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13.2度目の襲撃

 畑創りを再開してから1月が経った頃。

 ナンテの願いが通じたのか、遂に魔物の集団が森から出てきた。

 それにいち早く気付いたナンテは急ぎ指示を出した。


「森から魔物が出て来たわ。

 ゴブリンの集団、数は……また多いわね。続々と出て来るわ。50、いや100を超えるかも。

 キーモは狼煙を上げて。サヤンとドーエは街まで走って警備隊に応援要請を」

「「はいっ」」

「残りの子達は下がって投石の準備よ。

 近付いて来たら思いっきり投げつけてやって」

「「がってんだ」」

「警備隊の3人は鍬を持って防壁を乗り越えようとしてきた奴を叩き落してね」

「「了解しました!」」


 子供達はナンテの言葉を素直に聞き、それぞれ行動を開始する。

 この辺りの役割分担は事前に話し合っていたので迷う事も無い。

 その話し合いの時、最初は子供達全員街に逃がそうと思っていたのだけど、子供達自身から猛反対を食らった。


『お嬢は残るんだろ?なら俺達も残るぜ』

『ここは俺達で育てた畑なんだから他の奴には任せたくない』

『今度こそ守ってみせるさ』


 決意に満ちたその顔を見ればナンテもダメとは言えなかった。

 ちなみにサヤンとドーエも最初はここに残って一緒に戦うと言ってくれた。

 でも街に詳しい情報をいち早く伝える役目は必ず必要だ。だからここに居る中で一番足が速い彼らにとても大切な仕事だと言ってお願いすることにした。

 ふたりで行くのは緊張のせいで1人が頭が真っ白になってももうひとりでカバー出来るようにする為だ。


「ナンテお嬢様。私はお嬢様のおそばに」

「そうね。お願いジーネン」


 一通り指示を出し終えたナンテはジーネンと共に防壁中央に用意した何も植えられていない畑に陣取った。

 敵を前にして毅然と立ち向かうその後ろ姿は、警備隊の3人や他の子供達には頼もしく映った事だろう。

 しかしその横に控えるジーネンにはナンテの身体が小さく震えているのが分かってしまった。


「お嬢様。やはり今からでも後ろにお下がりになられては」

「大丈夫。やれるわ」


 前回、初めてゴブリンの群れを迎え撃った時も全然平静では無かった。

 あの時はとにかく一緒に居る皆が傷つかないようにと思って、叱り飛ばすように街に送り出した後、今と同じようにジーネンと2人でこうして立っていた。


「相変わらず凄い殺気ね」

「それが魔物です。特にゴブリンは本能のままに目に付いた生き物を襲うそうですから」


 初めてこの殺気に中てられた時は立っているのがやっとだった。

 だから奴らが畑に足を踏み入れるまで何も出来なかったし、踏み入れられた後は無我夢中で魔力を全開放してありったけのアースニードルを作って吹き飛ばすしかできなかった。

 でも2度目の今回は若干の余裕がある。

 ナンテは鍬を持つ手に力を入れると小さく笑った。


「向こうがこちらを殺す気だというのなら容赦の必要はないわね」

「無論です」


 普通の動物なら子孫繁栄の為に他の生き物を襲うし、人間だって生きる為に野菜も肉も食べる。

 そうしないと生きていけないのがこの世の理なのだから仕方ない。

 文句ならこの世界を創った神様的な何かに言うべきだ。

 だけど全部かどうかは知らないけど魔物は違う。

 少なくともゴブリンは破壊衝動や本能のままに他者を攻撃する。

 倒した獲物は壊れたおもちゃのように捨てるらしい。

 まさに害悪でしかない。


「じゃあまずは挨拶代わりに行くわよ。【ストーンシャワー】」


 ナンテの魔力を受けて近くに山積みにされていた親指サイズの小石が飛び上がり、森から出てきたゴブリンの頭の上に降り注いだ。


「イデッ」

「アダダッ」


 所詮ゴブリンとは言ってもその皮膚は人間のものより堅い。小石程度では致命傷になることは無いだろう。

 でも牽制にはなる。

 走る勢いは衰えるし、もしかしたらこれで森に帰ってくれるかな、なんて淡い期待もしてみたけどそれは無理そうだ。むしろ怒らせてしまったようで目を血走らせてナンテ目指して走ってきている。

 それでも回り込まれる事だけは避けたかったので十分な成果は出せた。


「お嬢様。そろそろゴブリンの先頭が防衛ラインを超えますぞ」

「ええ。もう少し引き付けましょう」


 今日に至るまで若干時間に余裕があったので、防御陣は最初の予定よりも拡張されていた。

 今はこんな感じだ。


□□□□□□□□□□

畑畑畑畑畑畑畑畑畑畑

□□□□畑畑□□□□

□□□□畑畑□□□□

□□□□畑畑□□□□

■■□□畑畑□□■■

――■□畑畑□■――

□□\■畑畑■/□□

□□□―畑畑―□□□

□□□□畑畑□□□□



 堀の前まで畑を伸ばし、更に横一列に耕してここを防衛ラインとした。

 そしてゴブリン達はそのラインを超え、堀の近くまで来たところでナンテは号令を発した。


「みんな、投石開始!」

「「はいっ」」

「【アースジャベリン】」


 みんなに投石による攻撃指示を出しつつナンテ自身も魔法を発動させて自分の足元付近の土を槍状にして射出した。


「ギャアアッ」

「グギイィ」

「グゲッグゲッ」


 先頭のゴブリンが魔法と投石によって倒されていく。

 しかし後続達は仲間が殺されても気にせず前進してきた。


「魔物に仲間意識とかは無いのかしら」

「これだけの数です。司令塔になっている者が居るのかもしれませんな」


 ゴブリンの群れの後方に、若干体格の良い上位種と思われるゴブリンも見える。その中のどれかがそうだろうか。

 なんて冷静に分析している間にゴブリン達はだいぶ近くまで来ていた。

 しかし近づいているのはゴブリンだけではない。


「弓隊、用意。ナンテ様達に当てるなよ。放てーーっ」

ヒュヒュヒュヒュヒュッ


 ナンテ達の後方から力強い号令と共に矢が飛んできてゴブリンの頭上に降り注いだ。

 街の警備隊だ。

 どうやら無事にサヤン達が呼んで来てくれたらしい。


「1班はこのままナンテ様の護衛に当たる。

 2班と3班は左右から挟み込め。

 くれぐれも畑を荒らすなよ!」

「「はっ」」


 30人程の部隊が班ごとに分かれてゴブリンの包囲網を作る。

 ちなみに彼らは前回の襲撃の後に、検分の為に畑を踏み荒らしてしまいこっぴどく叱られていた。

 なので多少回り道になろうとも畑を迂回して走ってくる。

 幸いそれくらいの時間の余裕は出来ていた。

 これで数的にはまだゴブリンの方が多いけど戦力はこちらが上になった。

 とは言ってもナンテとしては誰一人怪我をさせる気はない。

 丁度敵の最後尾も防衛ラインに到達したところだ。


「ここね。【アースニードル】全力展開!!」

ズバババババッ


 ナンテの魔法により防衛用に耕してあった地面から次々と土の針が飛び出し、上位個体を中心にゴブリン達を串刺しにしていく。

 耕していない場所に立っていたゴブリンも司令塔がやられた所為で行動に迷いが生じ、その隙を警備隊に突かれてあっけなく全滅したのだった。



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