学園長の思惑(2)
「学園長! どういうことですかっ!」
俺は、親父との電話の後、すぐに学園に向かい学園長室へと突撃した。
「おや? 不登校になっていたはずの君が一体何のようだね?」
部屋に入ると、学園長は資料を机の上に広げて書類の内容を確認しながらハンコを押す作業をしていた。
「こう見えても、私は忙しいのだがね」
「とぼけないでください! 親父っ……、篠原教授から聞きました。何で俺だけじゃなく、あの子たちまで巻き込まれなくてはいけないのですか!」
新たに課せられたもう一つの条件、親父から伝えられたそれは、
『篠原司が今回の条件を満たせなかった場合。柳結芽、ミーシャ・クラディール、清水歌恋。以下三名を共に退学にする』
というものだった。
「不満かね?」
「当たり前ですっ! 何で俺の条件が重くなるならまだしも、あの子たちまで被害が及ぶのですか。しかも退学なんて……」
現状がバレた場合、結芽たちにも罰が下る可能性があった事は、ここに来るまでの間で考えていた。
学園側にとって不利益な俺に、彼女達が自ら行動を起こす事は、学園長からしても気に入らないのは充分に理解できる。
だからこそ、新たに科せられた条件は俺にとって最も辛い物だった。クリアの点数が上がるよりもずっとだ。
「確かに、彼女らの学園からの外出は許可されている。ただ、それはあくまで課外学習の一環としてだ。決して、君に勉強を教えるためではない」
学園長のするどい視線が刺さる。
こればかりは仕方がない。よりにもよって、学園長と深い関わりのある、学園理事長である奥さんに、あの現場を見られてしまっていたのだから。
「それは、申し訳ありません。謝ります。でも、あの子達だけは」
「ダメだ。これは決定事項だ。それに彼女たちは篠原教授を通してまで外出届けを出している。つまり、自分たちから君の所に行くことを志願したというわけだ。嘘をつくなど、罰を与えるには十分だと思うが」
ハンコを書類に力強く押しながら、そう俺に言い渡す。
「学園に不利益となるゴミはいらん」
「ゴミって……それはあまりにも!」
「うるさい!もう話す事などないっ!」
「そんなっ、あの子たちの頭の良さは学園長だって知っているでしょう? なのに、何故いらないなどと」
「あんな子供を置いておくなど、本来はありえぬ。私の言う通りに動くことが前提だ。言うことを聞かないただの研究対象など、研究が終了すればもう必要はない」
「研究、研究って、撤回してください!あの子達だって必死になって生きてるんです。それなのに、そんな物みたいに」
「ふん、普通に優秀な子供ならまだ可愛げがあるが、あの三人は異常だ。気味が悪い」
「っ!あなたは、どこまで……」
目の前にいるこの人は、結芽たちのI.Qが上がっている理由さえ判明すれば、いらないとそう言っているのだ。
「まぁ、あれだけの能力があればどこにでも通い直すことはできるだろう」
「……不利益という割には、彼女達を認めているように聞こえますが」
「当然だ。しかし、その能力が持続され続けるのであれば、だがな」
「!?どういうことですか?」
「奴らはまだたったの12才の子供だ。普通ならありえないほどの知識を持っている。しかし、もしその能力が一時的なものだとしたらどうなる?」
「どう、って……」
一時的なもの? あの子たちの頭の良さが一時的なものかもしれないと言っているのか。
「もし能力が失われれば、普通の小学生と同じだ」
「待ってください!あの子達のIQの高さが一時的なものって、確証はあるんですか!?」
「そんなものは無い。私の持論だ。だが、奴らはまだ子供。未成熟の身体であれだけの知識を保有できる事自体、普通の子供に当てはめてみても、メモリーオーバーだ」
「!?」
「そんな危険な状態を維持し続ける事が可能かどうか考えるのは普通だろう。現に今も、奴らの知識量や、頭の良さは増加する一方だ」
「それは……」
確かに、学園長が言う通りかもしれない。
あの子達の能力は、大きすぎる力ゆえ、器である結芽達からしても、無意識に負担がかかっている。というのが学園長の言う持論だ。
言われてみて、初めて気付いた。
「だったら、然るべき場所であの子達の成長を見守るべきでは、ないのですか?」
「もう私には関係のない事だ。期末試験が終われば、今のような居場所はなくなる。学校も、住んでいる寮も退学になれば終わりだ」
「……あんた、それでも教師かよ」
「君にどう思われても構わん。世間から見る私こそが重要なのだからな」
そして、学園長は高らかに笑った。
この空間に響くその声はとても耳障りだ。
「分かりました。話はそれだけです。失礼します」
「おや?あっさりと引き下がるのだな」
最初に話す事はもう無いって言ったのはそっちだろ……。
「こんな所にいるのは、こっちから願い下げです」
「なら、テストは諦めると?」
俺が、あの子たちを守る方法。
この人から守る方法。
この人に刃向かうためには。
「いえ、テストは受けます」
「なに?」
「もちろん、退学もしません。俺は、あんたの出した条件をクリアして、あの子たちを守る。足掻いてみせますよ、最後まで」
「君にやれるのかね? 落ちこぼれの君が」
鼻を鳴らし、余裕の笑みを浮かべる学園長。
「見ててください。天才から生まれた凡人の、逆転劇を」
「なら明日。テストが終わったら、子供らと共にここへ来なさい。担当の先生にこの場で採点をさせよう。そこで結果を出す。君のその表情が崩れるのが楽しみだ」
その言葉を最後に、俺は学園長室を後にした。
「くそっ!」
廊下に出てすぐ、俺は壁を殴った。
詩音のお父さんから習った空手をこんな八つ当たりみたいに使うのは忍びないが、それだけ俺の怒りは治らなかった。
手の痛みなど関係ない。
自分が本当に何の力もないことを実感し、言葉を返すので精一杯だったことが悔しい。
あんな人のもとでこの学園に通うなんて反吐がでる。だが、あの子たちを守るために、俺は学園長に最後まで抗うしかないんだ。
そう決意し、心を落ち着かせてから、帰路へとついた。




