第1話
まぶたを閉じていても、わかるほどのまぶしい光をあてられて僕の意識は明確になった。
どうやら寝ていたようだ。
「あっ、ようやく目を覚ましたみたいだね〜。」
とちょうど体の右側から女性の声がしたので、そちらに顔を向ける。
するとそこには、白い貫頭衣を着た金髪女性がニコニコと寝ている僕を見下ろすように立っていた。
年は20代半ばと言ったところだろうか。知り合いではない。
切れ長のひとみ、まっすぐな鼻梁、やわらかそうなくちびるが絶妙のバランスで配置されていて10人いれば10人が美人と表現するだろう。
「名前とか自分の年とか思いだせる?」
と顔に見とれていたせいか何の反応もなかった僕にその女性ははなしかけてきた。
名前?思いだせるってどういうことだ?
「オンダ タクト・・・17歳です。」
そう、17歳の高校2年生だ。
僕がそう答えると女性はほっとしたようだった。
「良かった。意識が戻らなかったから心配したんだよ〜。」
と両手を口元で組んだ。祈っててくれたらしい。
組んだ時に二の腕が胸を寄せる形になった。大きめの貫頭衣でわからなかったが、かなりの大きさだ。
そういえば女性の貫頭衣にばかり気がいっていたが、僕も貫頭衣を着ている。
「ここは?」
女性の胸に意識が行っていたと気づかれないように、上体を起こしながら話題転換をこころみる。
「ここ?ここは神の間だよ。」
おっと、話題転換のつもりが怪しい感じになって来たぞ。
「タクトくんは、ある事故で死んでしまったのです。
でもそれを神様が不憫に思われたので蘇らせてくれることになったんだよ。」
と女性はにこやかに言葉を並べるが、僕の不信感は一気にMAXだ。
「世の中には一杯死んでいる人一杯いますよね。なんで僕だけなんですか?
神の間ってなんですか?どこにあるんですか?
そもそもあなたは誰なんですか?
死んだってなんでですか?
もう少し情報をください。」
と思いつく限りの疑問をぶつける。
「うーん、死ぬ間際の記憶はまだ戻ってないのかな。
名前はすぐに出てきたから、時間の問題だと思うけど。
タクトくんが蘇ることになったのは、そもそも死ぬ予定じゃなかったからだよ。」
死ぬ予定じゃなかった?
「そう、完全に予定外でね・・・」
と、女性は遠い目をしていた。
こいつ、1枚噛んでるな・・・
どうやらこの美人さんは残念系のようだ。
ともかくもう少し情報をもらおう。
「私の名前は※◯※◯。神様の代理です。
タクトさんへの事情の説明とお願いにあがりました。」
突然口調を改めてはなしはじめた。
きかないことには始まらないので、うなずきながら続きを促すことにする
※○※○は伏せているのではなく、純粋に聞き取れなかった。明らかに日本語ではない。
残念なお姉さんなのでこころでは残姉さんと呼称することにする。
「不慮の死を遂げたタクトさんを復活させるため、一旦神の間に運ばせてもらいました。
時間の流れからはずれるため復活に都合がよいからです。」
いろいろ疑問は浮くが、まだ説明は続くようなので、そのまま聞く。
「タクトさんの身体は再構築できて、精神の移植も完了しました。
ただ完全に精神が身体に馴染んでいません。
おそらく精神が一旦死を受け入れているので、そのせいもあると思います。」
「どれくらいで馴染むのですか?」
「個体差があるので、そこはなんとも。ただ完全に定着したらある事象がおこるのでそれでわかります。」
「ある事象?」
「あなたの身体から魂が抜けます。」
「抜けちゃダメじゃないですか。」
「あなたの魂ではありません。他の人間の魂です。」
「は?」
どういうことだ?
「タクトさんの今の身体は0から構築されたわけではなく、その人物の身体がベースになっています。
その人物はタクトさんの死に一因があり、その責任を取るためにタクトさんの身体のベースになってもらいました。
ベースと言っていますが、死ぬわけではなく、タクトさんの精神が身体に定着すれば、その人物の魂が離れるので、それからその人物を改めて蘇生します。ゼロからの蘇生になるので時間はかかるでしょうが、本人はそれでよいそうです。」
僕の死に関わってる人間が、身代わりを申し出てくれたって事か。
責任を取ってそれを申し出てくれたようだし、そのおかげで復活できたのであれば、文句をいうこともないか。本来であれば死んだので文句も言えなかったわけだし・・・。
「そこで蘇生したあなたを元の世界に戻すにあたっていくつかお願いが。」
「なんでしょう。」
「1つは、あなたが今回神によって復活したことを他言しないでほしいのです。」
「約束しましょう。」
即断である。こんなこと馬鹿正直に言ったところで誰も信じはしまい。
「ありがとう。」
と残姉さんはうれしそうに言う。
「あと1つはあなたに肉体を提供した人物の代わりにやってほしいことがあるのです。」
「何をすればいいんですか?」
「それはあなたの肉体にいるもう一つの魂が教えてくれます。話すと長くなるので元の世界に戻ってから聞いてください。」
「その戻ってやることというのは、すぐしないといけませんか?僕もやらなければならないことがあるのですが」
さすがに学校生活を無視してそれだけやるわけにもいかない。
家にも帰らないと親が心配するだろうし。
「それは調整可能です。あなたの同居人もそこは考慮してくれるでしょう。」
と残姉さんは微笑みながらそう答えてくれた。
どうやら条件付き復活というやつらしい。
日常生活は遅れるそうだが、土日や長期休暇がそれに費やされるというもの困る・・・
必要な日数とか聞きたいところだな・・・と思案していると、
「ではサービスでギフトをいくつか差し上げましょう。」
と残姉さんは提案して来た。
「ギフト?」
「そうです。タクトさんと同年代の方が欲している能力をいくつか差し上げましょう。」
む、これはラノベにありがちなやつだろうか。残姉さんと呼んですいません。
「能力とはどんなものがあるんですか?」
「そうですね、身体強化、限界突破、危機一髪、千載一遇などあるのですが・・・、どれであってもあなたの日常生活や代行作業にも役立つものです。」
と残姉さんと僕の間の空間に複数のパネルのようなものが浮かび上がった。
大きさはトランプサイズで数もそれぐらい。
残姉さんは能力の名前を口にしたが、パネルには何も書かれておらずどれも同じに見えた。
「この中から1つ選んでください。それがあなたのスキルになります。」
なるほど任意の能力を選べるわけではないらしい。
どれを選ぶか悩み始める僕に残姉さんは、
「能力を選ぶということは、代行作業にも同意いただくことになりますが、よろしいですか?」
と念を押してきた。
多少の制約はあるが、能力のメリットはでかい。
僕は黙ってうなづいた。
「では、私があなたを元の所に戻す準備をしますので、それが終わるまでにどれか選択してください。」
というと、残姉さんは目を閉じて何かを唱え始めた。
日本語ではないし、僕がこれまで耳にしたどの言語とも違う。時々一つの口から出たとは思えないような音が同時に聞こえる。
少し女性に気を取られたが、準備とやらがいつ終わるかもわからない。早めに選ぶとしよう。
落ち着いて数えると縦横7列ずつの49枚だった。
残姉さんが目をつむっていたので、空中に浮かんでいるカードをかがんで下から見たりもしたが、下からもみても区別はつかなかった。
どうやら本当に選んでみないとわからないようだ。
「ええい、ままよ!」
僕はそう言い、ちょうどど真ん中にあるカードを選んで触る。
するとカードは勝手にひっくり返り、そこにはこう書かれていた。
変幻自在
なんだこれ?
と思った瞬間
”自身の身体を任意の姿に変更できる。発動時間:0 持続時間:∞”
と能力の内容が脳裏に浮かび、カードは消えた。