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「あなたも早く婚約破棄なさったら?」って大きなお世話よ!  作者: たてみん
畑魔法を扱う少女

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15.ナンテ事案

「うーむ、どうしたものか」

「そうですなぁ」


 領主館の執務室で唸っているのはナンテの父である領主とジーネンだ。

 この二人が揃って悩むことなどナンテに関連することに決まっている。


「今年に入って既に7回も魔物が森から出てきているそうだな」

「去年が1年間で5回だったことを考えれば、かなり魔物の活動が活発になっていると考えられます」

「ハンターが仕事をさぼっているという可能性は?」

「残念ながらなさそうです」


 魔物が多く生息する森の近くの街には、魔物の討伐を専門とするハンターが居る。

 もちろん魔物の森に隣接しているネモイ辺境伯領にも街ごとに数十人のハンターが居て森の魔物が溢れないように間引きをしてくれている。

 その者たちが討伐の手を抜き虚偽の報告をこちらに上げて来ただけなら良かったのだけど、彼らを統括しているハンターズギルドは厳格な組織であり、現ギルド長も現場からの叩き上げで不正を犯すとは考えにくい。

 まぁその分、若干事務仕事が苦手なようだが。


「先日、ギルドに問い合わせて今年に入ってからの魔物の討伐数の統計を出してもらったのですが、やはり去年よりも増えています」

「そういう情報はもっと早く報告してくれると対策も練りやすいんだがな」

「仰る通りですが、彼は脳筋ですからなぁ」


 二人の脳裏に浮かぶのはスキンヘッドでガハハと笑うおっさんの姿だった。


「まあ彼らには引き続き頑張ってもらおう。

 それより気になるのは、7回のうち5回がナンテが畑を作り始めてからだという事だ」

「やはりお嬢様は森の異変を何らかの方法で察知していたのでしょうか」

「精霊の愛し子か。どうやら間違いないようだな」

「はい。お嬢様の魔法は襲撃の回を重ねる毎に洗練されているように思えます。

 それに畑を耕す時に行っている魔力による身体強化。

 元となる肉体がまだ幼いのでそこまでではないですが、それでも強化していない大人に匹敵します。

 数年後には警備隊長を超えるかもしれません」

「それほどか。

 ううむ、我が子の才能が嬉しくもあり悩ましくもあるな」


 精霊に愛されているのもそうだし、それを抜きにしても聡明で優しく正義感に溢れる姿はまさに神の子と言っても過言ではないのではないか! なんて時々親ばか爺ばかを発揮する彼らであった。


「魔物の討伐に関しては引き続きハンターズギルドに頑張ってもらおう。

 それより問題はこれだ」


 机の上に置いてあるのは真ん中で2つに切り分けられたジャガイモ。

 通常のジャガイモであれば切り口は白ないし乳白色だ。

 しかしここにあるものは黄色を通り越して金色になっている。

 この地方では栽培されていないがまるで金時芋のようだった。

 そして見た目だけじゃなく味も果物のように甘く、既存のジャガイモとはもう別物と言って良かった。


「これを普通のジャガイモだと言って売れば大混乱になるのは必至だ。

 誰もがこのジャガイモを探し求め、他には見向きもしなくなるだろう」

「外見に特に違いが無いというのも恐ろしいですな」


 このジャガイモの報告を受けてすぐに急ぎ出荷制限を掛けたので、市場には広がらずに済んだ。

 畑を手伝っていた子供達や警備隊には味を知られただろうが「自分達の手で収穫したから美味しく感じたんだろう」と言い含めてある。


「問題はどこの畑でも同じ結果になるのか、だが」

「すでに3軒の農家に協力を依頼していますので来月には結果が分かると思われます」

「その結果次第で、もう一つの問題の重要性も大きく変わるな」

「はい……」


 魔物の森の活性化に最高品質のジャガイモの収穫。

 これら以上に大きな、爆弾とも言える問題があった。


「魔物の死体を肥料に、か」

「噂が変に出回れば命に関わります」


 例えば『ネモイ辺境伯領の作物は魔物の死体から出来ている』みたいな噂が広がった場合、いくつも問題が発生することが予想できる。

 まず最初にうちの作物が他の領地で売れなくなってしまうだろう。

 続いてネモイ辺境伯は禁忌の暗黒魔術に手を染めたのではないかと言われ、最悪国から軍を差し向けられるかもしれない。そうなれば待っているのは断頭台だ。


「人の口に戸は立てられん。

 ならばこちらから噂を流すしかない」

「どのような噂にしましょうか」

「そうだな……」


 流す噂は大きく2つ。

 1つは魔物の森に関する話だ。

 魔物の森ではハンターが討伐する以外にも魔物同士でも縄張り争いのように殺し合いが起きている。

 そうすると魔物の死体が森の中に残る。

 多くの場合は死体漁りの魔物に食い荒らされるのだけど、ゴブリンのように魔物ですら食べようと思わない魔物の死体は放置される訳だ。

 そこでこんな噂を流してみる。


『ゴブリンの死体が落ちてた場所では薬草がよく育っているらしい』

『ゴブリンの巣だった洞窟には高価なキノコが見つかるってよ』

『ゴブリンが居た場所って不潔なのかなって思ったけど、実際は綺麗らしいな。

 何でも魔物って死んだ後は綺麗に土に還るんだって』


 もう1つは畑に関する民間伝承みたいなものだ。


『昔はよく肥料の代わりに魔物の死体を使ってたんだって』

『えぇ!? それって危なくない? なにか病気とかになりそうじゃないか』

『いやそれがむしろその畑で出来た作物を食べてた頃は病気知らずで今の俺達より長生きしてたって話だ』

『そうなのか。まぁオークの肉とかは普通に美味いし案外大丈夫なのかもな』


 掛け合い漫才のように最初はネガティブだった相方が話が進むとポジティブに変化させることで、近くで聞いている人も自然と納得できるようにした。

 こういった話を夜の酒場で周りに聞こえるようにする訳だ。

 するとそれが家での家族の団らんで話題に上がったり、昼間の商店やハンターの間でまことしやかに話される。

 そして行商人を通じて他の領地にも噂を広げて行けば、話の出どころを特定するのは困難になる。

 そうなればうちの領地で魔物の死体を肥料にしていても「噂の実態を確かめているんだ」と言ってごまかせるだろう。


 領主たちのこの作戦は予想以上にうまく行くことになった。

 その後押しとなったのは村の老人たちの言葉だ。


「なんだ若い者はそんなことも知らなかったのか」

「儂らが子供の頃は当たり前のように討伐した魔物は畑に撒いておったよ」

「まったく最近の若い者は食わず嫌いの贅沢者が多くていかんな」


 このおかげで意外なほどすんなりと魔物の肥料化は特に農村の間で受け入れられることになった。

 また依頼していた3軒の農家の畑では、収穫量の増加のみが確認され、例の金色のジャガイモは収穫出来なかったことから「ナンテの畑が特別」ということで落ち着いた。


「流石我が娘だ」

「ナンテお嬢様は素晴らしい」


 この風潮も次第に領都中に蔓延していくことになるのだった。



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