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102.クラス分けと挨拶

 入学式の翌日。

 無事にナンテとムギナは同じAクラスに振り分けられることになった。

 揃って教室の中に入れば、流石Aクラスと言うべきかあからさまな視線を向けて来る事は無かった。

 代わりにと言って良いのか、教室の一角が騒がしい。何やらもめ事のようだ。


「何でお前らみたいなのがこのクラスに入れてるんだよ!」

「……!」


 見たところ2人の生徒を前に4人が一方的に責めているようだ。

 他の生徒は無視というか興味が無いように見える。

 それでもああなった経緯は分かるだろうと、ナンテは身近にいた女子に話しかけた。


「おはようございます。あれは一体なんですか?」

「おはよう。見ての通りよ。このクラスに平民が混ざっているのが気に入らないんでしょ」

「つまり責められている方が何かしたって訳ではないんですね」

「そうね」


 お礼を言ってナンテは騒動の渦中へと向かった。

 そして特に気負うことなく声を掛けた。


「おはようございます。

 一体何を怒っているのですか?」

「あん?」


 振り向いた男子はナンテを見て鼻で笑った。


「なんだお前。お前も平民……いや、地方貴族の出か?」

「あらよく分かったわね。辺境伯家のナンテよ」

「貴族は生まれ持った風格が違うからな。

 俺様はコケモ子爵家長男のビティスだ」


 ビティスと名乗った男子は家名を名乗らなったナンテを特に咎める気は無いようだ。

 見たところ悪い奴、という雰囲気ではない。

 どちらかと言うと単純馬鹿の類のように感じる。


「それであなた達は彼らの何がそんなに気に入らなかったの?」

「それはもちろん、こいつらが平民の亜人の癖にここに居る事がだ。

 このAクラスは昨日のテストで上位の生徒が割り振られているんだ。

 亜人のこいつらがここに居られるはずがない」

(亜人?)


 言われて彼らを見れば、なるほど耳の形が若干違う。

 アンデス王国の住民はほぼ1種族で構成されているので、それ以外の種族を亜人と言う場合がある。

 ナンテの義姉のチュリも別の種族の血が混じっていて耳の形が違っていた。もしかしたら彼らと同じ種族なのかもしれない。

 それはともかく。


「この国に他種族を差別して良いという法律は無いわ。

 この学院は貴族で無くても入学金さえ支払えば入学出来るし、昨日のテストは以前から勉学に励んでいた人であれば十分解けるレベルの問題だったでしょ?」

「いやいや、結構難しい問題も多かっただろ」

「結果的にここに配属されたって事は彼らはそれが解けたってことでしょう」

「いいや有り得ないね。何か不正をしてここに居るに決まっている!」


 ナンテの方が言ってることに筋は通っているのだけど、ビティスは認めようとしない。

 どうやら意地になっているようだ。

 高位貴族の子供としてのプライドか。

 とにかく正論だけで諭す事は出来そうになかったのでナンテは搦手を使う事にした。


「えっとビティス君だっけ。

 彼らをそんなに褒めてどうするの?」

「は?褒める?」

「そうよ。だって私は正規の方法以外でここに来れないもの。

 不正が行えるってことは、それだけ特別な才能があるのか、国王陛下や学院長にコネがあるのか、巨額の賄賂を払ったのか。

 やっぱり、どれをとっても私には無理ね。

 でもそれを彼らはやってのけたのでしょう?

 これを褒めていると言わずに何というのかしら」

「いや俺は別にそんなつもりじゃ」

「あーでも確かにそんな凄い子がクラスメイトに居たら気になってつい声を掛けてしまうのも分かるわ。

 でも独占は良くないと思うのよ」

「だからそんなつもりじゃなかったんだって」


 怒っていた筈なのに真逆の事を言われて驚いた隙に畳みかけるように話すことで、ビティスは彼らの才能を見抜いて話しかけていただけという風にすり替えた。

 その驚きが抜けない内にナンテはふたりの手を取って自分の近くに引き寄せた。


「じゃあこの後は私とお話させてね。

 さ、行きましょう」

「あ、おい。……ちっ」


 ビティス達を残してナンテは入口近くの席に行ってしまった。

 残されたビティス達は気勢を削がれて自分達の席に戻っていく。

 そしてそれを見越したかのように先生が教室に入って来た。

 まあ実際、ずっと教室の外で騒動が収まるのを待っていたのだけど。


「みなさんおはようございます。

 私はこのAクラスの担任のイリス・バッケリア23歳独身です。

 先に言っておきますが私は面倒事が嫌いです。決して問題を起こさないように。

 学院内では家の身分は一切関係ありません。もちろん種族や宗派などもです。

 よろしいですね」


 イリス先生のメガネがキランッと光る。

 仕事のできる女性、というよりもキツそうな印象なので、そのせいで男性が寄って来ないのではないだろうかと思うが、誰も怖くて言い出せない。

 というかさっきの言い争いも全部最初から聞いていたらしい。


「ここに居る皆さんは昨日のテストで全科目80点以上を獲得しています。

 恐らく日頃から勉学に励まれていたのでしょう。

 大変すばらしい事です。

 逆に貴族の出で下位のクラスに配属された方の実家には後日監査が入ります。

 と失礼。これはここではいう必要のない話でしたね。

 今日はまず皆さんの自己紹介から始めましょうか。

 名前と、そうですね。特技または好きなものを1つ教えてください。

 では入口側に座っているあなたから」

「はい」


 指名されて立ち上がったのはムギナ。

 ゆったりとお辞儀をすれば教室内から息をのむ音が聞こえた。


「ムギナ・バクガと申します。

 好きなものはパン作りです。

 特技は……いえこれはまだ伏せておきましょう。

 皆様、どうぞよろしくお願い致します」

「よし、全員拍手!」

パチパチパチッ


 ムギナの挨拶が終わったタイミングで先生の号令で拍手が鳴り響く。

 一部の男子は先生が言わなくても拍手していた気もするが。

 続いて立ち上がったのはナンテ。


「ナンテ・ネモイです。

 好きなものはジャガイモ。

 特技は畑創り、特にジャガイモ畑なら大陸に右に出るものは無いと自負しています。

 よろしくお願いします」

パチパチパチッ


 元気の良いナンテの挨拶は先生には好評のようだが生徒たちには失笑ものだった。

 先生の手前、拍手はするけどムギナの時とは温度が違った。


(聞いたかジャガイモだってよ)

(家畜の餌が好きとかありえないんですけど)

(ネモイってあれだろ? 北の貧乏辺境伯。

 最近全然噂を聞かないけど生きてたんだな)

(あれで本当に貴族令嬢? お隣のムギナさんと大違いだわ)

(さっきの仲裁は見ものだったけど、貴族ってものを分かってないだけかもな) 


 などと陰口がささやかれているが、耳の良いナンテにはバッチリ聞こえていた。

 だけど別に気にすることでもない。

 むしろ貴族ならそれくらいで気を揉んでいたらやってられないだろう。

 そして続くのはナンテに連れて来られた平民の2人。


「リックと言います。

 えっと、特技は魔物の討伐、です」

「ミーンです。

 特技は、薬草採集と調合です」


 緊張しながらも何とか挨拶を終えるふたり。

 そこへ先生からも補足がが入った。


「彼らは昨日のテスト、7位と9位の成績です。

 実に素晴らしい。今後も期待してますよ」

「「あ、はいっ」」


 その後も恙なく自己紹介は進んでいき、その後は今後の授業についての説明などが行われていった。



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