来たのを何とか腕を割り込ませたが、クリスの腕にはがっつりと犬歯が突き立てられていた。


「うーーっ」


 腕に噛み付いたままクリスを睨みつける子供。

 他の子もどうしていいかとオロオロするばかりだ。

 クリスも腕の痛みを耐えつつ振り払う訳にもいかないので動くに動けない。

 「あ、女の子だ」なんて場違いな事を思っていた。

 そこへ見かねたファイが助け舟を出してくれた。


「はいはい、気は済んだかしら?」

「う?」

「あなたなら私の姿が見えているでしょう?

 彼なら大丈夫。あなた達の味方よ」


 ファイの言葉を聞いてようやく口を離してくれた。

 そして女の子は不思議そうにファイを見つめている。


「もしかして妖精様?」

「そうよ。風の妖精のファイよ。そしてこっちの男の子は友達のクリス。

 あなた達を助けようと単身乗り込んできたのよ。凄いでしょ」


 えっへんと胸を張るファイ。

 女の子はそんなファイに驚いた後、クリスの顔を見て、そしてさっきまで噛み付いてた腕を見て、がばっと床に頭を叩きつける勢いで土下座をし出した。


「ご、ごめんなさい。

 てっきりあいつらの仲間じゃないかと思って。

 助けて頂いたご恩を仇で返すような真似をしてしまいました。

 ここは腹を切ってお詫びを!」

「ああっ、待って待って」


 突然物騒なことを言い出す女の子を慌てて止めるクリス。

 止めないと本当に何をするかわかったもんじゃないなと冷や汗をかきつつ、その手を握りながら反対の手で頭をぽんぽんと撫でた。

 子供の頃、クリスは母親からこうされると自然と落ち着けたので真似をしてみたのだが、その効果はあったようだ。


「落ち着いた?」

「は、はい」

「僕はみんなを助けに来たんだからここで死なれたらそれが無駄になっちゃうよ」

「はい。重ね重ねご無礼を」

「まぁそれは良いとして」


 クリスは女の子の頭を撫でながら今度は他の子たちも見渡して話しかけた。


「みんなを元の場所に帰すにしても今日は遅いからうちに泊って行ってよ。

 といっても家は狭いから納屋に藁を敷いて雑魚寝になっちゃいそうだけど。

 それとみんな、お腹空いてるよね?」

「「は、はい」」

「なら僕の畑で採れたとっておきのクズイモがあるから食べて」


 それを聞いた子供たちは「クズイモ?」と疑問を浮かべたり、自分たちに与えられるものなんて大したものじゃないよねと諦めにも似たため息をついたりしていた。

 クリスはそんなみんなを気にせずに収納空間から自慢のクズイモを取り出すと生活魔法の『清水』と『加熱』でホクホクのふかし芋を作ってみんなに配って回った。

 子供たちは恐る恐るその何の味付けもされていないただのふかし芋に口を付けると、次の瞬間、飛び上がりながら歓声を上げた。


「「おいしい~~」」

「そうでしょ」


 その反応に嬉しそうに頷くクリス。

 やっぱりこうして自分の作ったものを喜んで貰えるのは嬉しい。


「じゃあこのまま馬車でうちまで移動するから、もうちょっとだけ我慢してね」

「「は~い」」


 だいぶ元気になった子供たちの返事に満足しつつ御者台に回ったクリスは自分の家に向けて馬車を走らせたのだった。


 翌朝。クリスは父親を説得するために一計を案じていた。

 普通に考えれば異種族の子供を保護して欲しいと頼み込めば二つ返事で許可が下りるだろう。

 だけど昨夜、家族には内緒で家を抜け出していたので素直にそれを言うと怒られてしまう。

 いや、怒られるのはまだしも酷く心配させてしまうだろう。

 なのでちょっとだけ誤魔化すことにしたのだ。


「おはようございます。お父様」

「ああ、おはよう」

「あの、実は折り入ってお願いがあるんです」

「ほぉ。クリスにしては珍しいな。なんだい?」

「実は昨日、怪我をした子犬(っぽい子)を拾ったんです。

 その子が元気になるまで裏の納屋で面倒を見ても良いでしょうか?

 もちろん世話は全部僕がひとりでやりますから!」

「ふむ。まぁそれくらいならいいだろう」

「ありがとう、お父様。

 あ、それと……」

「おや、まだあるのかい?」

「実はそれとは別に馬を8頭拾ったんです。村の農耕馬として使えるかなって思うんですけどどうでしょう?」

「う、うま!?」


 子犬はともかく馬なんていったいどこから拾って来たんだと驚く父親と共に外に出てみれば、そこには確かに庭の雑草を食べたり桶に入った水を飲んだりと放し飼いされている馬が居た。

 クリスの父親はそのうちの1頭に近づきそっと首筋を撫でてみた。

 馬は我関せずとのんびりとしたままだ。


「ふむ。しっかりと飼いならされた馬のようだね。

 肉付きからして農耕馬というより普通に走る為の馬のようだ。

 まぁ農耕馬としても使えなくはないだろう。

 よし、なら今日のうちに男手の不足している農家に手配しておこう」

「よろしくお願いします」

「しかし、いったいどこから拾って来たのか」

「あはは~」


 ジト目の父親を笑ってごまかすクリス。

 まぁ突拍子も無いことをするのはいつもの事かと深くは追求されなかった。

 それに悪い事をした訳では無いだろうと言うクリスへの信頼もそれを後押ししていた。



 その後、保護した獣人族を集落へ返しつつ挨拶に行く

 これをきっかけに獣人族との交易開始


11歳:

 保護した獣人が100人を突破。

 そのうちの半数は自分たちの村へと帰っている。


13歳:

 政争に敗れた公爵家の娘が嫁として送られてくる。

 そこからクズイモと呼ばれる理由を知ることになる。

 実は行商人が産地を偽証して隣の領地の低品質なジャガイモとすり替えていたのだ。

 以降、国の行商人には本当に質の悪いイモしか売らないようにする。

 高品質のイモは全て他国へ売却。


15歳:

 クリスは爵位を継承する。

 隣国との戦争で罠にはめられて罪を着せられた将軍一家が送られてくる

 王女付きのメイドが些細な失敗で送られてくる

 他国からエルフ娘が遊びに来る


17歳:

 隣領との関係が悪化。

 王家へ直談判に行ったら逆にお前の領など知らんと言われる

 クズイモ男爵領改め独立しクズイモ自治国へ。

 隣領がこれ幸いにと攻めてくるが返り討ち。

 王国本体はどうでも良いと放置の構え。


20歳:

 王国が他国の侵略に遭い滅亡。

 クズイモ自治国は侵略してきた他国とは懇意にしていたので、そのまま独立自治を認められる

 更には元王国の領土の1/3の管理を委託される。


22歳:

 国内の情勢が安定

 食料自給率は300%を達成。農業大国として周囲の国々に認められる

 同時に北の大帝国が食料を求めて開戦準備を始める

 ジャガイモの苗を提供することで戦争回避


23歳:

 世界的に大飢饉が襲来。

 それまで貯蓄していたジャガイモを大放出。

 世界各地から謝礼は何が良いかと尋ねられたので、技術交流を行う事にする

 北の工業をはじめとして魔術、工芸、学問などが国内に集められた。

 そしてこれを切っ掛けにクズイモ自治国は世界各国の交流の中心地としても発展することになる。


25歳:

 学園を開設。それと同時に国名も変えることになった。

 東方の伝説を元に、どんな困難が来ようとも何度でも復活する九頭竜の如き国であれという意味で『クズイモ王国』と命名された。

原作と言いつつ話の流れはだいぶ違うので別作品としても良かったのですが、随所に似た設定があったので「あれこれ前にもあったよね」ってなりそうだったので原作ポジにしました。


ひとまず公開するものは以上です。

では次回作でお会いしましょう。


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