ラウール無双
氷も凍る男。
??
結果、お父様の膝の上に鎮座してます。
何故か?
ユーリエの雇用主がお父様だから。
私の側仕えですが、主はお父様。お給料はお父様から出てますもんね。
部屋に全力で帰ろうとしたら、
「ユーリエ。まだここに居るように。」
ユーリエ君、足が止まりましたよ。
たった、一言。
お父様の笑顔が怖かった。
「さぁ、レオン。なんだか分かった様な事を言っていますから
次代の当主として、付き合っていただきましょうかね。」
また、何やら失敗らしい。
今後、絶対ビシッと指差しは封印しよう。
場面は、ダイニングルームからリビングへ。
お貴族様の、別棟のお部屋なのでどの部屋も豪華で広い。
けれど、この部屋は個性が無い。
母屋は、あちこちにお母様の趣味が出ている。絵画やタペストリーに花瓶。
どれにもお母様の好みが反映されている。
ここには、それが無い。
侯爵家の第二夫人に相応しい物が飾られた部屋があるだけ。
さっきの食事の食器も同じ。
ただ、貴族の使う上等の食器というだけ。
もちろん、メニューもそう。
お父様をお好きなら、好みの献立を準備するものでは?
何もない。
3人の子供がいるはずなのに、この家はゲストハウスの様だ。
ソファーに座ったお父様の膝には私。
何の罰ゲーム。
もちろん(みちゅげちゅ)発言のせいだよね。
ごめんなさい。
謝るから、帰らせて。
とは、言えない雰囲気。
向かいには、レベッカ様。
隣に座ろうとして
「貴女は向かいの席に。」って言われていました。
残念です。
お父様が、怖いんですけど。
なんだか、見たことない貴族モード。
これは、お母様に言われた蜜月モードとは程遠い感じです。
気絶してもいいですか?
「レベッカ。貴女はなぜユールヴェル家に嫁いで来たか、分かっていますか?」
「ラウール様をお慕いしているからですわ。」
「ほう。私のどこを。お会いした事も1.2度だったかと。」
「リザベータ様の事を一途に思われているところですわ。」
ん?あれ?じゃ他の人好きにならない前提では?
「確かに私は、リザベータしか愛していませんが。」
あの・・・。話が噛み合ってないような。
「あの様に、一途な方なら私も大事にしていただけると。好きになって頂ければ
いえ、私を娶られれば私こそを一途に思っていただけるはずです!」
あら、断言。
「ありえません!貴女は、リザベータではありませんから。」
お父様バッサリ。
「リザベータ様が横取りしたのですわ。」
「あの様に、年が上で他の方との婚約が駄目になった方ですのよ。
王が無理やりラウール様に押し付けられたのでしょう。王命では断れませんものね。」
う~ん。さっき一途に想っている貴方が良いと、言われてましたよね?
「リザベータ様が出てこられるまでは、ラウール様の許嫁は私でしたのよ。
ご存じでした?私が3歳の時に王から勧められた縁談だと聞いております。」
「おじい様やお父様から、いつも聞かされておりました。
ユールヴェル家のラウール殿はお前の許嫁だったと。
本当ならお前が侯爵家の第一夫人だった。
王が娘可愛さにラウール殿に年上の行き遅れを押し付けたと。」
「おばあ様やお母様も、ラウール殿にはレベッカの様な若い、可愛い年下の娘の方が似合うのに。ラウール様と私が並ぶととても似合っていると。」
家族ぐるみで洗脳?
普段、何があっても表情を変えない使用人の皆が蒼くなって2.3歩後ろに引けてますけど
この人、あの満面笑みの楽しそうなお父様が怖くないのですね。
「ラウール様もそう思われるでしょう?」
何を思われるのでしょうか?
フッ。
お父様の笑みが深く黒くなる。
「貴女との婚約の話は聞いていますよ。」
「まぁ、やっぱりそうでしょう。」
にっこりとレベッカが笑う。
「貴女の3歳の城での披露目のおり丁度父が登城していて
『アンドレ。お前の次男は何歳になる?』と聞かれ『6歳になります。』と答えて
『年回りが良いし、このように可愛い娘を嫁にどうだ?』戯れに言われた事がある程度で
正式な婚約でありませんでした。次男ですから婚約など急がなくても良いと我が家では言われていましたし。」
「それにね、レベッカ。」
こわ、怖い。
「はい!」
「貴女のご実家は男爵家でしたね。」
「そうですわ。」
「私が、次男で跡取りでなければ婚約者は男爵家の娘でも良かったのですよ。
でも、兄が亡くなり私が跡継ぎになり事情は変わりました。」
「侯爵家の第一夫人は、伯爵家以上の家柄の第一夫人の娘と決まっているのですよ。」
「貴女は、当主のご寵愛の夫人の娘ですが第三夫人の娘。
始めから侯爵家に迎えても、当主の第一夫人になどなれません。」
「そもそも私に、許嫁などいた事もありませんが。
男爵は娘可愛さに、聞かせるお話をお間違えになったようだ。
レベッカ殿のご実家は、貴族の婚姻の事情にお詳しくないとみえる。」
「男爵家は、噂話もお好きなようで
あちこちで、婚約者をリザベータ様に横取りされた。
娘が大好きだったラウール様との婚約を、破棄されて悲しんでいる。
恋仲の二人を王が引き裂いた。などとかなり噂を流されていました。
ご実家の方々はもちろん表面では、いえ、まさか、ただの噂ですわ。
と否定しながら肯定するという、なんともね。」
「噂が耳に入ったリザベータが気にしましてね。
『ラウール様をお好きな方ならぜひ第二夫人に』と勧められて。
二度目の出産の後で身体の調子を崩した時で、ついリザベータを気遣うあまり
第二夫人を持つことを了承してしまって。後悔しました。」
あ!それ言っちゃうんだ、この人。
「と云う訳で、レベッカ。貴女がユールヴェル家に嫁いできたのは、
リザベータが第二夫人には貴女をと推したからです。
それに、貴女が好きな私は元婚約者だった私。
一度も貴女と婚約した事が無い私は、貴女の慕う男では無いという事ですよ。」
「貴女も、私の子供の母親ですから侯爵家第二夫人に相応しい扱いを
していたつもりだったのですが足りませんでしたか?
男と女の愛情を求められても、初めからあなたにはありませんから。
夫としての愛情は、ご存じの様にリザベータにしかありませんね。
私は、一途なんですよ。」
「それでも、私は家族を大切にしています。
その大切な私の子供に、手を挙げて
貴女は、侯爵家の子供を傷つけた。
子供の母親として大事にしているだけでは足りなかったようですね
娘たちは、母屋に引き取ります。リザベータなら良い母になるでしょう。
貴女は、子供の母親ではなくなりました。」
「レベッカ殿、貴女の私の中での位置付は、侯爵家の子供の母親と言う一点のみ。
その立場でなくなったあなたには、この家での居場所は無い。」
「では。もう会う事も無いだろうが、お身体健やかに。」
「ユーリエ。帰る。」
・・・・・・・・。
お父様に抱かれて、退場です。
ボチボチでんな。