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艶女ぃLIFEは眠れない  作者: メバ
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第4話:挨拶は緊張する

結局『艶女ぃLIFE』に住むことになってしまった僕は、その後無事に大学を卒業して、今、再び『艶女ぃLIFE』の前へと来ている。


今日から、僕はここに住む。

いや、まだ引っ越しも終わってないんだけどね?


午後からの荷物の搬入に向けて、僕は一足先に着いた『艶女ぃLIFE』の前で足を止めてそんなことを考えながら、前回の見学の際にもらった鍵を探し始める。


わかる?見学に行くだけのつもりだったのに、その日のうちに鍵まで渡されたんだよ?

しかも、その日に引っ越しの手配まで津屋さんがやってくれたんだから。


そんなせっかちな人相手に住むのを断るなんて、僕には難易度が高すぎだよ。


ため息をつきながら鍵でオートロックを開けると、郵便受けの前に女性が1人、郵便を取り出しているところに遭遇した。


第1住人との遭遇だね。


「お、おはようございます」

「あら、あなたもしかして、今日からここに住むっていう男の子ね」

その女性は、そう言って僕を見つめてきた。


スラっと高身長のモデル体型なその人は、眼鏡を掛けた美しい顔で僕を見てくるんだ。

年齢は、40代前半ぐらいかな?


そんな美人に見られるなんて慣れていない僕は、ドギマギしながらなんとか返事をした。


「は、はい。芦田幸太と言います。よ、よろしくお願いします」

「そんなに固くならないでもいいのよ。私は101号室の静海(しずみ) 智恵(ちえ)よ。よろしくね。

何か分からないことがあったら、聞いてちょうだい」


そう言って、静海さんは玄関へと入っていった。


あんな綺麗な人が、お隣さんになるんだ。

1人で照れ笑いしながら僕はふと郵便受けに目をやる。

静海さんの郵便受けには物が一切入っておらず、パスワード用のテンキーの横には、しっかりとした字で『静海』と書かれていた。


彼女の性格が表れているのだろう。

良かった。僕は、静海さんの1つ下の郵便受けを見ながら安心していた。


そこあるのは、パンパンに詰まった郵便受けに『あさみ』とひらがなで雑に書かれた名札。

もしこれが静海さんの郵便受けだったら、ギャップにも程があるよ。


そういえば津屋さんが言うには、このアパートには今、5人住んでいるらしいんだ。

僕が、6人なんだって。


1人がオーナー兼管理人の津屋さんで、もう1人が今の静海さんなんだと思う。ってことは、あと3人このアパートに住んでるってことだね。

あー、あと3回、初めましてをしなきゃいけないんだ。

僕にはかなりの負担なんだよね。


またしてもため息をつきながら、僕は玄関へと入っていく。


このアパート、本当に不思議なつくりなんだよ。

玄関から入って目の前にある扉の先には、リビングとダイニングがある。しかも共有の。

津屋さんと出会ったのがここだね。

その話を聞いたとき、僕は思ったよ。2LDKのLDって、もしかして共有なの、って。

それだとどれだけよかったか。それだったら、このアパートを断る理由になったのに。


でも実際には、そうじゃない。ここはあくまで共有のリビングとダイニングであって、各部屋にはまたそれぞれのリビングとダイニングがあるんだ。

・・・じゃぁ、誰がこの共有のリビングとダイニングを使うんだろう。


まぁそれは置いておいて。

玄関から入ると、リビングとダイニングに入る扉を囲うように廊下がそれぞれ左右に伸びてるんだ。

その先には、101号室と103号室、104号室への入り口があるんだ。

それと、その左右の廊下には2階に続く階段もあるんだ。そこから、2階の住人は上がっていくんだ。


前回の見学の時に、2階にも案内されたよ。

ま、2階の説明はまた今度にするよ。それよりも、僕の部屋が問題なんだ。

僕の部屋は102号室。

さっきの説明、覚えてる?廊下の先にそれぞれの部屋の入口があるって言ったときに、102号室だけ、抜けてたんよ。


じゃぁ、102号室への入り口はどこか。

なんと、僕の部屋である102号室は共有のリビング・ダイニングの中にあるんだ。


つまり僕は、何処へ行くにも共有のリビング・ダイニングを通ることになるってわけ。

そんな部屋、誰が住む?部屋を見る前に住むことが決まった僕くらいじゃないかな?


でもまぁ、一応管理人補助って仕事があるから色々と便利になるだろうって、津屋さんは言ってたっけ。

それって、僕にとって、っていうより津屋さんにとってなんじゃないかとは、つっこめるわけないよね。


ここに来て3度目になるため息をつきながら、僕はその共有のリビング・ダイニングへと入っていく。

なんていうか、扉をくくるたびにため息ついてるね、僕。


そんなことを考えながら扉を開いた先には、前回来た時と同様にダイニングテーブルがあった。

前回と違ったのは、そこに3人の人影があったこと。


僕が扉を開くと、その3人がこちらに目を向けた。


「おっ!来たな新入り!」

ワンカップのお酒を片手に、ダボダボジャージの女性が声をかけてきた。

「私は204の朝美。酒谷朝美だよ。よろしくねっ!」

その女性は、若干呂律の回っていない言葉でそう言って手に持ったお酒を一気にあおっていた。この人は、なんとなく津屋さんと同い年くらいかな、なんて勝手に思っていると。


「もう朝美。こんな時間から飲みすぎるんじゃないわよ?」

そう言いながら酒谷さんと名乗った酔っ払いの隣の女性が、こちらへと妖艶な視線を向けた。


「可愛い坊やね。私は愛島あいしまよ。104号室に住んでいるから、いつでもいらっしゃい?」

そう、愛島と名乗ったエロい雰囲気の女性は片手をヒラヒラとこちらに振っていた。

この人は、たぶんさっきの静海さんと同じくらいの年齢かな?


また勝手にそう思っていると、愛島さんがもう1人の女性を手で前に押し出した。

「この子は201に住む吉良きら 詩乃しの


そう紹介された吉良さんは、ただ頭を下げてすぐに再び一歩引き下がっていた。


突然現れた住人たちに面食らっていた僕は、はっと気を取り直して3人を見渡した。


「きょ、今日からこのアパートに住むことになりました。あっ、芦田幸太です。よっ、よろしくおねがいしますっ!!」

よし、今回は噛まずに言えた。そう思って勢いよく頭を下げた僕の頭は、すぐそばにあったダイニングテーブルに備え付けられた椅子のふちに、思いっきりぶつかった。


「いってぇ~~~!」

いくらコミュニケーションが苦手な人間でも、痛いときには大きな声が普通に出るもんなんだね。


僕は頭を押さえながら恥ずかしさに顔を赤らめていた。

初対面でこれは、めちゃくちゃ恥ずいよね。


でも一つだけ言えることがある。

緊張していた3回あるはずだった「初めまして」が、1回で済んだ。

でも、こんな1回と普通の3回だったら、僕は絶対に普通の3回を選んだよ。


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