夜更けの親子
おじい様とお父様
前の人生とは、変わってしまった事。年齢・性別・外見。
他にも、性格。前の人生は色々直ぐに諦めていた。望む前からどうせ叶わない。って諦めていて欲望を持つ事さえなかった。背が高くても胸を張って歩けばよかった。前を向いて生きる権利は誰にでもあるのに。猫背で下を向いて、好きになる前に、どうせ誰からも好きになって貰えないからなんて言い訳して、本気で誰かを好きになった事なんてなかった。
折角だから、やり直し人生楽しもうって決めてますが。38年+1年分の人生経験がほとんど無駄だと痛感しています。
でも、赤ん坊ですから。人生経験が何の役に立つでしょう。
寝て、食べて、また眠る。このローテーション。そのうちそのうちと思っても、明日は王都に帰る日です。
もうね、乳児なので何もできないので欲望に忠実に。おじい様にくっつき虫です。
しばしの別れ、目におじい様の渋い笑顔を焼き付けて帰るつもりでおります。
「じいちゃま、じいちゃま。」と張り付いて抱っこ、手つなぎしております。
1番は素敵なのは、朝。おじい様のとなりで目覚める幸せ。理想が隣に、まつ毛が長い寝顔。髪をかき上げる。私に向かってほほ笑む。もぅ、死んでも良いわけない。1秒でも長くこの幸せを堪能したいで~す。
寝る時間が近くなったら、おじい様の書斎にお邪魔してお仕事の邪魔にならない様に長椅子の上でウトウト。お仕事が終わったら、おじい様のベッドに運んでもらいます。姫ではないけどお姫様抱っこで。至福の時間。色っぽい事が一切無いので、難しくなくて楽。抱っこを楽しむ。添い寝を楽しむ。おでこにキスはかなり難易度UP。課題多し。
ウトウトしていたら、お父様が来た。
ん?今日はお父様のベッドかな?
「父上、お邪魔しても?」
「ふむ、もうほとんど仕事は終わっている。1杯どうだ?」
「あぁ良いですね。」
おじい様がベルを鳴らす。
お酒の瓶とグラスが2個、お皿におつまみ。
私は、寝たふり。
「明日には帰るのだな。賑わいっていたので寂しくなるな。」
「今回は、お騒がせしてしまって。」
「良い披露目ができたと思う。ベリンダの事も含めてな。」
「本当にこの披露目の間に、ベリンダの相手が決まると思ってもみませんでした。決める気ではいましたが。まさか、フィリップが相手とは。」
「年が少し上なのは気になるが、他は申し分のない相手。何よりベリンダが惚れている。少し急いで事を決めたが、不満か?」
「いえ、わが娘ながら目が高いと思っておりますよ。」
「いやな、好きなら一緒にさせてやりたいと思ってな。ジルベールの事が思い出されて。」
「父上・・・・。」
「お前は、幼かったから覚えていまいが。あれにも惚れた相手がおったようだったから・・。」
「死んだ後に何度も思ったものよ。年回りも良いと、ジルベールが5歳のおりに婚約させたが早かったのではないかと。」
「婚約が嫌なら、断っても良かったのだ。大きくなればどうして駄目だという事もある。いつも仲良く遊んでいたし、嫌がる素振りも無かった。ただ、妹のようで可愛いと。」
「しかし、貴族の嫡男ならばそのような婚約等当たり前ではないか?」
「そうですな。」
「そう思っておったのに。ジルベールは・・・・。」
「あのように思いつめるほど好きだったのなら、一言・・・いや無理・・・だったか。」
「父上、私がいたからですよ。」
「何がだ?」
「私がリザベータ様は素敵だと言ったから。」
「子供の戯言ではないか。」
「そうですね。あのまま兄上が結婚なさっていれば、私も初恋は淡い思い出になったと思いますよ。『残念貴公子』などと呼ばれずに済んだかもしれません。」
お父様、噂知ってましたか。
「でも、兄上は免罪符を手に入れたと思ったのですよ。」
「免罪符?」
「そうです。兄上はリザベータをお嫌いではなかった。本当に妹の様に思っておられたので婚約を一方的に破棄などできないと思っておられましたよ。」
「私がいなければ、きっとリザベータ様と結婚したでしょう。そして、跡取りの男の子でも生まれれば、その後同じように病いに倒れたでしょうね。兄上は侯爵家の跡継ぎというものを真面目に考えておられましたから。」
「私がいたから、リザベータ様と跡継ぎという立場を譲れば良いと。これで自分は自由になれる。許されると。」
「何を許されるというのだ。」
「想う相手を存分に慕う自由が得られると。心置きなく思う相手に恋焦がれて許されると思われたのですよ。あれは自分勝手な焦がれ死にです!」
「何を!」
「私が5歳の時でしたね。リザベータ様がこの城に来られて。私もその時美しい方だと思いました。あのような方がお義姉になるのかと嬉しかったですよ。」
「でも兄上は、婚約者が来たというのにあまり喜んでいるように見えなくて。つい、美しい優し気な方ですね。あのように素敵な方がお相手なんて羨ましいです。言った気がしますが。その時少し焦点が合っていなかった兄上の眼が、真剣に私を見たのですよ。」
「子供でしたが、兄上のあの時の眼が忘れられないのです。ギラギラした目で私を見て、両肩を痛いほど掴んで、『そうか、私でなくても良いのだ。』と言われました。」
「それから兄上は、事あるごとに跡継ぎとして知るべき事や学ぶべき事などを私に教えてくれるようになりました。父上や母上に知られぬようにです。何が起こっているのか解りませんでした。そして、臥せる事が多くなられて。どんどん痩せて。それでもいつも楽しそうに笑っておられて。」
「そんな兄上が、儚く消えてしまいそうで目が離せなくて怖かったです。亡くなる少し前に側にいた時に言われました。『リザベータ様を任せる。幸せにして欲しい。』と『お前なら。』と」
「7歳に。ひどいですよね。」
「そして『心置きなく死ねる。』と言われて悔しくて、心置きなく生きて下さい!侯爵には自分がなってリザベータ様も幸せにするから、兄君は自由に生きても構わない!と言ったのですよ。母上も父上もきっとそう言うと。」
「生きてて欲しいと。何度も言ったのです。」
お父様の声が7歳のラウールの声に重なる。
おじい様が立ち上がって、しっかりお父様を抱きしめた。
「長く我慢したのだな。言えなかったのだろう。」
「我慢等しておりませんよ。侯爵家の跡取りですから。フィリップが魘されるほどの愛に溢れた手紙を毎日書くほどリザベータを愛しておりますし。多分幸せにしていると、自負しております。」
「ただ今回、ベリンダやフィリップ、ヴィヴィアン様の事などあって、兄上はあのように幸せそうにそうに誰の事を想われていたのだろうと、ふと気になったものですから。」
「焦がれるほど恋し、想うだけで幸せになれる愛しい人か・・・・・・。」
「私のリザベータですな。」
「私のエマかな。」
「ふふ、叶わぬ恋だったのか・・攫って逃げてしまえば良かったのではないか?」
「もう手ひどく振られていたかもしれませんよ。」
「生きているのがつらいほど恋など知りたくないわ。」
「私には何とも・・。」
「まぁ、リザベータ殿はお前との方が幸せである事は間違いなかろう。」
「そうだと良いのですが。」
「さっきは自信ありげであったが?」
「もちろん、幸せに決まっています。レオンも生まれて。益々。こんなことなら他の妻など要らなかった・・。」
お父様何気にひどい。
「レオン!?」
「おぉ、すやすや寝ておる。最後の一夜ゆえ我が部屋で寝かそう。」
「ではな。」
「レオンをお任せしましょう。父上お休みなさいませ。」
ドキドキ。寝たふりセーフ。
明日は、王都に帰ります。
イケメン側仕え&家庭教師がまっているかな?