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天才少女の多才授業!  作者: 桃乃いずみ
Ⅴ 秘められた過去
28/43

哀しさと食欲と



ーーーコンコン。


結芽(ゆめ)? 」


 俺は、自室のすぐ隣にある部屋の扉をノックする。結芽たち3人が寝泊まりしている部屋だ。

 しかし、返事はない。


「ご飯できたけど、食べれる?」


 現在俺の手には、飲み物とサラダの入った皿とカレーライスが乗せられたお盆がある。

 結芽がリビングに顔を出さないため、食事だけでもと思って個人的に持ってきたのだ。

 こういうことは稀にあることだから、そこまでしなくてもいいと歌恋(かれん)は止められたけど、俺はもはや無関係の立場とは言えない。

 だから、少しでも力になれるのであれば何かしてあげたいと思ったんだ。勉強のお礼とかじゃなくて、俺自身の意思で。

 結芽が部屋に籠ってからしばらくして、千尋(ちひろ)さんが町内会の集まりから戻ってきた。

 その後すぐに夕飯の支度に取り掛かり、今は歌恋達と共に下で食事を摂っている。


「あのな、結芽。今日の夕飯みんなで作ったんだ。まあ、ほとんどは千尋さんが作ったんだけど」


 俺たちも微力ながらお手伝いをさせてもらった。

 ミーシャと歌恋に刃物を持たせるわけにもいかないので、切る工程は俺が担当して、彼女たちはサラダ用のレタスを頑張ってちぎってくれた。

 そうして出来た夕飯は、普段とは違う特別なものだ。千尋さんも心配してくれて、大盛りでカレーを用意してくれたのである。


「このサラダなんかは、ミーシャと歌恋も手伝ってくれてさ。無理にとは言わないから少しでも食べてくれると嬉し……」


 ガチャ。


 途中、扉が少しだけ開いた。

 その隙間からは、結芽の姿が見える。


「……(つかさ)さん」


 か細い声が、俺の名前を呼んだ。

 その目は、少し赤い。普段の結芽からは考えられない姿に俺は息を呑んだ。


「ほらっ、カレー持ってきたんだ。少しでいいから食べないか?」


 手元のお盆を結芽に見せた。


「……お腹、空きました」


 その言葉と共に、結芽のお腹から可愛らしい小さな音が鳴る。

 よかった。よく、食事が喉を通らないというけれど、彼女の腹の虫は正直だった。

 まぁ、このカレーの匂いは食欲をそそられるので無理もない。


「うん。じゃあ、中まで運ぶから扉開けてくれる?」


 そう言うと、結芽は扉を開けて中に入れてくれた。

 結芽たちがこの部屋を使い始めてから、入るのは初めてだな。期間限定とはいえ、女の子の部屋だし、そう何度もお邪魔する機会はなかった。

 見たところ、部屋の様子が変わっているのは、壁の隅に置かれた三つの布団と、テレビの前にあるテーブルが増えた事くらいだろう。

 それ以外で以前と変わったところは見当たらない。

 強いて言うなら、部屋が女の子の部屋らしい香りに包まれたということだ。って、なんか気持ち悪い感想だなそれは。


「あの、こちらにお願いします」


 テーブルに進められ、お盆を置く。


「すぐ並べるから、ちょっとまっててな」

「すみません、食卓にも顔を出さず。あとで先生の奥様にも謝罪を」

「いいって、いいって」


 俺はそう言って、皿を並べていく。

 配膳を済ませると、彼女もテーブルの前に腰を下ろした。


「はい、どうぞ。食べ終わったら部屋の前に置いててくれればいいからね。無理して部屋から出なくても……」


 と、立ち上がろうとするが服の袖を引っ張られる。


「結芽?」


 どうしたのかと思い尋ねると、結芽は眼を伏せた。


「あの、食べ終わるまで、一緒にいてくれませんか?」

「え、でも」

「司さんの顔を見たら、少し落ち着いたので……。今は一人でいたくなくて」

「そうか。分かった。じゃあ、もう少しお邪魔させてもらうね」


 上げ掛けた腰を再び下ろして彼女の隣に座りなおす。


「いただきます」


 結芽はさっそく手を合わせて食べ始めた。

 カレーをすくったスプーンを口へと運ぶ。


「ん、おいしいです」


 そう言うと、少しずつペースを上げながら食べ進めていく。

 よほどお腹が空いていたんだな。こんなことならもう少し早く持って来てあげるべきだった。


「このサラダは、ミーシャたちが?」

「そうだよ。結芽の分は特別に二人が味付けしてくれたんだ」


 味付けと言っても、ドレッシングと胡椒を軽く振りかけた簡単なものだけど。


「変な物は、入ってませんよね?」

「……たぶん」


 ごめん。そこまで注視してなかったから確証はないけど、流石に悪戯好きな二人でも、今はそんな事していないだろう。……おそらく。


「そうですか。…………うん。これもおいしい」

「よかった。どんどん食べな」


 そうして、みるみる内にお皿の上の料理がなくなっていった。



「ふう。ごちそうさまでした」


 あんなに盛られていたお皿をあっという間に完食した結芽は、お腹をさすりながら満足そうな表情を浮かべた。

 その小さな身体の何処にあんな食欲があるのか、正直気になる所ではある。


「よかった。元気になってくれたみたいだね」

「あっ、すみません。心配をおかけして、それに夕食の支度も手伝えなくて」

「いいよいいよ。俺も結芽の気持ち分かるから」

「司さん?」


 ああ。こんな事を自分から話すのは初めてかもしれないな。

 結芽の気持ち、正直すごく分かる。夕飯の前に、歌恋から聞かされた結芽の過去の話。それを聞いて彼女の気持ちが痛いほど伝わった。


 俺は、その時の会話を思い出す。


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