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天才少女の多才授業!  作者: 桃乃いずみ
Ⅳ もう一人の協力者
25/43

お買い物!

 

 あれから一週間以上が経過した。


 その間も俺は、結芽(ゆめ)たちと生活を共にしていた。当然、毎日の勉学に励み、時にはつまづき、笑い合い。本当の家族の様な親しい生活を送っていた。

 三教科の進行状況は今のところ安定しており、現国は、ほぼ完璧だと歌恋(かれん)からの評価もいただいている。残りの時間は期末テストの範囲になるであろう漢字と、親父が送ってくれた過去問の数々をこなしてまとめに入っている。


 数日前、親父から突然、今までこの時期に行われた過去のテストをまとめた問題集が送られてきたのだ。

 口では忙しいなんて言っておきながら、たまに親らしいことをしてくれるのでどうも憎めない。問題集に挟まれていた手紙の内容は相変わらずだったけどな。

 数学も今日でなんとか中間までの範囲内にある公式を一通り習い直すことができた。残りの時間は過去問と、数字を入れ替えた結芽お手製の問題に集中していくことになる。

 要は、この二つは復習に入っていると言っていい。問題は英語、と言いたいところだが、意外にも三教科の中では、英語が一番進んでいる。

 ミーシャの授業の甲斐あって、単語さえ分かれば大体の長文を理解することができる様になっていた。苦戦すると思われた英文の書き取りも、英語を訳せる様になったのがきっかけで、日本語から英語にするのもそれほど苦ではなくなっていたのだ。

 俺はこの一週間でレベルが50くらい上がった様な気さえする。

 とは言っても、それは今回のテスト範囲内だけでの話で、まるで壊れた物をガムテープでの応急処置をしている様なものだ。

 一夜漬けの付け焼き刃と言ったところか。数学の公式だって、数学全体から見たら未だに分からない公式がほとんどだろう。英語も単語が分からなければ意味がないし、現国は文章を読んで解くだけならまだしも、漢字は全くだ。ましてや範囲外の内容を引っ張ってこられた時点でお手上げだろうな。

 まぁ、こんな一時しのぎの体制ではあるけど、今回に至っては結構自信がある。

 俺が登校した日の最終日が、テスト範囲を張り出されていた期間でよかった。その前に退学の宣告をされていたら、範囲すらも分からなかっただろうから。褒められたことじゃないけど、少しだけ安心はしている。

 そして、約束の日まで今日を入れてあと五日。今はやれる事だけをやって、とにかく追い込みをかける期間にいる。

 だけど、


「にんじんと、じゃがいも。あとは玉ねぎですね」


 俺の隣を歩く結芽がメモを片手に商品の確認をしてくれる。


「そうだね。みんなが来てくれて助かったよ」


 俺はというと、カゴの乗ったカートを押すだけだ。


「いいえ、私達は居候させて頂いている身ですから当然です」


 そう、今は町内会の集まりで不在の千尋(ちひろ)さんに代わり、結芽たちと共に近所のスーパーへとお使いに来ていた。


「カ・レ・ー! カ・レ・ー!」

「ミーシャ、あまりひとりで先に行かないでください」


 前方を歩くミーシャは、今日の夕飯の名前を口にしながら嬉しそうにしている。

 その姿は、大変微笑ましい。


「ふふっ」


 歌恋も同じ気持ちなのか、そんなミーシャと同じ笑みを浮かべていた。


 家からさほど離れていないこのスーパーは、いつも食品やら、その他の買い出しで世話になる事が多い。千尋さんは町内会の集まりで忙しいため、夕飯の材料の買い出しに困っていたので、俺から申し出たのだ。

 そしたら、ミーシャが最初に「一緒に行くー!」と言い出して、結芽も歌恋も付き添いでついて来てくれたのだ。

 そんな三人も、今は学校の制服ではなく、千尋さんが買ってくれた子供用の可愛らしい服を着飾っている。

 うちに来てから数日は外に出る機会もなかったので、制服とパジャマのローテーションだったのだが、あった方がいいだろうと千尋さんが買ってきてくれた。

 親父と千尋さんとの間に本当の子供がいないからなのか、すごく楽しそうに千尋さんは結芽たちとの生活を楽しんでいるようだ。

 俺にとっても、本当に妹ができたみたいでこうして一緒に出かけられることは嬉しい。一応、不登校中の身ではあるから、少々外出することに抵抗はあったけど、同地区に住む同世代で神聖学園に通っているのは俺くらいだから大丈夫だろう。


「ミーシャはカレー好きなの?」

「ウン! この世で一番美味しいと思うヨ!」

「おお、そんなにか」

「コレ!このカレーが一番スキ!」


 振り返って、にこーっと眩しいくらいの笑顔を向けてくれるミーシャ。その手には甘口のカレールゥの入った箱が握られている。俺もカレーは好きだけど、そんなに堂々と言い張れる程ではない。


「じゃあ、これも買うか」


 にしても、よくその他の食品メーカーが集う店内で宣言できるものだ。もし近くに他のメーカーの社員さんが、視察にでも来ていたらどんな目を向けられていたのだろう。考えるだけで恐ろしい。

 いくら純真無垢な子供の言った事であっても、その保護者である俺に向けられる視線は、いうまでもない。

 まあ、子供が言うことだから今後の参考ぐらいにしか思われないだろうが、天才が言うとわけが違う。気がする。


「歌恋もカレーは好き?」

「好きだけど、ミーシャちゃんみたいにそう何杯もお代わりはできないわね」


 三人がうちに来てから、毎回食事を共にしているけど、歌恋がお代わりをしていたところは見たことがない。

 結芽も歌恋も、おかわりはしていなかったけど、もしかしたら気を遣っているのかな。育ち盛りならいっぱい食べた方がいいだろうに。


「そんなに食べるのか?」

「はい。カレーに限ってだけは三回ぐらいは余裕でお代わりするくらいです」

「それはすごいな」


 成長期の俺でさえ、一回のおかわりが限界だ。

 よくあんな小さな体に入るものだ。ブラックホールでも飼っているのか?


「本人曰く、カレーは別腹だそうですよ」


 三杯は別腹の域を超えている気がするけれど。


「そ、そうなんだ。じゃあ、普段も別にいっぱい食べるのを控えてるわけじゃないんだね」

「はい! 私たち三人とも奥様の作るご飯には大変満足しています」

「そうね。学校の学食とは比べ物にならないくらい美味しいし」

「そっか、大学からは学食なんだっけ?」


 忘れていたけど、この子たちは天才小学生ではなくて大学生だったな。


「ええ。私たちは寮に入ってるから朝から夜まで全部が学食よ。学費には食費も含まれているから毎回お金を払わなくて済むの」

「へぇー」


 ふーん、学食かぁ。高校ではお弁当だからな。千尋さんの料理はすごく美味しいけど、学食にも興味あるな。

 確か、オープンキャンパスに参加すると、大学の学食が食べれるって聞いた事はあるけど、俺は進学どうこう言ってる場合じゃないからな。

 それに学費のことも気になる。親父の話でこの子たちの両親がいない事は知ってるから、どこからそのお金が出ているのかにも少し興味がある。

 でも、そんな個人的な事聞いていいものなのか。この子たちを傷つけるような事だけは言いたくないし。うーん。あとで親父にこっそり聞いてみようかな。それこそ、この子たちの先生として教えてくれなさそうだけど、現に彼女らの資料を送って来たくらいだからなんとも言えないけど。


「三人は、料理とかしないの?」

「そうですね。簡単なものであれば作れます。レシピを見ながらであればですけど」

「ワタシは食べる専門!」

「わたしも〜」


 2:1か、結芽が料理をするのは、まぁ納得かな。


「だけど、将来的にお母様はわたしのお母さんにもなるわけだから。つーくんのお嫁さんとしては、わたしもあれくらいお料理ができるようにならないと」

「なっ!?歌恋、まだそんな事を考えていたんですか」

「あら? 結芽ちゃんもつーくんのお嫁さんになりたいのかしら?」

「そっ、そんなことは、……………………なくもない、っじゃなくてっ!」


 出会って二日目にあった告白からと言うもの、歌恋はここぞとばかりに、俺へのアプローチを度々仕掛けてくる。

 当初のように強引に迫ってくることはなくなったけど、こんな風に何かとその話題を口にするようになった。

 その度、それを聞いた結芽が歌恋に口論を申し込んでいるのだけど、毎度のことながら歌恋の方が優勢のようだ。

 結芽もそれなりに俺のことを好いてくれているようなので、彼女とも仲良くやれてはいると思う(恋愛とかは置いといて)。


「あっ! 玉ねぎはっケーン!」


 結芽と歌恋が言い合いをしている間に、目的の商品をミーシャがいち早く発見してくれた。


「お、ほんとだ。えらいぞミーシャ」

「エヘヘ〜」


 スーパーに足を運ぶのは久しぶりだったので、商品の配置とかが多少変わっていた。しかし、みんなの力もあってお使いはすぐに済みそうだ。


「えらい? ワタシえらい? ツカーサ!」

「うん。ありがとう」

「ならさ、ならさ! ご褒美に頭撫でて、撫でて〜」


 前にいたミーシャが俺の方へ駆け寄ってきておねだりをしてくる。主人に甘える小動物のようだ。

 俺はそんな彼女の頭を優しく撫でる。


「エへへへ〜。ワタシ、ツカーサに撫でられるの気持ちよくて好き〜」


 三人との生活を始めてから、何度かこうしてミーシャの頭を撫でることはあったけど、本人はなかなかに気に入っているみたいだ。俺に撫でられてもそんな需要は無いと思うんだけど。

 でも、悪い気はしないので喜んでくれるのであればこちらも嬉しい。それに、こうした反応が見れるのも密かな楽しみだったりする。


「あっ! ほら、結芽ちゃんに気を取られているうちに、またミーシャちゃんに抜け駆けされちゃったじゃない」

「わ、私のせいっだって言いたいんですか! そもそも、あなたが変なことを言うからっ」

「別に変じゃないわよ。お母様からの了承は得ているんだから」

「あれは別に歌恋にだけじゃなくて、私たち全員を指してるって、奥様から聞きましたけど!」

「ほらやっぱり、結芽ちゃんも口では興味なさそうなこと言ってたけど、本心ではつーくんといちゃいちゃしたいんじゃない」

「なっ! く、くぅ……。またはめられました」


 結芽は頭を抱えている。

 どうやら、歌恋お得意の誘導トーク術が炸裂したらしい。

 以前、千尋さんから出た「俺の嫁に迎える」という、爆弾発言。それを歌恋は、結芽とミーシャにも話したらしく、本人はそれっきりやる気満々らしいのだ。

 俺の勉強の相手よりも、そっちをやや優先にしてはいないかと心配にはなるが、結芽もそれを阻止すべく、ここ最近での言葉数が増えてる気がするな。

 俺といる時間もなんだかんだ言って、今では結芽が一番長い気が、しないでもない。


「それじゃあ、つーくんがテストで高い点を取った教科の担当が一日だけつーくんを独り占めできるってどう?」

「!?」


 結芽が驚きの表情を顔に浮かべる。

 俺も何を言い出すのかと驚いた。さりげなく、またもや俺を賞品として扱うゲームが始まりそうでハラハラする。


「えー! 何それ面白そー!」


 ミーシャがいち早く、その話題に面白がって乗っかってきた。

 俺は面白いなんて言ってる場合ではない。


「いや、そんな競い合うようなことじゃないよ。とりあえず今回は90点以上の点数を取ればいいんだから」


 これ以上、話しが盛り上がることのないよう、俺も会話へと加わる。もちろん、遠回しにした反論をするためでもある。

 それに、まだ一人。俺には味方になりうる人物が。結芽という常識人が残っているではないか!

 さぁ、結芽も俺が言いにくいような事を代わりにガツンと、


「仕方ないですね。やりましょう」

「結芽!?」


 何故!?真面目な彼女なら助けてくれると信じていたのに……。

 予想外の展開と、それにたじたじの俺へ三人の視線が集まる。


「か、考えておきます……」


 三人の無言の圧力に負けて、なくなく了承してしまった。

 みんな本気すぎて、断るどころではなかった、という言い訳くらいはさせてほしい。


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