表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才少女の多才授業!  作者: 桃乃いずみ
Ⅰ 突然の家庭訪問!
7/43

正式な依頼

 

 電話を終えて、再びリビングへと戻る。

 そこでは、千尋さんと結芽たちが楽しそうにお茶会をしていた。子供達は先程同様オレンジジュースを嗜んでいる。

 テーブル上には、千尋さんの手作りクッキーが残り数枚だけ残っていた。


「ツカーサ!おっそーイ!」

「ごほっ!?」


 こちらに気づくやいなや、ミーシャが飛びついてくる。


「司くんもお茶どうぞ。お菓子も食べてください」


 三人も俺に気づき、千尋さんが席を譲ってくれる。


「はい、頂きます。それとミーシャ離れてくれると有難いんだけど」

「ハーイ」


 断る理由もないので、俺もありがたく同じ空間へと混ぜてもらう。俺以外が女性というのは、なんだか少し緊張してしまうな。


「司さん、お聞きしたい事が」

「ん?」

「私たちの件、どうされますか?」


 親父と喋って乾いた喉を潤すために、まずはお茶を頂く。しかし、一口飲んだ所で、不安そうな顔を浮かべた結芽に問われる。


 そうだよな。一服する前に話しておくべきか。ミーシャはともかく、結芽も歌恋もそわそわしたように伺えるし、心配していたのだろうな。


「家庭教師のこと、改めてお願いするよ。やれるだけやらせて欲しい。頼めるかな?」

「……っ! はいっ! もちろんです」


 俺の答えに安堵の表情を浮かべる結芽。

 三人の中では一番落ち着いていて、一際大人っぽそうに見えた彼女だけど、こうして顔に出るところは子供っぽくて、見ているこっちも安心する。


「ふふっ、良かったわね。結芽ちゃん、さっきまで不安そうだったものね」

「そ、そんなことはありません。私よりも歌恋の方が落ち着きがなかったようにも思えますが?」

「だってわたしは、つーくんに断られるかもしれないって、不安だったんだもの。それは当然でしょ?」

「うぐ、そ、それは、そうかもですけど……」

「素直になれない結芽ちゃんとは違うわ」

「なっ!なぜいつもあなたはそう言う事をっ!」


 なんだか急な言い合いが始まったな。あんなにも冷静だった結芽が、今では歌恋の手の上で転がされているような扱いだ。

 もしかすると、三人の中では歌恋が一番やっかいな子かもしれない。とはいえ、歌恋も安心してくれた様子なのは確かだ。ミーシャなんか、バンザイしながら、わーい! と、身体全体で喜びを表現してくれている。

 そんなに嬉しいことなのかな?

 俺はそんな微笑ましい光景を見物しながら、クッキーを口へと運んだ。


「ん! やっぱり千尋さん、お料理上手ですね。すごく美味しいです」

「ほんとうですか? 良かった、気に入って頂けて。また作りますね!」


 クッキーの感想を述べると、千尋さんは嬉しそうに、約束をしてくれた。

 うん。本当に美味しい。お店に並べられてもおかしくない出来だ。絶妙な砂糖の甘さの加減がすごくいい。

 親父と長々と喋ってないで早く戻ってくるべきだったかな。そうすれば、もう少しこのクッキーが食べれたかもしれないのに。


「ふぅ、ご馳走でした」


 そうして、最後のクッキーを食べ終え、お茶を啜る。

 それを待っていたとばかりにミーシャが立ち上がった。


「オーケー! さっそく、お勉強しヨっ!」


 ミーシャは俺の腕をぐいぐいと引っ張って、リビングを出ようとする。

 ……お散歩に出かけたい犬みたいだな。


「早くツカーサのお部屋見てみたいっ。案内しテっ」


 そっちが本命か。

 でも確かに、残り時間のことを考えると、すぐに取り掛かった方がいいかもしれない。

 学園側の条件が三教科だけとはいえ、レベルがレベルだからな。基礎からやることを視野に入れると少しの時間でも惜しい。


「まちなさいミーシャ。まずはスケジュールを決めないと」


 しかし、結芽がそこに割って入る。


「えー、いいよ。順番に教えていけばいいんデショ?」

「そんな単純な話ではありません。ちゃんとスケジュールを組んで計画的にこなさなくては」

「もー、ユメは細かいナ!そんなだから、身長も小さイ」

「それは関係ないでしょ!」


 と、ツッコミを結芽が入れる。

 俺も正直、それは関係ないと思うに一票だな。


「ミーシャちゃん。計画的に進めていかないと、後々大変になることもあるのよ」


 すると、歌恋も結芽側に加わり、ミーシャを説得する。


「スケジュール……」


 確かに、これからの予定を組んでいた方が、やりやすそうではあるよな。

 一日の間でどこまでやるか。決めおけば、当日までに、一通りの基礎から勉強し直すこともできるかもしれない。


「エー、でも」

「ねぇミーシャ。ここは二人の言う通りにしてみよう。もちろん部屋には案内するからさ」

「ウーン、……ツカーサが言うなら」

「うん。ありがとう」


 俺は、やや不本意そうなミーシャの頭を軽く撫でる。

 良かった。素直に言うことを聞いてくれる子で。教えられるのは立場上俺だから、三人には頭が上がらないけど、年齢だけでいえば、俺の方が上なんだし、こういったところで年長者としての役割を務めさせて頂こう。

 そうしないと、これから先、子供に教えられていくなんてやっていける気がしないからな。


「それじゃあ、スケジュール調整は、つーくんのお部屋でやらせてもらおうかしら。勉強もそこで行うのだろうし」


 すると、ミーシャにしがみつかれた方の腕とは反対側に来て、歌恋は手を繋いできた。


「歌恋!あなたまで司さんに迷惑をっ」

「あら。司くんモテモテですね」


 そんな姿に、千尋さんは柔らかい笑みを送ってくる。


「ほら、行きましょう。つーくん、案内をお願い」

「うん。分かった」


 そう言って、リビングの外へと連れ出される。


「あれ?」

「………」


 歌恋の行動を途中から黙って見ていた結芽は、未だリビングで立ち竦んでいる。


「結芽」

「は、はいっ」

「おいで」


 この空気に入りづらそうにしていた結芽に俺は声をかける。

 すると、すぐに彼女は持ってきていた荷物をまとめて、こちらに駆け寄って来る。

 俺が教えてもらうはずなのに、この保護者のような気持ちはなんだ?


「頑張って下さいね。後でお菓子とか持っていきますから」


 椅子に座る千尋さんの呼びかけにお辞儀で応え、リビングを出てすぐの階段を上っていく。

 ミーシャも歌恋も、会って間もないと言うのに、こうして懐いてくれたのは意外だった。案外、第一印象が良かったのかもしれないな。でなければ、こんな風にくっついてくる事も普通では考えられないだろう。

 ただ、その仲に入れずにいる結芽を見ると、申し訳なく思えてくる。もう一本腕があれば二人のように手を繋いであげられるのだが。

 でも、クールな結芽は嫌がるかもしれない。


「ん?」


 ふとそんなことを考えていると、背中越しに服の裾を掴まれていたことに気づく。

 そっと後ろを振り返ると、結芽が空いていた方の手で俺の服を掴んでいるではないか。


「ふふっ」


 どうやら、嫌われているわけではなさそうだ。

 それを知って安心する。約二週間の付き合いとはいえ、コミュニケーションが取れないと、勉強もままならないだろうからな。


 よし! 頑張ろう。

 そう心で呟き、もう一度俺は自分に喝を入れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ