作戦会議?
「それではさっそく、スケジュールを、」
「ワーオ!コミック!じゃなくて、マンガ?と、ゲームがいっぱイ!」
部屋に入ってから、ベッドの脇にあるテーブルを四人で囲む。
紙をテーブル上に置いて話を進めて、まさに円卓会議!になるはずなんだけど……。
「ベッドの下には何か眠ってないのかしら?」
「あっ! このゲーム、ワタシが気になってたやつダー。ねっ、ツカーサ、これやってもイイ?」
どうやら、歌恋とミーシャは俺の部屋に興味津々のご様子。それと歌恋、できればベッドの下をそんな念入りにチェックするのはやめてほしいです。って、机の引き出しとかも漁らないで!
別にやましい本などがあるわけでわないが、プライベートというのが俺にもある。
「ちょっと、あなたたち私たちが何のためにここに来たと思って……はぁ、もういいです。司さん」
「は、はい!」
そんな二人に一瞬気を取られたようだが、結芽は溜息をついてこちらに向き直る。
「そんなにかしこまらなくても」
「ご、ごめんごめん。なんか緊張しちゃってさ」
小さな笑みを浮かべて、どうしたものかと言いたそうな結芽。
ダメだダメだ。集中しないと。
「ではまず、司さんが一番苦手な教科を教えてください」
「えー、と。全体的に苦手なんだけど」
「その中でも特に苦手なものは?」
「…………数学、かなぁ」
「なるほど、では、数学を重点的に時間を取っていきましょう」
結芽はそう言いながら、テーブル上の紙にスケジュールを記入していく。
そこには、月曜から日曜日まで分かりやすく枠線が引かれている。各曜日のお昼から夕方くらいまでの時間帯のスペースに、数学という文字が記入される。約四時間といったところか。
「この時間なら、集中して頭に入れることができるでしょう。もうお昼過ぎなので、今日は数学からやっていきます」
「分かった。それじゃあ、あと二つだね」
「はい。現国と英語ならどちらの方が得意ですか?」
「どうしてその二つ?」
「私は数学、ミーシャが英語。そして、歌恋が現国を担当するからです」
という事は、三人で一つずつの教科を担当するのか。なら、三人は各教科のプロフェッショナルという事。本当に家庭教師みたいだ。
「私一人でも教える事はできると思いますが、三人の方が効率がいいと思いますので」
「なるほど」
想像よりも、今回の件について用意周到な様子に頭が下がる。
つまり、今回の期末試験で狙うのは、全教科の内、定番の三教科と言われている、国、数、英の三つなのだろう。
「その二つの内なら現国かな。本当に少しだけなんだけど」
先程とは違い、ここははっきりと答えることができた。
数学と英語は同じくらいにしか思えないが、現国ならまだ少しは出来そうな気がする。
「分かりました。では、朝の時間を使いましょう。現国は明日からです。得意な方であれば一回分抜けたとしても、なんとかなるかもしれません」
「で、でも、大して変わらないとは思うよ?」
「大丈夫です。少しでも可能性があるのなら迷わず選んでいきましょう」
「……うん、分かった」
本当に先生みたいだ。神聖学院の大学生と言われても、頷けるくらいにしっかりとしている。実際そうなんだけど。
こんなに崖っぷちで不安しかないのに、希望が少なからず見えてきた気がした。まだ、勉強自体は始めてないけれど……。
生徒のやる気を引き出させる。彼女は、本当の教職にすごく向いていそうな気がした。
「それと、一教科につき、一人が担当するので、待っている間に過ごせそうな場所が欲しいです」
ふむ。予想はしてたけど、家庭教師が三人ということはやはり、各々マンツーマンで教えてくれるようだ。
小学生、ではないけど、実際三人とも少女である事に変わりはない。子供と部屋で二人きりって大丈夫なのか?
もちろん、変な事をしでかすつもりは断じてない。
「……司さん?」
「あっ、ごめんごめん」
一人で考えていると、結芽がどうしたのかと、顔を覗き込んできた。
「なら、俺の隣の部屋なら空いてるから自由に使っていいよ。テレビもあるし、テーブルも壁に寄せてあるから、出して使って」
「はい、充分です。ありがとうございます」
隣の部屋は空き部屋となっている。
元々は親父の部屋になるはずだったんだけど、必要なものは全部学校の研究室に持って行ったから、今は誰も使っていない。
親父が帰って来たとしても、ダブルベットが置かれている千尋さんとの寝室ぐらいしか使わないようだからもぬけの殻なのだ。
「それでは、こんな感じでしょうか」
全ての記入が終わり、一日のスケジュールを俺にも見せてくれる。
どんな鬼スケジュールなんだろう。
俺の学力を考えた時点で、もはや寝る間も惜しんで勉強しなくてはいけない事なのは、覚悟しているつもりだ。