退学宣告!?
聞き間違えかと思った。
そんなこと言われるなんて、予想だにしていなかったのだ。
夕日が射し込む静かな教室で、頭が真っ白になる。
「あの、もう一度仰って頂けますか?」
俺はもう一度、目の前に座る学園長へと問いかける。間違いであって欲しい。そう心の中で願う。何度聞いても同じかもしれない。けど、何の前触れもなく告げられたその言葉は、それだけ重かった。
俺は今、学園長室にいる。放課後の鐘が鳴るのと同時に、放送で呼び出されたのだ。
隣には共に呼ばれた担任の水橋先生も一緒だ。彼女も、何を言われたのか理解できないといった様子で固まっている。
「……君には今月を持って、我が学園から退学してもらう」
呆れた顔でため息をつかれ、鋭い目つきで睨まれる。その目はまるで、俺を一生徒としては見ていない。そんな目をしていた。
「ふぅ、本当に残念だよ。篠原司くん」
再び聞かされた言葉は、俺を絶望へと落としていく。
六月十日、月曜日、高校一年の春、俺は現在通っている神聖学園大学附属高校からの事実上の退学を言い渡された。
「そんな……、まだ入学してから少ししか経ってないのに」
勉強をしている時、これが将来に何の意味を為すのか。誰しもがそんな風に思ったことが一度はあるのではないだろうか。
俺もそのうちの一人だった。
「篠原教授の息子だからと今まで目を瞑ってはきたが、君は天才ではなかったようだね」
そう言って、テーブルの上に広げられたのは、この前の中間テストの結果だった。
「現代国語29点。数学15点。英語20点。学園内でビリ、しかも全て赤点以下とは」
頭を抱えながら、こんな数字見たくもないと言ったようにかぶりを振る。
「君の次の順位の子ですら赤点のラインは超えているというのに」
この学園の赤点のラインは60点以下。
それも当然だ。全国でも指折りに数えられる程の進学校。レベルは高い、学生達も天才と呼ばれる秀才ばかりだ。
そんな優秀な人が集まるこの学舎で、こんな絶望的な点数、見たこともないのだろう。
定年が近い校長にとっては心臓に悪いものを見せてしまったのかもしれない。
それは申し訳ないと思わなくはないけど。
「でっ、でも、理科や社会系なら、もう少しマシな点数が取れてたかなー、なんて」
「馬鹿者!! 」
ドンっ!
という机を叩く大きな音が室内に鳴り響く。
「その二つに関する教科も共に30点足らず。それのどこがマシなのだ!」
「うっ……」
機嫌を少しでも取ろうと思い、口にした言葉のつもりだったけど、逆に怒らせてしまった。
そうか。結局、そっちの点数も良くなかったらしい。俺が入学してから小テストを含め、赤点を取らなかった事なんて……。うん、無いな。
思い返してみれば、赤点のオンパレードだったな。
なんとか救済処置や反省文で乗り切れてたと勝手に思ってたけど、それもほんのお情けみたいだったようだ。
じゃなかったら、こんな時期に退学なんて言い渡されるわけがない。いや、冷静に考察してる場合じゃないぞこれは。
「水橋先生。これは君のせいでもあるのではないかね」
すると、校長は俺ではなく、水橋先生に視線を移す。
先生も昨年この学校に配属されたばかりの新人教師。
そんな先生にも俺は迷惑をかけてしまっていたのか。着任してすぐにこんな事に巻き込んでしまって、本当に申し訳ない。
「す、すみません!」
先生は、頭を下げて謝罪をする。いや、決して先生が悪いわけではない。全ては俺の責任だ。
「司くん。我々は君のことを買い被りすぎていたようだ。君のような凡人をこれ以上ここに置いて行くわけにはいかない」
「でも、急に退学なんて言われても」
納得できないということではない。あんな点数を取り続けていて何も無いという方がどうかしている。
ただ、退学を言い渡される程とは思ってもみなかった。普通なら、補修や追加課題などを経てから言われるものだとばかり。
「確かに、いきなり退学させられるのは、君も本望ではないだろう」
「えっ」
お。ほんの言い訳じみたことを呟いたのが吉と出たか。校長の顔色が変わった。
もしかしたら、ここに来て最後の最後で救済処置を与えてくれそうな予感。
水橋先生も意外だと言ったように顔を上げる。
「だから条件を課す」
「条件、ですか」
反省文千枚でも、課題百ページでも、正直成し遂げられる自信はある。
それぐらいの局面を、俺は今まで掻い潜ってきた。
さぁ! なんでも来い!
「来月末にある期末テスト。そこで全科目中三科目でいい、90点以上取ってみせよ。それをクリアできれば退学は無しにしてやろう」
うん、明日から学校休みます。
そうして俺は、不登校となった。