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朝に起きた不思議なお話を1つ。
12才以下の子どもたちはそっとこのページを閉じてください。
君たちが知るには、少しだけ早いかな……?
「おはよう」
目が覚めると、男の人が挨拶をする声が聞こえる。
「……ん?」
俺は一人暮らしで、合鍵を誰にも渡していない。部屋に俺以外の人間の声が聞こえること自体おかしい。そう疑問には思ったものの、不思議なもので恐怖という感情は全くなかった。
声のする方に顔を向けると、赤い服姿の老人が俺を見てニッコリと笑う。これが、俗に言うサンタクロースってやつだ……見るからにサンタクロースだった。。胸にオフィシャルサンタって刻印のされた金色のバッジも付けている。これは間違いなくサンタクロースだ。
とはいえ今日は1月30日。
サンタクロースが来るにしても遅すぎる。
……ってか俺 今年で30だし。プレゼントを貰う歳ではない。むしろプレゼントを渡す側になっていてもおかしくはない。俺は独身だし、彼女もいないから、そんな機会はなかったけど。
「おはよう、今日は君にプレゼントを届けに来た。本当は12月25日に来たかったのだが、サンタクロース界にも自粛というムードが広がり、1日に移動できる部屋数が制限されていた。やはり、現役の子優先で配っていたから、今日になってしまった。申し訳ないの!」
大変なのはどうやら人間だけではないようだ。サンタクロースも自粛しなければならないって、悲しい世の中だな。
何故 俺がこんなにもサンタクロースのことをすんなりと受け入れているかというと、実は俺、過去にサンタクロースに会ったことがあるのだ」
「9才の頃のクリスマス。いくら子どもの頃の俺でも、これはさすがに分かった。これは父でも祖父でもない。正真正銘 本物のサンタクロースだと。嘘だと思われるかも知れないが、オーラが違う。あれは人間には出せないオーラだ。胸にオフィシャルサンタって刻印のされた金色のバッジも付けていたし。
サンタクロースは実在しない。大人になった人間は、大抵知っている。
……だが、それは嘘である。そう、サンタクロースは実在する。
サンタクロースは確かに大半は、母または父が代わりにやっている。しかし、サンタクロースはいないわけではなく、世界中で選ばれたごく僅かな数人の子どもにだけプレゼントを渡す。選ばれる子は少ないため、選ばれなかった子には代わりに両親がプレゼントをする。
奇跡的に9才の俺は選ばれていたのだ。その時何をお願いしたのかは正直覚えていない。おそらくオモチャかゲーム機かだろうけど。
そのサンタクロースが20年ぶりに俺の家に……? 2回当選はさすがにないだろう……?それに、もう俺は子どもではない、抽選の対象から外れているだろう。
じゃあ、何の用だ? もしや、回収にきた?
サンタクロースが普段何で生計を立てているかは知らないけど、このご時世で、サンタクロース的にも生活費が足りなくなり、かつて恩を売った人間から、お金を貰おうとしているのでは……?
「おはようございます!」
「今日も、いい天気ですね?」
ここは好印象に見せるために最高の笑顔と元気で明るい挨拶をサンタクロースに対しておこなった。