過去の私を消し去りたい2 sideセリーナ
誤字脱字をご指摘いただき、ありがとうございまさした!沢山ありまして、すみません!指定頂きすごく助かりました!
個別にお礼を送ろうと思ったのですが、やり方が分かりませんでしたのでここで。
セリーナ編過去回です。過去編終了です。
今私の目の前には画面越しでしか会えないと諦めていた推しが涼やかな顔で座っている。お茶を優雅な仕草で飲んでいるアルフォンス様に目が離せない。
銀色の美しい髪に長い睫毛に縁取られた切長な輝くルビーの赤い瞳。鼻筋の通った整った端正な顔立ち。高い身長に筋肉で引き締まったバランスのいい身体。
感情の読めない無表情の顔付きなのに、オーラというか威圧感がハンパなく強い。姿を前にすると無意識に萎縮してしまう。
ゲームではカリスマ性のある隙の無い俺様王子なのだが、好感度が上がるごとに少しずつ笑顔を見せてくれるようになる。
因みに難易度MAX! 王城編は少し間違えると殺されたり、拷問されたり、奴隷に売られたりとにかく悲惨なことが起こるのだ。その度にやり直した。
結局クリアする前に死んでしまったのが悔しいが、推しの為だから徹夜で頑張れた。
私にとって非の打ち所がないパーフェクトな推し!
「いきなりサロンに押し掛けてきたかと思ったら、セリーナは面白いことを言うね」
アルフォンス様の口が大きく弧を描く。こんな表情ゲームでも終盤でしか見たことがない。まぁ、最後までクリアできていないから、最終的にはもっと笑顔になるのかもしれないが。
好感度が上がる時も口の端を少し上げる程度しか表情が出ないのがアルフォンス様なのだ。
「荒唐無稽な話かと思いますが、本当ですわ。私には、前世の記憶がございます。アルフォンス様には知っていて頂きたいと思いまして、正直に話したのですわ」
私は悩んだ末に、アルフォンス様に全てを話す決意をしてサロンに乗り込み順を追って説明をした。
私の企んでいた国家転覆の件も含めてだ。
前世の記憶については話さなくてもよかったのかも知れないが、何故普通なら知らないことを知っているのか問い詰められる位なら正直にいこうと決めた。
正気を疑われるかもしれないし、正直に話すのは馬鹿だと思う。これではエリスのことを馬鹿にできない。
だが、推しの為なら馬鹿も結構! 前世のオタクな私が叫んでいる。アルフォンス様に嘘はつきたくないと。
それに私はすぐにアルフォンス様の側から消えるのだ。頭がおかしくなったと思われてもいい。
「不思議な話ではある。ただ私にはセリーナが嘘を吐いているようには見えない。これだけ正直に自ら告白しにきて、その部分だけ荒唐無稽な嘘を吐く意味が分からな。しかし、何故第二王子派との癒着も含め私に告白を?」
アルフォンス様の真っ直ぐな視線が私を捕らえてにキラリと光る。視線だけで、嘘を吐くことを許さないとばかりの無言の圧力が凄い。
「それはアルフォンス様が私の推しだからですわ! 推しの為なら危険だって乗り越えてみせますわ!」
私の言葉が意外だったのか、少し瞳を見開いた。
無表情でずいっと私に身体を近づけてきた。推しの接近に私の顔はみるみる血が上り赤くなってしまう。
「推しというのは何だ?」
「推しというのは......ファンというか憧れと言いますか......とにかく、人として大好きでなんでもして差し上げたくなるということですわ!」
「......それは、嬉しいね。私以外にその推しとやらはいるか?」
「今のところはいないですわ! 私に根付いたオタク魂が訴えていますの、貴方以上の推しはいないと! だから前世生粋のオタクとして、最推しを害そうとした自分自身が許せませんわ!」
「そうか、ならこれからは他に推しを作らないことだ。......で? 本当の目的は?」
頬を蒸気させて拳を握り力説する私に、一瞬ニコリと笑顔を見せて直ぐにいつもの無表情に戻り、鋭い視線を送ってきた。
そう、一瞬とはいえクールなアルフォンス様の笑顔! 鼻血出そう!
「......笑顔! 尊い! っと、萌えてても埒があきませんわ。私がアルフォンス様に全て告白しにきたのはお願いがあったからですわ」
「お願い?」
「えぇ、私と婚約破棄して国外追放してもらいたいのです。アルフォンス様にとっても王国を乗っ取ろうとしていた私と結ばれるのは嫌でしょう?」
「王城の内情を知り、王妃教育を終えて王家の秘密を知る君を他国に渡すわけがないだろう。国家転覆の謀反は処刑に値する、するとしたら処刑だな」
まぁ、予想通り。
けど、まだ死ぬわけにはいかない。
私がアルフォンス様に話したのは推しということもあるが、交渉する目的もある。
王家を敵にまわさない選択をした私は潔く王家側に寝返ることにした。とはいえ、第二王子派と繋がっていたことは恐らく数年以内にバレるだろう。下手したら王国を潰そうと企んでいたことも知られるかもしれない。
アルフォンス様なら他の人よりも融通がきくと踏んでの交渉だ。
「そうですわよね。でも、私はまだ死にたくありませんの。なので交渉したいのですわ。私を国外に逃してくれましたら、このようなものを差し上げますわ」
私は封筒に入った書類をアルフォンス様に渡した。
書類にサッと目を走らせると眉を寄せてこちらに視線を戻した。
「なるほどね。これの証拠を渡す代わりに逃がせということか。聖女様の逃げる先は教会か? まぁ、これを見せられればセリーナが私を裏切るようには見えないね」
「えぇ、私は推しの味方ですわ! もちろん証拠としてはやや足りませんが、私の証言もつければ信憑性は増すはずですわ。もちろん守秘義務の誓約書にも署名致しますし、私を逃してくださいませ」
にっこりと笑顔をつくって真っ直ぐに目を見据えると、アルフォンス様は俯いて肩を震わせ始めた。
クククッと地響きのような声が漏れてくる。私は驚きに目を見開いた。
「クク、グハハ! 面白い! 以前のお綺麗な仮面を被った聖女様より余程魅力的だ! 俺は今まで人に興味が無かったが、今のお前には興味が出てきた!」
鉄面皮完璧王子のアルフォンス様が魔王のような笑い声を出し、ニヤリと底意地悪そうな笑みを浮かべた。
唖然と見ていると、アルフォンス様は席を立ちすぐ側までやってきた。そして、優雅な仕草で私の手をとり、甲に唇を落とした。
紳士的な仕草とは裏腹に顔には悪魔のような笑みを浮かべている。心なしか、口調も変わった気がする。
「婚約破棄も国外追放もしない。お前は俺のものだ。離れることは許さない。大丈夫だ、お前が国外に行かずとも数年の内にお前の目的は達成される。これは最後に使うとしよう」
アルフォンス様がパサリと書類をテーブルに置いて、先程口付けた手を握りしめ身体を寄せてきた。アルフォンス様の美顔が近い。
ただでさえ迫力のある美しい赤い瞳に間近で見つめられると、肯定することしか考えられなくなってしまう。自分の容姿の破壊力をよく分かっていらっしゃる。
拙い、アルフォンス様の威圧と色気が凄くて緊張で頭が回らない。
「わ、私は、裏で人を操り、悪事を働いて......そ、それに第二王子派とも繋がりが......それに、アルフォンス様のよくない噂も......」
思考がついていかずしどろもどろに答える私にアルフォンス様はニヤリと笑顔を作った。悪い笑顔だが、そんな表情も素敵だ。
いつもの王子らしい表情よりも魅力的に見える。
前世の私が叫んでいる。
アルフォンス様が実は腹黒! そんなのゲームに出てきませんでした! けど、それもあり! クール完璧王子に見せかけて実は腹黒なんて、尊い奥行が追加された! 性癖更に増えましたわ!
「だからどうした。お前は悪事の証拠を何も残していない。証拠も無いのに罰することはできないだろう? 第二王子派との繋がりも気にするな。所詮王城内での派閥間の問題で危害があったわけではない。今まで様々な暗躍で自分の手を一切汚すことなく証拠を残さなかったとは、俺は婚約者が予想以上に優秀で嬉しいよ。俺の噂とはルファイナ嬢のことか? 周りの蝿より気にならぬ噂だ」
「でも、私はもともと王家を恨んで......」
「だが、今は考えていないのだろ? 王家は綺麗事だけではやっていけない。清濁併せ呑む事も時には必要だ。王城には白い百合より赤い薔薇がよく似合うと思わないか? 野花が咲いていたら雑草と間違えて刈り取られてしまうぞ?」
アルフォンス様の押しが強い。こんな大好きな推しの押しに抵抗できるオタクがいるだろうか。
私は心の中で白旗をあげた。
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アルフォンス様と話した後日、私はさっそくセヴァン王子の元に訪ねた。
ルファイナの誤解を解いてあげるためだ。
私はルファイナの為に何かできないかと、第二王子派を壊滅させてもいいかアルフォンス様に聞いたらそれは私がすることじゃないと却下された。
「ですので、ルファイナ様とアルフォンス様のことは誤解ですわ。ルファイナ様が東棟に来ていたのは私が毎回呼び出していただけで、アルフォンス様とはほとんど会う機会がございませんでしたの。以前私の言ったことは勘違いでしたわ」
セヴァン王子はにこりと笑顔で対応してくれる。こちらはこちらでアルフォンス様と違う意味で表情が読めない。王城の中央部は曲者揃いだ。
城内の噂位ではなんとも思わないだろうが、私が一度アルフォンス様とルファイナのことをセヴァン王子に直接漏らしたことがあった。私の言葉は流石に信じたようだったから、内心安心したはずだ。
「そうですか、教えて頂きありがとうございます」
目が合うとにこりと微笑みかけてくる。兄弟だけあって美しい顔立ちや髪の色、背格好等もよく似ている。なのに二人の纏う雰囲気は正反対だ。
例えるなら表と裏、太陽と月、昇炎と流水だ。
「いいえ、ルファイナ様が誤解されたままでは可哀想ですもの。私といる時、ルファイナ様はいつもセヴァン王子のことを話していましたよ。余程愛されておりますのね、羨ましいわ」
「ありがとうございます。ですが、ルファイナは私には勿体無い女性です。私が不甲斐ないせいで沢山傷付けてしまいました。もしかしたら、彼女は私の側にいない方がいいかと......」
「そんなこと絶対にありませんわ! ルファイナ様を手放してはだめですよ、お互い傷つくだけですわ! 王城でルファイナ様に危害がおよぶことを懸念されているのでしょうけど、大丈夫ですわ。ルファイナ様は私達にとって妹のようなもの、私とアルフォンス様がお守りするので、何も心配いりませんわ」
力強く訴えると少し驚いたように目を開いて、また直ぐにいつもの貼りついた笑顔に戻った。
アルフォンス様の件もでまかせではない。前世の私を目覚めさせたのがルファイナなので、力になると言ってくれた。
「......兄上が。そうですか、ありがとうございます。母上もルファイナの味方になると言ってくださいましたし、兄上とセリーナ様がお守りくだされば安心です。ルファイナをよろしくお願いします」
「任せて頂戴。そういえば、ルファイナ様を最近見かけないようですわ」
「実はルファイナは体調を崩してここ一ヶ月登城も学園も休んでいまして。公爵閣下からまだ面会の許可が降りないのですよ」
私は記憶が戻ってからアルフォンス様に渡す書類をつくる為に奮闘して他に構う余裕がなかった。後回しにしている間にどうやらゲームのストーリーは変わってきているようだ。
もしかしたら、裏庭でのことがきっかけかもしれない。
悪役令嬢不在はエリスにとっては大問題でもルファイナにとっては悪いことではない。
学園に確認に行った日にエリスが王子を強奪する為にルファイナを悪役に仕立てようとしていると学園中に噂をばら撒いておいた。
本当のことだし、見る人が見ればそうだと分かるのだから信憑性もある。あとはルファイナに同情が集まるように誇張して吹聴しただけだ。
ルファイナを怖がっている生徒の誤解も解くことができるだろう。
ルファイナが休んでいる間に学園の掃除をしようと私は再び学園へと向かった。
「御姉様! 御姉様が何故ベルマール学園におられるのですか! それに、このような人気の無い場所に呼び出して、何をお考えですか?」
「五月蝿いわよ、エルヴィ。いいから、黙ってこちらにいらっしゃい」
エルヴィは眉根を寄せて不快そうな気持ちを隠そうともせず、こちらにやってきた。だが、私が静かに一括すると悔しそうにしながらも逆らうことはせずに従う。
幼い頃からそうなるように裏で躾けてきたからだ。
エメラルドの瞳に淡いグリーンの長髪をサイドに纏め、少し神経質な顔つきに眼鏡をかけた知的な美青年だ。さすが攻略対象といったところだ。
私とは全く似ていない。血の繋がりがあるとはいえはとこだから仕方がない。もちろんエルヴィは私を実の姉だと思っている。
エルヴィの弱点は私だ。ゲームでは私への劣等感の塊でそこを癒し励ましていくことで好感度が上がっていく。
卒業パーティーまであと半年。だいぶ好感度はあがっているはずだ。
「エルヴィ、あなた学園ではずいぶん羽目を外しているそうじゃない。リナリー様が嘆いていたわよ」
リナリー・トゥラン・ラウンド侯爵令嬢はエルヴィの婚約者だ。幼馴染の二人はそれなりに仲が良かったがエリスのせいで今はいがみ合っている。
人気の無い中廊下をゆっくりと歩きながら目的地へと向かう。エルヴィはその後をついてきた。
「私の勝手ではないですか! 貴女に学園の中のことまで指図される覚えはありません! それにリナリーは加害者ですよ! 身分が下のか弱い令嬢を虐げ、過激な虐めをするなど淑女として恥ずべきことです」
「あら、貴方の言うか弱い令嬢とは彼女のことかしら。どこがか弱いのかしら? 男を誑かし、随分強かに見えますわ」
私は裏庭の前で足をとめて人目につかない建物の影を指さした。そちらを見たエルヴィの目が驚きに見開かれる。
ダンとエリスが激しく口付けを交わして、抱き合っている現場だったからだ。制服もはだけて乱れている。情事中に突撃させても面白いかと思ったが、そんな現場見たくもないので止めた。
「どういうことだ、エリス! どうしてダンとそのようなことを!」
エルヴィが怒りに震え、二人の元に乗り込んでいった。二人はまさか見られるとは思っていなかったのか、顔を青くして乱れた服装を直している。
学園にも私の情報源となる生徒は沢山いる。ダンとは裏庭、エルヴィとは離れの図書館で二人きりになっているのは把握済みだ。
今まで何度かしてバレなかったから、油断していたのだろう。
そもそも全年齢向け「王国の可憐な野花」に過激な睦み合うシーンは出てこない。ルファイナがいなくなり、セヴァンとレンの様子が変わり、生徒会まで追い出されたエリスはなんとか二人だけでも攻略しようと焦ったのだ。
多感な年頃の青年達は好意のある女性から誘われてつい流されたのだろう。
「あの! エルヴィ様、これは違うの!」
「エルヴィ! すまない、俺とエリスは愛し合っているんだ! 卒園までには婚約者とも片をつける! 見逃してくれないか?」
エリスの言い訳を遮って、ダンが堂々とエルヴィに立ち塞がる。態度は男らしいが婚約者がいる状態で浮気は駄目だろ。
「何を言っているんだ! エリスと愛し合っているのは私だ! エリス、私達は何度も愛を誓っただろう? ダンと浮気をしていたのか?」
「は? エルヴィと愛を誓ったって、どういうことなんだエリス?」
エルヴィの言葉にダンも顔を赤くしてエリスに詰め寄った。エリスは二人に詰め寄られ、顔面蒼白で言い訳をしようとしているが、現場を見られてはどうしようもないのか口をパクパクしているだけだ。
「浮気を貴方達が責める資格はなくってよ! 婚約者がいながらこのような破廉恥な行為をするとは! 正気を疑いますわ!」
「うぅ......。ダン兄様、信じてたのに......、酷いです......」
背後からの声に次はエルヴィとダンの顔が青く染まる。振り返ると二人の婚約者が睨みつけていた。
リナリーは顔を真っ赤にして怒鳴りつけ、ダンの婚約者で小動物のような可愛さのあるルリーはダンの現場を見てしまったショックでリナリーに支えられながらハラハラと涙を流している。
「何故リナリーがこんな場所に......確かに浮気は悪いことだが、君が過激な嫌がらせをする女性でなければ私だってそんなことはしなかった」
「ル、ルリー......すまない、泣かないでくれ」
エルヴィが睨みつけるリナリーにしどろもどろに言い訳をし、ダンは泣き崩れるルリーにオロオロと狼狽えている。情けないことこの上無い。
「エルヴィ、貴方は何も見えてないのね。リナリー様が尻の軽い男爵令嬢を相手にするわけないでしょう? すべてその男爵令嬢の自作自演よ。もちろん、証拠もありますわ。制服を切り裂いたのも、ノートを破って捨てたのも、池に突き落とされたのもそこの女が自らしたことよ」
私が近づき他生徒の証言書をエルヴィに突きつけると、エルヴィの顔色はますます悪くなった。
エリスがルファイナの代わりに自分を虐める役として選んだのがリナリーだ。だが、気位の高いリナリーはエリスが挑発したところで相手にしない。
ルリーにいたっては下手にちょっかいをかけると自分が虐めているように見えてしまう。
婚約者からの虐めを継続させるには、自作自演するよりなかったのだ。
「エルヴィ様、私は何度も無実を訴えたはずです。なのに貴方は私を信じず、碌に調べもせずそこの令嬢の言うことを間に受けて! 私はもう付き合ってられません! すぐに婚約破棄させていただきますわ!」
「私も......あんなことをしてる姿を見ては......婚約者ではいられないですわ。お父様に言って、婚約破棄いたします......」
二人の令嬢は唖然と言葉を無くしている男達にそれだけ言い残し、去っていった。残された二人は途方に暮れた表情をしている。
「まったく、我が弟ながら情けない。侯爵令嬢との婚姻が我が家にとってどれだけ重要なことか分かっているの? 侯爵様も御父様もお怒りよ、貴方には卒業後神殿に入ってもらうわ。精神を鍛え直してきなさい」
「そんな! 私がいなくなったら、伯爵家は誰が継ぐのですか!」
「あら? 御父様もまだまだお元気ですし、いざとなれば伯爵家の血筋の者を教育を施して養子にすることもできますわ。私の子も三子以降なら養子にできる可能性もありますわよね。どうとでもなりますわ」
ジロリと私が睨むとエルヴィはびくりと肩を震わせた。
私が王太子の婚約者になって一番喜んだのはエルヴィかもしれない。私が爵位を継がなくなったことでエルヴィが伯爵になることができるからだ。
本来なら私が伯爵家を継ぎ、エルヴィは神官長なる為に神殿に奉公に出なければならなかった。
神官長は権威ある職だ。だが、実際は教会の総本山は他国にあるし、この国でも長く支援を続けてきた伯爵家には逆らえない。更に女性禁制の神殿で厳しい修行に耐えなくてはならない。
「そんな......」
エルヴィは絶望の表情で膝をついた。本来は血筋優先だから、婚約破棄くらいでは爵位の継承まではなくならないのだが、父親に手を回し神殿送りの手配済みだ。
「ダン様、貴方にも騎士団長から沙汰があるはずですよ。このようなことをしでかして、近衛騎士になれるとは思わないことですわ」
私が告げるとダンもがくりと肩を落として下を向いてしまった。
呆れた表情で二人を眺めていると、二人の後ろからエリスが声を上げた。
「な、なぜこんなところに悪役令嬢のセリーナ・ロスト・アットムがいるのよ! 途中からゲームがおかしくなったのは全部貴女のせいなのね! 貴方も記憶があるんでしょ? 逆ざまぁをしてくるなんて!」
「御姉様に何ということを! エリス、やめるんだ! 不敬だぞ!」
私に勢いよく吠えてくるエリスに焦ったエルヴィが止めに入ったが、構うことなく責め立ててくる。
「エルヴィ様、ダン様! 悪役令嬢セリーナは国家転覆を目論む悪女ですわ! 裏で闇組織や敵対派閥と繋がっているのよ! すぐに捉えてください! そうすれば私は国に貢献した英雄になれます!」
私を指さして、必死に喚いてるが二人は声も出せずに固まっている。
なるほど、最後は国の英雄になってハッピーエンドなのね。
「エリス・クローバー男爵令嬢といったわね? あなた如きが、誰に向かってそんな口をきいているの? リナリー様におこなった偽造といい、私に向けた不敬といい、このまま貴族でいれると思わないことね。それにこんな醜聞起こしたのですもの即行で退学ですわ」
「何よ! 悪役令嬢のくせに! アルフォンス様にお会いできれば、きっと私の言ったことが真実だと信じてくれて、貴女の罪を暴いてくれるわ!」
「何を馬鹿なことを。不敬罪で拷問しますわよ」
ギロリと睨むとエリスが恐怖で固まった。ゲームをしたなら知っているはずだ。私がどれだけ残虐で恐ろしいかを。
エリスが膝から崩れ落ちて泣き出した。
ゲームの中だと侮って、いつまでも現実と向き合わずにいるからこういうことになるのだ。
私は三人を残したままその場を立ち去った。
ここまで読んでくれた方に感謝いたします。
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誤字脱字があるかもしれません、ご指摘いただきましたらありがたいです。
拙い文章ですが、お付き合い頂ければ幸いです。