学園長の思惑(1)
「もしもし?」
『司か、俺だ』
「親父?」
なんと、電話の相手は意外にも、俺の親父。篠原修だった。
今までこちらから連絡しても一切出なかったのに。
そんな親父が、朝から何の用だろうか。
「どうしたんだよ急に。今更連絡よこしやがって、約束のテストの日はもう明日なんだぞ」
俺の口調から、相手が親父だと分かったらしく、千尋さんがこちらをふいに見たので、会釈して引き続き対応することを伝える。
千尋さんの話だと、千尋さんがかけた時は毎回電話には出るし、メールもすぐに返ってくるようなのだ。それに引き返え、俺の時はほとんどの確率で手が空いてないだの、適当な理由をつけて出てくれないのだ。
しかし、今日は偶然俺が家の電話に出たから、繋がったのかもしれないな。
『そのテストのことでな。連絡したんだ』
「なんだよ?」
『ちょっとまずいことになった』
「まずい? どういうことだよそれ」
まさか、テストを受ける事もなく、もうすでに学園側が俺の退学を決定したとかじゃないだろうな。
『学園の方に、子供ら三人がお前の所に行ってることがバレた』
「バレた?でも、もともと課外授業として送り出したって」
『まぁな、他の先生とかが相手なら口止めする事はできたかもしれんが、相手が悪かった』
「相手?」
『学園長の奥さんがな。先日お前とあの子らがスーパーで買い物をしているのを見かけたらしい』
「えっ、学園長の……」
俺は、その方と面識があった。
『ほら、お前も入学が決まってから、学園長の家に俺と食事に行ったことがあるだろ? それでお前は顔が知れてるし、あの子らも学園の先生たちの間じゃ有名だからな』
先日というと、千尋さんが町内会の用事に出ていた時か。
そういえば、学園長の奥さんは、うちの学園の理事長を務めていたはずだ。
まさか、よりにもよってそんな人に見られてしまうとは。
『それで、学園長の耳にも入ったらしくてな』
「じゃあ、それが原因って事か」
『ああ、普通に課外学習としてなら二週間くらい問題ないんだが、お前の所に出入りしてるとなれば』
「テストと関係してると思われてるだろうな」
『それに、普段の学園での研究を放っておいて、課外だと嘘までついての欠席。それを見過ごすわけにはいかなかったみたいでな』
「……それで、まずいって具体的にはどういう事だよ」
過程はどうあれ、まずいという事に変わりはない。内容も俺の事ではなく、おそらく子供達についてのはずだ。
それに、俺にも責任はある。
『ああ、実は、学園長が条件を増やすといってきてな』
「条件を? まさか満点を取れとか言うんじゃないだろうな?」
『いや、そういうものじゃない。お前に不利になるような条件ではないな。けど、今のお前からしたら絶対に他人事とはいえないだろう』
「親父は何もできないのか?」
『そうだな。悪いが力になることはできない。俺は今、出張中な上に教授として雇われてる身だからな。口出しはできない』
「……分かった。それで、その増やされた条件って、結局何なんだよ?」
『実はなーー』
その条件を聞いて、一瞬気が遠くなった。
受話器を置いて、こちらを心配そうに見る結芽たち。
俺は、咄嗟に作り笑いを浮かべてから、何も言わずに家を飛び出した。




