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12.畑創り再開

 翌日からナンテの畑創りは再開された。

 その陣容はナンテとジーネン、子供達にプラスして警備隊から3名がやってきていた。

 ナンテはその警備隊員の姿を見てむっとした。


「あなた達、どうして剣など持っているのですか」

「は? いえ、私達は警備隊ですので」


 まあ警備隊としては模範的な回答だ。

 しかしナンテの求めている答えではない。


「質問を変えます。

 剣など持っていても敵を倒す事しか出来ません。

 敵が居ない今、そんなものを持って何をしようと言うのですか」

「それはもちろん警備ですが」

「まさか畑の横で木偶のごとく立ち尽くしている気ですか。

 そんな暇があるなら鍬を持って畑を耕しなさい」

「は、はい!」


 まるで隊長に叱られた時のようにビリビリと腹に雷が落とされたようだ。

 ナンテの喝を受けて3人は慌てて街に戻り鍬を取って戻って来た。

 それを見てようやくナンテはにっこりと笑った。

 そして子供達も整列させた後、近くにあった1メートルほどの岩の上に登り鍬を突き上げていつもの号令をかけた。


「さあみんな。鍬を持て! 鎌を掲げよ!」

「「おぉ!」」


 最初の喝のお陰で警備隊の3人は既にナンテを小さな子供と侮ってはいなかった。

 まるで熟練の農夫のように指示を出すナンテに従い、警備隊の青年たちが畑に溝を掘り、子供達が種を蒔いて土を被せていく。

 そうして順調に1列分を耕し終わったところでナンテはその続きを皆に任せ別の作業を進める事にした。

 何をするかと言えば父親と約束した、次に魔物が森から出て来ても街や畑を守る防壁を作るのだ。


「それでナンテお嬢様。

 どのような防壁を作るのですか?」

「それはですね、まずは魔物迎撃用の畑を作ります」


 前回は通常の畑しかなかったから魔物を撃退するためにはそこに育っている作物を犠牲にするしかなかった。

 だからまず、それとは別に地面を耕しナンテの魔法を発動させられる場所を作る。

 これがあれば魔物が来ても本来の畑に被害は行かなくなる。

 ただその為に広範囲を耕すのは土地活用的にも労力的にも勿体ない。

 守るなら1カ所。

 大量の魔物が来てもそこに集まるように壁を作る。


「まずは簡単な堀を掘って、掘って出た土は手前に盛って、足の速い魔物が飛び越えないように後で杭を挿しましょう。形はこんな感じです」


□□□□□□□□□□

■■□□□□□□■■

――■□□□□■――

□□\■□□■/□□

□□□―畑畑―□□□

□□□□畑畑□□□□


「これなら守る範囲も狭くて済むでしょう?」

「確かにそうですね」

「作る為の資材も杭の木材だけで済みますね」


 畑の前には堀も杭も作らないでおく。そうすることで魔物を誘い込む訳だ。

 人間相手には罠だって簡単にばれるだろうけど、魔物相手なら通用するだろう。


「じゃあ堀は俺が作りますよ」

「そう?じゃあお願いね」


 警備隊の1人が積極的に名乗り出てくれたのでそちらは任せる事にする。

 実の所、彼としては元々実家の畑仕事がしたくなくて警備隊に入隊していたので、ここでまた畑仕事をやらされるよりかは堀を作るなどの陣地形成の方がまだまし、という思いがあった。

 ただ。


「~♪~♪♪」

「……」


 すぐ近くで鼻歌交じりに楽しそうに地面を耕しているナンテを見ていると「あれ、実は畑仕事って楽しいのか?」という気もしてくる。

 一緒に来ていた同僚2人はいつも通り黙々と畑を耕しているのでいまいち実態は分からないが。


 そうして作業を進めて1週間が過ぎた頃。

 最初の畑の面倒を見ていた子供が慌てた様子でナンテを呼んだ。


「お嬢。ちょっと見てくれ」

「あら、何か問題でもあった?」

「いや問題じゃないんだけどこれ」

「……まぁ」


 ナンテ達の目に映ったのは青々と元気よく伸びた野菜たち。

 葉野菜は明日には収穫出来そうだし、ナスやピーマンなどもこのまま大きくなれば沢山実を付けてくれそうだ。

 実に順調に育ってくれていて嬉しい限りである。

 ただ一見してどこにも問題は無いように見えるが確かにおかしな光景だ。


「これは変ね」

「だろ?」


 順調なのが変なのである。

 この場所は最初に耕した畑で、魔物の襲撃前に既に数回野菜の収穫を行っていた。

 ただそうすると当然土の栄養は減って行く訳で、肥料をあまり与えられていなかったので本来ならもっと生育が遅れ出来の悪い野菜になる見込みだった。

 なのにこれは、どう見ても栄養満点の野菜たち。


(もしかして私の見てないところでお父様が肥料を持ち込んでいた?

 いいえ、それなら私が畑に手を入れられたことに気付かないはずがないわ)


 だとすると原因は何か。

 前回の収穫から今回までであった事なんて1つしかない。

 魔物の襲撃だ。

 でも襲撃そのものが土の栄養になったとは考えられない。


(以前コロちゃんは魔力そのものは土の栄養にはならないって言ってた)


 もし魔力を与えるだけで野菜が育つなら農家は全員魔法の修行をするべきだ。

 でも精霊であるコロちゃんがそれは違うっていうんだから間違いないだろう。

 他に考えられることと言えば……魔物の死体?

 確かあの時の魔物の死体はバラバラになってほとんどがそのまま畑に埋められたはず。


「コロちゃん。魔物の死体って畑の栄養になるの?」

『魔物は元々自然の生き物とマナが融合して出来たものだからね。

 元が何かにも寄るけど、大体は死んだ後は土に還るよ』

「そうだったのね」


 それにしても、と思う。

 普通の堆肥は土に混ぜてもそんなすぐに野菜の栄養にはならない気がする。

 もしかしたら魔物の死体って物凄く良い肥料なんじゃないだろうか。

 ただそれを確認する為には魔物を討伐する必要がある。

 森に入って魔物を探すのは父親との約束もあるし出来ないので、向こうから来てもらうしかない。


(早く魔物出てこないかな)


 なんて考えながらナンテはせっせと畑を耕すのだった。



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