非常無情!
結芽と二人きりで腹を割って話したことで、明らかになったお互いの過去と真実。
あれから、二日が経ち、いよいよ明日。約束の期末試験の日がやってくる。
三教科共に、順調にスケジュールをこなし、予定よりも早く進んだことで、多くの時間を復習に当てることができた。
今日はもう、見直しとおさらいをして、徹夜などはせず、いつもよりもさらっと流すような勉強をすることになっていた。体調も万全な状態でないと、せっかく勉強してきた事が水の泡になってしまうからな。
「ハイ!ツカーサ、ワタシのブロッコリーあげる!」
最終日の朝、リビングで俺と千尋さん、結芽たち三人を含めたメンバーで、朝食を食べていた。
そんな中、前に座るミーシャが俺のお皿の上にブロッコリーを乗せてきた。ちなみに、こういった感じのことは今までも何回か行われている。
「こらっ、ミーシャ。またそうやって司さんに押し付けて、ちゃんと自分で食べなさい!」
それを見かねて、ミーシャの横に座る結芽がすぐさまお皿に乗ったブロッコリーを箸でつまみ、ミーシャのお皿に戻してくれる。
「ギャー! 戻ってキター!」
「……ミーシャ。ブロッコリーも苦手なんだね」
「そうみたいなの。トマトとかは平気みたいなんだけど、緑の野菜が苦手みたいで」
俺の隣に座る歌恋が教えてくれる。
「ミーシャちゃんはお野菜が苦手なのね。何か工夫した方がいいのかしら?」
「いいえ、奥様。奥様にご迷惑をかけさせるわけにはいきません。大丈夫です、ちゃんと食べさせますから」
「そう、頼もしいわね結芽ちゃん。でも、これもお料理の勉強にもなるし、お野菜が食べやすいような料理を考えてみるわね」
テーブルに腰をかけた千尋さんも話に加わり、会話が広がる。
数週間前までは、俺と千尋さんの二人だけの食卓だったから、こんなに賑やかなのは新鮮なのだ。
別に、千尋さんと二人の時だって会話をまったくしなかった訳ではない。
そんな冷めた関係でないことは、今までのことを振り返れば一目瞭然だろう。ただ、賑やかだったかと言われたら、自信を持って首を縦に振ることはできないだけだ。
「うぅ〜、残したくない。けど、ンー、ンー?」
ミーシャはお皿に残されたブロッコリーをコロコロと転がしている。それさえ食べれれば完食だというのに、なかなか口に運べずにいる。
いつもなら、苦手なものでも頑張って他の物と一緒に口に入れたり、牛乳ですぐに口直しをしたりしていたけど、ブロッコリーはその中でも一番苦手なようだ。
しかも残念なことに、ミーシャは他のおかずも牛乳も飲み終わってしまって太刀打ちできる物がない。それもあって、余計に口に運べないんだろうな。
「ミーシャ、俺の卵焼きあげるから頑張って」
「ツカーサ!!」
いつもの元気を失っていた彼女だが、お皿に置かれた卵焼きを見て、満面な笑顔を浮かべる。それから、キラキラとさせた目で俺と卵焼きを交互に見た。
本当なら代わりに俺が食べてあげたいけど、それだとミーシャの為にならないものな。
「っ! 司さん、ダメです! そんな風にミーシャを甘やかしてはっ」
ありゃ。どうやら、結芽はお気に召さないようだ。
俺が代わりに食べるという直接的な手助けは避けたつもりだったのだけど、どうやらダメらしい。
「ほら、ミーシャ。司さんに返しなさい!」
「ヤダもーん。もうこれはワタシのだもーん」
「もうっ! あなたって子は!」
結芽は、ほっぺたをぷくーっと膨らます。
……お餅みたいだな。
そして、そこからは、いつもの口喧嘩がスタートした。もうこの状況もだいぶ見慣れてきたけど。
「アー、ンっ」
「あっ!」
ついに、ミーシャは結芽の隙をついて皿の上の卵焼きと、ブロッコリーを同時に口に入れた。
「ムニョムニョムニョ。……ン!はー、ごちそうサマー」
「ほんとにこの子は……。もう次はないですからねっ」
そう言いつつ、ミーシャに出し抜かれてしまう姿を俺は何度も見てるんだよな。
見ててとても微笑ましい。この光景を見ている歌恋の柔らかな表情も含めてな。
「…………」
毎日がこんなに楽しいなら、結芽たちもこのままうちに住んでしまえばいいのに。
千尋さんも喜びそうだし、それに身元引き受け人である親父に頼んだら、何とかなりそうな気がするかど。
最初は結芽たちが、うちに泊まることに多少ドギマギしていたのにな。今では自分からこの時間が続けばいいと思っている。不思議な話しだ。
プルルルルッ
すると、いきなり電話の着信音が家の中に響く。
「あら? こんな朝早くから?」
「あっ、俺が出ますよ」
ミーシャに卵焼きを分けたことで、先に食事を終えた俺が対応しようと席を立つ。
俺は、すぐにリビングの出入り口近くにある受話器を取った。




